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一皿一首・回転寿司即詠のすすめ
回転寿司が寿司を回転させる間に天王星が消えてしまった
海老塚ありすと福田六個は、あたらしい短歌のアクティビティを発見したかもしれません。
それが、一皿一首回転寿司即詠です。
引用のとおり平岡直子は、特異な喩によって回転寿司と短歌とに密接な関係があることを示唆しましたが、われわれは、短歌の実際的な営みにおいてそれを再確認したと言えるでしょうか。
これは名前の通り、「一首詠んだら一皿寿司を注文することができる」。それだけの遊びです。その詳細について、順を追ってみていきましょう。
短歌を詠んだらお寿司を食べよう。
道具だてと順序
参加する人数は、2-6人がよいでしょう。回転寿司のテーブル席に座れるのがちょうどそれくらいだからです。並んで席に座ることができるならば、12人くらいまでが参加できるでしょうか。
席に着く前に、参加者が投稿と閲覧ができるようなチャットを作成します。後述しますが、メッセージの編集が可能なdiscordがより使いやすいと思います(われわれは今回LINEで行いました)。
席に着いたら、あるいは店に入ったら、そのチャットに短歌を投稿しましょう。題材のない即詠がやりずらい場合は、ランダム単語ガチャのように、ランダムで単語を生成したのをチャットで共有するとやりやすいです。ちなみにこのサイトだと、語彙レベルをLv1(基礎語)とLv2(日用語)に限定すると、癖があったり妙に具体性の高い語が出ることがなく、幅のある発想の作歌が期待できると思います。
実際に使ったのがこちらです。
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短歌を投稿したら、お寿司を注文します。チャットのスタンプ機能を使って、注文した皿の枚数だけ、短歌にスタンプを付けましょう。こうすることで、お寿司と短歌の数とその対応が曖昧になるのを防ぐことができます。discordなら、
( 短 歌 )
鉄火巻き
のように下に書き足せば、対応するお寿司を記録しておくこともできます。また、編集機能があれば、思いついたらすぐ短歌を推敲できますね。
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企てはせんべいのバター煮だったけど広げた洗濯物にこぼした
指をさすものが何でも雪になりソフトクリームにかぶさる星で
近ごろは犬が羊を追いかけて地価跳ね上げる春であること
「せんべい」「バター」「洗濯物」
一首で三つお題を詠んでしまう、なんて強欲なひとなの!。
この遊びの優れているところ
概要は以上になりますが、どこに魅力があるのかということも少々見ていきます。
一皿一首回転寿司即詠は、歌会や吟行、他の即詠ゲームや人狼歌会に比べて、いくつもの点で優れています。
・自分のペースで食べる/詠むことができる
即詠をゲームテイストにしようとすると、往々にして、参加者の作歌スピードを揃える必要があります。ひとりひとりの即詠の臨場感が、他者の即詠の臨場感に依存するためです。わたしも、しりとりで即詠を回したり、お題をポンと投げ合って即詠する、といった遊びをたびたびしていますが、こうした形式だとテンポが一律であることが必須です。一首をつくるのに時間がかからない人もいれば、かかる人もいる。この場合前者にテンポを合わせることになるのですが、これは後者にとっていい影響を与えることもあれば、逆の場合もある。一長一短というのがわたしの所感です。
一皿一首回転寿司即詠は、詠む数とスピードが、ひとまず当人の食べる寿司に対応しています。ここに独特の臨場感があります。時間をかけて短歌を作りたい人はそれができるし、苦吟する他のひとの姿をみながらポイポイ詠んでポイポイ食べるというのは、やってみると味わい深い。食べたいのに、短歌が足りない、、、という人の姿は面白い。これはなかなか、いい発見=創造だと感心しました。もちろん、最初からまったく頼まないで席に座っているのはいけませんから、本格的な苦吟は最低でも二、三首詠んだ後、ということになりますが。
・一皿と一首、という単位がちょうどいい
作歌のペースをほかの何かに委ねるとして、回転寿司一皿以上にちょうどよいものがあるとは今のところ思えません。一皿というのは、我慢すればできないものではありませんが、しかし食べたい気持ちは到底見過ごせない。回転寿司では、この微妙に浮ついた欲求と満足の綱引きが、最初から最後まで続くように思います。この緩急のようなものが、驚くほど短歌に合っている。
さらに、この一皿と一首という対応関係は絶対ではない、というのがこの遊びの自由なところです。即詠が苦手かつ極端な食いしん坊である場合には、一首で二皿、あるいは二首で三皿のように、食べる量を増やせます。即詠が極端に得意だったり、小食な場合には、その逆の調整が可能です。福田は15首ほど詠んで、二、三首は残ってしまいました。
あるいは、俳句や川柳でカウントすることも可能です。川柳二句で一皿、というのはどうでしょうか。もちろん、参加者の文芸分野の習熟などにもよりますが。
・回転寿司の「一皿」は多種多様である
高級皿も、ラーメンもうどんも茶碗蒸しもデザートも、すべて一皿と数えます。さらには、帰りのコンビニで買うスイーツやジュース、お酒なんかも一首と対応させてもいいでしょう。このあたりはつどアレンジが簡単にできます。
とにかく、お寿司の種類、汁物、デザートなど、短歌に対応する一皿にはさまざまな色がついており、即詠はそのおかげで、数の積み重ねというようなデジタルなものではなく、あたかもコース料理のお品書きのような、でこぼこしたもののように感じられます。「今つくる一首は、あんきも軍艦のためのもの・・・」「横浜家系ラーメンに捧げる一首・・・、どんなテイストがいいか」。要するに無限にたのしいです。
・評が膨らむ、評が再来する
即詠にとって、これがもっとも素晴らしい点だと言えます。
あなたが一首をチャットで共有したタイミングで、全員がその歌を確認することができます。そこでいい歌だと誰かが思えば、すぐにリアクションがあるでしょう。これはどんな即詠や吟行でも同じ。大事なのは次です。
この短歌一首のおかげで、あなたは寿司を注文します。その寿司が来て食おうとする。他の人は言うでしょう。「それはどの短歌の寿司なの?」。ここで再びその短歌の評が始まります。評とお寿司の味の感想がクロスオーバーする。行ったり来たりする。その場で推敲を思いつく。他の人がそれに触発されて短歌をつくる。短歌から離れすぎもしなければ、遠ざかりすぎもしない。揺れていていい感じなのです。評が行き詰まったりする前にもう他の寿司が来ますからね。また、みんなでその短歌を確認するためにチャットをスクロールするのです。
こんな人たちに向いている
もちろん、食いしん坊、寿司が大好きな人。静かにやるより、わいわいしながらやるほうが即詠がうまくいく人。そのほか、遊びながら短歌が作りたい人。などなど。
怖いよ
話したいことはひととおり話せました。提案という形式のふりをして、今日遊んでたのしかった、という日記を書きたかっただけです。
回転寿司の一皿、という形式に匹敵するあるいは超える何かを発見した方は、ぜひ福田か海老塚に教えてください。そして何より、ぜひ、一皿一首回転寿司即詠をいっしょにやってください。
しかし何か、怖いものをみてしまったような気もします。よろこびを貪欲にもほどがあるくらい詰め込んだ遊びを見つけてしまった、という恐れ。食べることとお喋りすること。お腹が満ちていくことと、思いつきの言葉で笑ってしまうこと。ここにはやはり根源的な結びつきがある。
右手にフォーク 左手にマイク これが俺のライフ
*この記事のヘッダー画像は次の動画からの引用です。
*海老塚ありすと福田六個はいっしょにネットプリントを二回つくりました。「文鎮」
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