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【台本】よふかししたあとだから

《作》 U木野

あらすじ

写真部での人々

登場人物

白鷺桔平(しらさぎ・きっぺい)
貝凪中学校の学生さん。男性。14歳。

白粉晶(おしろい・あきら)
貝凪中学校の学生さん。女性。14歳。

漫才協力

チャットGPTくん

本文

――千葉県 貝凪町かいなぎちょう
――午後4時40分
――貝凪中学校 写真部 部室

白鷺桔平
あきら、昨日のテレビ見た?」

白粉晶
「昨日テレビは見たけど、どの時間のどのチャンネルのこと?」

白鷺桔平
「チャンネルは知らないけど、夜の8時くらいにやった漫才特番」

白粉晶
「それは見てないなぁ。その時間、塾だったし。桔平きっぺいも一緒だったから判るでしょ」

白鷺桔平
「録画したりは?」

白粉晶
「もしかしたら親がやってくれてるかもしれないけど……別に私漫才が大好きってわけじゃないから、望みは薄いかな。どうしたの? その番組で何かあった?」

白鷺桔平
「昨日、その番組が録画されていてさ」

白粉晶
「録画、されていた? 家族の誰かがが録画したってこと?」

白鷺桔平
「いや、家族に聞いたけど、誰も録画していないって」

白粉晶
「……え、何? 怖い話しようとしてる?」

白鷺桔平
「違う違う。勝手に録画されていること自体は、よくあることだからどうでもよくて」

白粉晶
「よくあるの? それって、どうでもいいことじゃないんじゃない?」

白鷺桔平
「ほら、ウチって、家系的に割とそういうことが起こる家だから」

白粉晶
「……白鷺しらさぎ家には、絶対遊びにいかないようにしよう」

白鷺桔平
「せっかく録画されてたし、試しにそれを観てみたんだけどさ」

白粉晶
「どうでもいいけど、昨日塾終わったの22時だよね? 帰るのに15分かかったとして、その時間から観たの?」

白鷺桔平
「いや、1時過ぎに」

白粉晶
「特番って言ってたよね? その番組の放送時間って」

白鷺桔平
「2時間だけど?」

白粉晶
「だからいつも目の下にくま作ってんだよ。早く寝なよ」

白鷺桔平
「まぁ、それは後で反省するとして」

白粉晶
「今して」

白鷺桔平
「俺、今まで漫才をあまりちゃんと観た事なかったし、そういう番組にも興味はなかったんだけどさ、あの番組を観たら……」

白粉晶
「観たら?」

白鷺桔平
「漫才をやってみたくなった」

白粉晶
「はぁ?」

白鷺桔平
「立ち話でたくさんの人を笑顔にするってすごくないか? しかも、面白いんだぜ」

白粉晶
「はぁ」

白鷺桔平
「というわけでさ」

白粉晶
「というわけで?」

白鷺桔平
「俺と漫才コンビを組んでくれないか?」

白粉晶
「嫌だけど?」

白鷺桔平
「今度の学祭のステージで、全校生徒を抱腹絶倒ほうふくぜっとうさせようぜ!」

白粉晶
「絶対嫌だけど」

白鷺桔平
「なんで!? みんなを笑顔にしたくないのか?」

白粉晶
「別に」

白鷺桔平
「あ、なるほど。そういうことか。オツだねぇ」

白粉晶
「は?」

白鷺桔平
「なんでやねん!」

白粉晶
「いや、ふったわけじゃないから。本当のやつだから」

白鷺桔平
「え……」

白粉晶
「何その、目の前で地球が割れた、みたいな顔。普通に予想できたことでしょ」

白鷺桔平
「じゃあ……俺は誰とコンビを組めばいいんですか?」

白粉晶
「私以外の誰かと組めばいいんじゃないですか。……確か、中谷なかたにと仲良かったよね。あの人と組んだら?」

白鷺桔平
時貞ときさだは無理」

白粉晶
「なんで?」

白鷺桔平
「先約があって。あいつ、学祭のステージにバンド出演するんだと。ギター演奏するんだと」

白粉晶
「バンドなんてやってたの?」

白鷺桔平
「らしいよ」

白粉晶
「そっか」

白鷺桔平
「まぁ、でも、もし、時貞が空いていたとしても、俺は結局晶を誘っていただろうけどな。晶の方が向いている気がするし」

白粉晶
「何でよ。私、漫才なんてやったことないし、周りからボケともツッコミとも言われたことないよ?」

白鷺桔平
「いや、ほらよく言われてるじゃん。『面白ぇ女』って」

白粉晶
「それふたりにしか言われてないし、そもそもあれ、文面通り面白いって意味じゃないからね。単純に私がモテてるって意味だからね」

白鷺桔平
「そうなのか?」

白粉晶
「そうだよ」

白鷺桔平
「……晶って、モテるのか」

白粉晶
「え、そこ!? いや、それはモテるでしょう。この美貌だもの。モテモテですよ。男も女も放っておきませんよ」

白鷺桔平
「そうか……虫が好きな人もいるもんな」

白粉晶
「どういう意味だテメェ、コラ」

白鷺桔平
「まぁ、なんでもいいや。漫才コンビ組もうぜ!」

白粉晶
「聞いてよ人の話。嫌だ、つってるでしょう」

白鷺桔平
「それは、この台本を読んでもそう言えるかな?」

白粉晶
「書いたの? 昨日の今日で? 相変わらず……ハマると一直線だよね」

白鷺桔平
「というわけで、とりあえず一緒に読み合わせしてみて、その上で組むかどうかを決めてもらってもいいかな?」

白粉晶
「……絶対組まないけど、わざわざ作ってきたわけだし、読み合わせくらいなら付き合ってあげる」

白鷺桔平
「サンキュー。はい、これ台本。晶はツッコミ役な。滅茶苦茶面白かったら、コンビ組んで学祭のステージで披露すること。さらにそこでいい成果を出したら、俺とコンビを組んでお笑い界のてっぺんを目指すこと」

白粉晶
「どさくさに紛れて……はいはい。滅茶苦茶面白かったらね」

白鷺桔平
「事前に黙読する?」

白粉晶
「いらない。私天才なんで」

白鷺桔平
「腹がよじれて先が読めなくなっても知らないぜ?」

白粉晶
「大丈夫。絶対そんなことならないから」

白鷺桔平
「そこまでいうなら、早速やってみようか」

 ■

白粉晶
「どうもー! 千葉イチ面白いーズでーす! 今日はよろしくお願いしまーす!」

白鷺桔平
「よろしくお願いしまーす!」

白粉晶
「ところで、最近どこか旅行に行ったんですか?」

白鷺桔平
「ええ。近所のコンビニに行ってきました!」

白粉晶
「なんでやねん! それ、旅行じゃないやろ! 買い物やないかーい!」

白鷺桔平
「でも、あのコンビニ、家から100メートルも離れてるんですよ! 大冒険でした!」

白粉晶
「なんでやねん! それくらい歩けるでっしゃろ! で、なんか面白いことありました?」

白鷺桔平
「ええ。店員さんが『いらっしゃいませ』って言ってくれました」

白粉晶
「なんでやねん! それ、普通やないかーい! コンビニ行けば誰でも言われるっちゅうねん! ホンマあんた勘弁しいやー!」

白鷺桔平
「でも、声がすごくハスキーでかっこよかったんです!」

白粉晶
「なんでやねん! なんで声のトーンだけで興奮してんねん! で、他に何か面白いことありました?」

白鷺桔平
「ええ。帰り道に猫を見ました!」

白粉晶
「なんでやねん! それも特に珍しいことじゃないやろ!」

白鷺桔平
「でも、その猫がこっち見てたんですよ!」

白粉晶
「なんでやねん! それ、普通のことやろ! 猫ってそういうものちゃうんかい!」

白鷺桔平
「でも、目が合った瞬間、何か通じ合った気がしました!」

白粉晶
「なんでやねん! なんでやねん! なんでやねんねんねーん! ……うーん、話が広がらないなぁ……。もういいです、次の話題に行きましょうか」

白鷺桔平
「次の話題? うーん、何がいいかな……。あ、昨日、家でテレビ見てました!」

白粉晶
「なんでやねん! また普通の話やないかい! もうええっちゅうねん! ありがとうございました!」

白鷺桔平
「ありがとうございましたー!」

 ■

白鷺桔平
「ってなわけなんだけど、やってみてどう? 笑いをこらえるのに必死だったろ?」

白粉晶
「言いづらいんだけどさ……」

白鷺桔平
「なに?」

白粉晶
「この漫才、ゲロ吐くくらい面白くないよ」

白鷺桔平
「なんでやねん!」

白粉晶
「いやいや、マジで。やっている最中、目の前グルグル回ってたもん。吐き気も襲ってくるし。正直今もまだ気持ち悪いからね。漫才が面白くなさすぎて」

白鷺桔平
「そんなことある!?」

白粉晶
「ある。ていうかさ、それ以外にこの漫才にツッコミたいことが山ほどあるんだけど」

白鷺桔平
「すでにツッコミとしての自覚が……!」

白粉晶
「言い方間違えた。指摘したいことがあるんだけど」

白鷺桔平
「なに?」

白粉晶
「まず、このコンビ名」

白鷺桔平
「千葉イチ面白いーズ?」

白粉晶
「そう、そのひどいコンビ名は何?」

白鷺桔平
「そんなひどいか? 最初は世界イチや日本イチ面白いーズだったんだけど、さすがにアマチュアの分際でそれは大きく出すぎかなと思って千葉イチ面白いーズにしたんだけど」

白粉晶
「そんな細かい部分じゃないんだけど……でも、それでいうと、まだ世界イチ面白いーズの方がマシだったかな。そのコンビ名の方が洒落が利いているし、コンビ名がフリになって、裏笑いになるから。千葉イチはガチ感が出て、より不憫になって笑えない」

白鷺桔平
「裏笑い?」

白粉晶
「面白くないのが面白い、ってこと」

白鷺桔平
「そんなことあるか?」

白粉晶
「ある。次に、ボケがことごとく弱い。旅行はどこに行ったと聞かれて。『コンビニに行った』って……もっとおかしなこと言ってよ」

白鷺桔平
「いや、でも嘘をつくのは……」

白粉晶
「嘘ついていいの! 基本的に嘘をついて笑わせるのが漫才なの!」

白鷺桔平
「そうなのか!?」

白粉晶
「そこから!?」
「あと、何より一番駄目なのは、弱いボケに比べてツッコミが強すぎること。これじゃあ、ツッコミの方が変な奴だよ。謎に関西弁だし。会話のたびにずーっと『なんでやねん』って叫んでるし。私叫びすぎで酸欠になるかと思ったよ」

白鷺桔平
「え、でも、ツッコミの人ってみんな関西弁で『なんでやねん』って言ってないか?」

白粉晶
「言ってない。今度ちゃんと見て」

白鷺桔平
「おう……」

白粉晶
「とういわけで、面白くなかったです。学祭での漫才披露は諦めてください」

白鷺桔平
「判った。台本書き直す」

白粉晶
「書き直すとかじゃなくて……まぁ、別にいいけど、書き直しても私はやらないからね。どうしても漫才したければ他の人と組んで」

白鷺桔平
「え!? そりゃあないだろ」

白粉晶
「ある」

白鷺桔平
「チャンスを! もう一度チャンスを!」

白粉晶
「嫌です」

白鷺桔平
「欲しがっていた呪具じゅぐあげるから! 5人同時に呪えるわら人形セットだっけ?」

白粉晶
「人聞きの悪いこと言うな! 一度も欲しがったことないわ!」

白鷺桔平
「――っ!」

白粉晶
「ん? どうしたの?」

白鷺桔平
「ナイス……ツッコミ!」

白粉晶
「……もうええわ」

 

 【終】

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