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パルスオキシメーター98

先日、千葉県の海浜幕張にて、盛大に体調を崩した。

時刻は22時過ぎ。

呼吸をするのが少し苦しい。

受話器を取り、ホテルのフロントまで繋ぐ。

「すみません、パルスオキシメーターの貸し出しとかしていますか?」


受話器の向こうで、
貸し出していません、温度計なら…という声が響く。


僕はパルスオキシメーターはないですか?
となぜか同じことを質問していた。

もう夜だし、病院に行くこともできない。

一体どうしようか、と思った。

この日、1時間ほどの通話をした後、
妙な息苦しさを覚えたのが始まりだった。


なんというか、
50mくらい早歩きしたあとの呼吸の感じ。


数日前から体調も悪かったので、
もしや…と胸騒ぎが止まらなかった。

パルスオキシメーターは、
皮膚をとおして血中の酸素飽和度(SpO2)と
脈拍数を測定するための装置。


もしコロナだった場合、
肺に異常があるケースもあり、
その場合、パルスオキシメーターで測った時の数値が低く出たりする。


1年ほど前、友人で、
コロナに感染して重症化した人がいる。


彼は自宅にてパルスオキシメーターで計測した際、
78とかで、しにかけていたらしい。


78というのは、
トイレに行くだけで息切れがして
倒れ込んでしまうレベルだ。

僕はそんな友人の顔を思い出し、
体感的に、いま「88」くらいじゃないかと予想した。


詰まるような息苦しさはなかったが、
呼吸への違和感が拭えなかったのだ。

僕はもともとあまり身体が強くなく、
会社員時代は月一のペースで体調不良になっていたのだが、
この日のような呼吸への違和感は初だった。


一度気にし始めたら止まらない。


翌朝まで待って病院に行くこともできるが、
どうしても今すぐに行きたかった。

そしてパルスオキシメーターで計測したかった。


用事があって千葉県の海浜幕張という
縁もゆかりもない場所にいた僕は、
とりあえずネットで周辺の夜間病院を調べる。

数件ヒット。

上から電話をする。

「すみません、今から診てもらえますか?
至急、パルスオキシメーターで計測したいのですが…」


もう完全にパルスオキシメーターの
呪いにかかっていた。


呼吸が苦しい。

このまま入院になるかもしれないな、なんてことも考えていた。


電話を切った後、すぐに着替えて一階へ。

タクシーに乗り込み、目的地を告げる。

運転手の甲高い声で勘弁してよ…としんどくなる。

窓を3cmほど開けて、外の空気を吸う。


10分後、夜間病院に着いた。

診察表にササッと記入し、順番を待つ。

呼ばれた瞬間、早歩きで移動し、
先生を前に30秒ほどで症状を全て話した。

「すみません、パルスオキシメーターで測ってほしいんです」


先生は表情を1つも変えず、
冷静に僕を見て、冷静に測ってくれた。


そしてすぐに数値が出た。


僕は心臓をバクバクさせながら、恐る恐る画面を覗き込む。

『98』

98、だった。まさかの。

98というのは、超正常な数値である。

呼吸の苦しさ的に
良くても95くらいかなと思っていたが、余裕で98だった。


「98?!もっと全然低いかと思っていました…」

僕は胸をなでおろした。

先生は終始冷静だった。
僕はずっとテンパっていた。


不思議なことに
『98』という数値を見た後、
呼吸の乱れがスーッと消えた。


全て気のせいだったんじゃないかと思えてきた。


「病は気から」というが、
これはあながち間違っていなくて、
人間の思い込みは凄いなと思った。


僕は自分の肺と呼吸器に
異常が起きてると思い込んでいたが、

実際はパルスオキシメーターの『98』という数値の通り、
何事もなかったのである。


それからタクシーを呼び、
何事もなかったかのように帰った。


往復の交通費と夜間の診察代で
計5700円が飛んだが、

我々の思い込みのパワーを体感できたのは
貴重な経験だったと思う。


−ブログやメルマガに書くまでもない話
(by 20代起業家)

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