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2月のこと2・国々事

2024年2月の国々のこと。
右体にて、もっと詳しく個別に書くつもり。

選挙の年

 選挙がたくさん。

 アメリカ大統領選にまつわる動向をみたあと、世界の主な選挙を少しだけみる。

 まずアメリカ大統領選挙について。

 トランプvsバイデンの構図は固まりつつある。27日にミシガン州予備選でトランプが勝利を確実にし、初戦アイオワから6連勝中であるためだ。先月に引き続き焦点はトランプの刑事告訴の可能性である。

 3月4日に予定されていた大統領選挙不正疑惑の裁判は予定を余儀なくされた。「大統領は在任期間中の行動については刑事責任を免責される」との主張による引き延ばしが決まった格好だ。この「免責」をめぐる論点のために4月22日に口頭弁論が行われる予定で、それまでは問題の公判手続きは停止となっている。民主主義の根幹にかかわりもっとも大統領選にかかわるこの問題をこのまま11月まで引き延ばす狙いだ。

 それでも、不動産の不当評価の民事訴訟判決にて、16日、トランプに3.5億ドルの支払い命令が下り、3年にわたってNYの会社役員に就くことが禁止されるなど、金銭面ではダメージも食らう。しかしこれがどれほど選挙の資金面に響くかは分からない。

 26日、共和党全国委員会の委員長で、次第にトランプとの対立がはっきりしてきたロナ・マクダニエルが退任することが発表された。トランプによる圧力が影響したとみられる。トランプは、後任に現在側近のマイケル・ワトリーを推薦しており、この人物は、トランプの根拠なき「選挙不正」主張に同調してきた。共和党内での影響力をほとんど確実にしていることがうかがえる。誰も止められない。

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 1日、台湾の立法院の院長に国民党のハンクオユイ氏が選出された。実質的な権限はないものの、親中派であることから緊張関係は生じている。14日、金門島東方で不法操業の中国漁船が転覆し二人が死亡したことをめぐって、台湾、中国双方が批判を表明している。何か出来事があればそのたびに表明合戦がつづいてきたし、続くだろう。これがどれくらいの重みをもつものだろうか。

パキスタンの下院選挙が8日に。
 シャリフ派のナワズ・シャリフ氏が4回目の首相を目指していた。前首相カーン氏は汚職で投獄され、カーン氏が組織していた正義運動PTI派は無所属で出馬することを余儀なくされていたのだが、これが93議席で過半数を取ってしまう。そのためシャリフ氏は人民党と連立政権を組むことを選んだ(シャリフ派75議席、人民党54議席)。

 インドネシアにて大統領選挙を含む複数選挙の同日実施が14日。
 プラブウォ国防相が当選を確実にした。現在は表面化することがないが、彼はスハルトの娘の元夫で、1990年代後半の民主化活動家の拉致事件など人権侵害にかかわった疑いがもたれたことがある。このことから権威主義体制への揺り戻しが懸念されてもいる。

 現職ジョコ大統領は、光速度鉄道などのインフラ整備や首都移転計画などを推進し、年5%の経済成長を実現するなど、先進国入りに向けて邁進してきた(二期・十年)。インドネシアは2023年から2035年ごろまで人口が増加しつづける見込みで、その分経済成長には「人口ボーナス」が期待されるため、今後十年、存在感を増していくことは必至。反民主化的傾向があらわれたとき、それが経済へとどう影響するか。

 選挙での過労から84人死亡(!)、4500人が体調不良になっている。複数の選挙の同日実施で、雇われた一般市民は連続30時間の長時間労働をした場合もあるという。2019年の選挙では722人が死亡(!)したため、55歳の年齢制限をかけ、事前の健康診断を施したにもかかわらず、こうした事態となった。

エルサルバドルにて4日に大統領選。ブケレ大統領の再選が確実となっている。「独裁者」を自称する強硬派で、犯罪およびギャングの一掃のために治安改善を強化した。年の殺人事件の件数は6600から154へと減少。不当な逮捕や逮捕後の扱いなどに人権問題はありつつも国民の支持率は9割にのぼり、選挙でもほぼ同程度の得票率。ビットコインを法定通貨にするなどの改革も

 先月、選挙危機の重大要因として挙げた「AIなどによる誤・偽情報」について。IT企業大手の20社は有害コンテンツの検出にかんする技術の協定を16日に結んだ。選挙妨害を想定し、投稿をモニタリングする「コンテンツ・モデレーション」の強化、生成画像へのラベル付けなどである。

中国からみるか、米国からみるか

 インドネシアにおけるインドネシアにおけるごとき「人口ボーナス」が終わったタイミングに差し掛かっているのが今の中国である。不動産不況とデフレ状況が経済成長にブレーキをかける。2021年の秋から経営難に陥っていた恒大大集団に、1月29日、香港の高等法院から「清算命令」が下った。もっともこれは事業を続けながらの債務を返済を規定し、最終的な会社の存続を視野に入れたものであって、破綻ではない。経営難の背景に不動産の不況がある。土地の売却が過去二十年で150倍に膨れあがり、2021年の住宅販売額は16.3兆元=340兆円まで拡大したわけだが、これがこの二年ほどで不況へと転じて、販売額は全体で二割ほど減っている。地方政府はこの「開発計画」の拡大によって利益を得ていた背景から、不況は地方政府の財政難へと直結しもする。公務員の給料が半年も未払いになっているばあいがあるとの報道が出ている。また、同時に開発計画の中止が相次いで4年間で2億平方メートルもの土地が工事途中で放置され「廃墟化」。

 こうした事情もあってか中国はデフレ傾向。というか、激烈な経済成長が止まって小さく停滞が巡ってくるようになったということか。消費者物価指数が4か月連続の低下をみせ、1月についていえば前年度比0.8%の低下。食品に限れば5.9%の低下と著しい。

 それでも、1月30日、IMFが発表した「世界経済見通し」によると、世界の実質成長率(見込み)は3.1%。米国が2.1%、ユーロ圏が0.9%、ドイツが0.5%、日本が0.9%に対して、中国は4.6%を誇る。5%を切って「低成長」と言われるものの圧倒的な伸び。

 前回もみたように、この中国にたいしてアメリカがどう関係するかを理解する必要が大きい。アメリカの最大輸入相手国は2009年から一貫して中国でありつづけたが、2023年はメキシコがこれを上回った。トランプ前大統領が中国に対して、2017年から3700億ドルもの追加関税をかけてきたことがかたちとなってきたか。ふたたび大統領に就任すれば60%の関税をかけるとの放言も飛び出す。

 この大国ふたつの関係について言えば、共産党政治局員県外相の王毅(ワンイー)が米国の要人を相手どった二度の会談が注目に値する。

 王毅は、1月26,27日にバンコクにてサリバン大統領補佐官と、2月16日にミュンヘンにてブリンケン国務長官と対談を行った。米国は中国の対外姿勢について懸念点を示す。海運をかく乱するフーシについて、イランへ圧力をかけるよう要請したことに加え、ロシアに対して軍事援助を行っていることに「懸念」を表明した。また、双方協力的な対話点もある。米国に近年跋扈するオピオイド系の合成麻薬「フェンタニル」の規制のための作業部会を開くことで合意したこと、今春にAIに関する政府間対話の機会を設けること。

 フェンタニル規制をめぐる作業部会は1月30日から31日にかけて北京にて行われ、フェンタニルの材料となる物質の流通・輸出に対処するための法執行機関の連携強化で一致した。アメリカで社会問題化しており、中国で原料が製造されている関係。

 フェンタニルは強力な鎮痛作用から末期がんの疼痛緩和などに使われるもので、効果はヘロインの50倍とされ、一般的な致死量は2ミリ。不適切な長期間使用で身体に耐性がつくためにオーバードーズが頻発している。1999年から2021年までに64.5万人が過剰摂取で死亡しており、死者が急増したのは2013年頃から。

 そもそも、オピオイドそのものは、90年代半ばに「オキシコンチン」という半合成オピオイドががんの痛みに限らず日常的な痛みに処方されるようになったことで依存症者を増やした。より安価かつ強力なフェンタニルは、処方箋ありの薬が高額であることも手伝って10年代に急速に普及していった。

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 日本には日本の、米国には米国の荒廃の形態。

 オピオイドについてのドキュメンタリーにして、第79回ヴェネチア国際映画祭金獅子賞をとった映画、ローラ・ポイトラス監督『美と殺戮のすべて』が、日本では3月29日に公開になるらしい。

 アメリカはどこへ向かうのか。

戦争/反戦とは何か

ガザ侵攻

 29日ガザ保険省の発表による戦闘開始からの死者は3万35人、負傷者は7万457人を数えた。1日時点での死者は2.7万人だった。

 7日にハマスからの停戦条件を「妄想」として拒絶したイスラエルは、9日にラファへの地上侵攻とハマスの壊滅、そして「住民避難」の計画を指示した。実際どこにも移動などできないわけで「非難」は方便、事実上のせん滅、完全な民族排除であるとみなすべきだろう。12月から続いていた侵攻によりハンユニスは1日時点で荒廃しているとみられており、15日には南部最大の病院、ナセル病院に突入したことで5人が死亡した。3500人が滞在していた。これ以後、イスラエル軍は、最南部ラファへと進軍へ。4日にはラファの幼稚園が攻撃を受けて子ども2人が死亡。

 この進軍を受けて最南部ラファには避難のため人口の半分以上が押し寄せ、極端な過密状態になっている。下旬からは食料不足、支援物資の不届きなどが報道で表面化してくる。19日、国連世界食糧計画(WEF)は、数週間にわたり支援物資が届かない影響で2歳未満の子どもの6人に一人が深刻な栄養失調に陥り、ラファでは5%が栄養失調の危機にあると発表。23日には二か月男児が餓死したことを発表。27日には国連人道問題調整事務所(OCHA)が「餓死まであと一歩」の状態にあるのは人口の約4分の1にあたる57.6万人に上ると発表した。水は戦闘前の7%しか供給されず、衛生も限界にある。3月の1日には栄養失調と脱水症状で子ども4人が死亡し、計10人を数えている。

 29日、支援物資を求める市民が殺到して100人以上が死亡し、イスラエル軍の攻撃が疑われている。これを受けてバイデンは積極的な姿勢をアピールしつつ支援物資投下を宣言。2日に3.8万食がガザへ投下された。

 こうした支援の不足については、ハマスのテロにUNRWAが関与した疑いが浮上したことが一つには大きい。1月31日時点で27か国のうち13か国が拠出を停止してしまった。10日、諜報関連の施設が見つかったことを受けて、16日イスラエルは、奇襲に積極的に関与した職員12人を公表。UNRWAの人道支援にもはや正統性がないことをアピールした。

 関係国はどのような動きをみせているか。

 11日、エジプトがラファでの作戦に「反対」声明を出した。「人道的大惨事の悪化」の可能性を懸念。ガザ地区とエジプトのあいだには訳14キロのわたる緩衝地帯が「フィラデルフィア回廊」と呼ばれてきた。イスラエルはこの回廊がハマスの武器密輸ルートになっていると主張してきており、それが侵攻の理由付けになってもいるのだが、エジプトはこれを1月22日に「明確に嘘」として、イスラエルの強引な姿勢に警告を出してきた。そのうえ15日には「緊急対応計画」として避難場所を用意している模様があきらかとなった。  

 アメリカはどうか。16日「地上侵攻をしないことを期待している」26日「停戦の準備がある」とはバイデンの発言。人質救出のために少なくとも6週間の停戦が必要であることをこれまで一貫して示してきたバイデンは、3月4日を具体的に指定して、停戦に動いているかとみられた。

 3月3日にはカイロにて停戦交渉が再開する。すでに停戦期間や人質の解放については合意に達しているとみられ、イスラエル軍の撤退や住民の帰還について問題が残っている模様。

 さて、反米、反イスラエルの諸勢力の動き。

 1月28日、ヨルダン米基地が攻撃され死者三人。米国家安全保障会議はこれをカタイブ・ヒズボラ含む親イラン「イラクのイスラム抵抗運動」によるものと31日断定し、2日には早くも報復攻撃をした。イラク・シリアの7施設85か所を標的にしたもので、イラクで16人、シリアで18人が死亡している。さらにイラクのヒズボラ司令官を殺害したとの発表が7日に出される。シリア作戦を主導するウィサム・アルサアディである。

 米英のフーシ基地に対する攻撃も継続する。3日には米英で36か所を攻撃。国連安全保障理事会で非難決議が出されながらも、昨年11月から30回以上連ねられている。2月中旬ごろ、フーシの攻撃により初めて貨物船が沈没した。燃料および2万トンを超える積み荷の肥料が流出して、海の汚染が懸念される。海運の混乱がより明確になっている。

ウクライナ侵攻/ロシア戦争経済

 去年の反転攻勢で領土の奪還がなせていないウクライナへの支援金は滞りつつあり、着実に疲弊している。人口4200万のうち、648万人が国外避難、369万人が国内避難しておりおよそ4分の一が帰還のめどのない避難生活をおくる。国別の避難民受け入れは、ドイツ113万、ポーランド95万、チェコ38万、英国25万の順で、ロシアにも121万が避難している。25日、ウクライナはこの二年間の死者を初めて明確に発表し、「3.1万」とした。ロシアの兵死者を「18万」として、健闘をアピール。

 支援金の滞りは、アメリカ議会の渋りと、EU議会の混乱に由来するところが大きい。ウクライナ支援に非協力的であったハンガリーへの制裁決議も検討されるなか、1日にようやく7.98兆円の支援予算案の合意に達した。トランプ前大統領は「米国は守らない」「(ロシアには)やりたい放題やるよう促す」(10日)と、支援について極めて消極的で、大統領に再任されればほとんど気に掛けることはないだろう。米国は過去二年間の支援実施額の4割を担いながらも、去年12月以降、米議会の反対により支援が滞ってきた。さらなる無関心、支援への反対がまきおこるのは自然なことだろう。 

 26日、スウェーデンがNATOへの加入を決めた。22年の2月のウクライナ侵攻を機に、スウェーデンは長年の軍事非同盟・中立のスタンスを転換させ、それが加入へとつながった。屈指の軍事大国の加入はNATOの影響力を大きくして、ロシアが抱えてきた危惧がかえって現実化したと言える。それにしても、そうであるからこそ、この戦争は終わらない。


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