080  伊勢ほろ酔い夢幻紀行(上)

今回は九条Tokyoという店で時々起きている奇跡のような話(ノンフィクション)から外れ、完全なフィクションです。ボク個人に起きた実体験ではありません、ユメユメお間違えなきように。。。

◆その1

「コレが毎年数百万人が訪れるというお伊勢さんカー」
「広いネー。前に来た時より、ナンダカ暗いネー」
「ソノ理由をダレかに訊いてみようネー」

ううー、な、なんだ、ここは。。。
急に狭くなったぞー。
暗いって、オメエ、オレの心が読めるのかい?

「マンエン…そんな暗い言葉、我々の辞書に載ってなかったネー」

暗いって、俺の心の闇に比べたら。。。これまでに友人と飲み歩いたことのある店を思い出しては、一軒一軒探して歩き回ってただけなのに、どこも店じまいときてやがる。。。
客のためを思って開いてる店はないのか。

「ソレソレ、伊勢観光なら、どこがいいか教えてくださいネー」

こんな時期に観光なんて、何を呑気なこと言ってやがる。それに、俺が知ってるのは飲み屋だけだと言ったろうが。

出掛けにホテルのフロントで「どこが開いてるの?」と尋ねたら、「休業している店もあれば、20時までの店もある、通常通りのところもあります」だって。通常通りやっている店にだけ「あります」と丁寧語だったのは何故なんだろうね。こんなご時世でもopenしてるから、尊敬しているってことかなぁ。

「ソンナ余計な話より、どこがおすすめカー」

ホテル内にある、開きエビフライで有名なレストラン「漣」は休業してたよ。もう1軒のほうは開いてたから、バラバラ。多様性ってこういうことかい。駅からちょっと遠いけど、だからこの『キャッスルイン』っていうホテルが好きなんだ。

「ワレワレにはホテルは用がないネー」

最近はやりのノマドワーカーってやつかい。それじゃ、ホテルから伊勢の中心街に向かう途中に、小洒落た『牡蠣の朋』って店ができていたのは知ってるか。今度、一緒に行こうぜ。伊勢はあいつのホームグラウンドだから、いつも俺はついていくだけだったのに。。。

「イヤー、牡蠣は当たるから、危ないネー」

そういや、あいつは一度、A型肝炎になったっけ。それを覚えていて、牡蠣屋に行こうって誘うと、えっ、牡蠣は食べられないくせにって、俺が牡蠣は苦手なことを覚えてやがった。

いや、火を通せば好きなんだ。そんなことも知らなかったのか。50年以上も付き合ってきたのに、って言ってやったよ。

あっ、昔はアイツのほうが大食漢だったのに、いつからだろう。俺のほうがたくさん食べるようになったのは。俺の食事量は変わっていないから、アイツのほうが少食になったってことだね。

それが何か体調の不調のせいかもしれないと、どうして気づかなかったんだろう、俺ってほんとバカだよ。。。

「ソンナニ自分の頭を叩くのは良くないネー」

うるせー、自分の頭なんだから好きにさせてくれ。
次の店に行く途中で、大きな薬局を見つけたんだ。住宅街の中に、こんな大きな薬局があったっけ?

気になって入ったよ。どうせ今回は急ぐ必要はなし。いつもみたいに、アイツと待ち合わせしているわけじゃないからね。

この店が広いんだ。隅から隅まで歩き回って、つい品揃えと陳列、値段をチェックしちゃった。昔の仕事の癖だね。
値段は東京とあまり変わらないかなぁ。

別に、こっちに移住してこようと思ってるわけじゃないよ。アイツがそう言えば、考えてもいいけど。

店を出てしばらく行くと、また大きな薬局があったんだ。今度は大通りに面している。つい気になって、また入っちゃった。

これが不思議なんだ。前の店と並んでるアイテムも陳列のジャンルも、値段までほぼ一緒なんだ。競争ってものがないのか、この街は。

もしかして、争いのない街、お伊勢さん。
そうかぁ、資本主義ってホントに終わっちゃったのか?
ばんざーい。新しい時代の始まりが、ここ伊勢ではもう始まってるのか?

で、何か違いはないかと思って、もう一度店内を徘徊しちゃった。

あれっ、何か変だぞ。
そうだ、コンドームがない。コンドームって薬局で売ってるんじゃなかったっけ?

自分で飲食店をやろうと決めた時、レジとか接客をやったことがなかったから、昼間の仕事が終わったあと、週3日だけ24時間スーパーのレジ係のバイトをやったことがあるんだ。夜の23時から朝の7時まで。

時間が時間だから、いろんなお客さんが来たけど、たまにコンドームを買っていく客がいたっけ。だいたいは若いカップルで、女性が先に勘定を済ませて出ていき、男性がコンドームだけ買っていくんだ。

その店の場合、レジそばだけど、レジからは見えない棚の一番下の段に置いてあったっけ。ちょっとした心遣いってやつかなぁ。

薬局でも同じかなと思ってレジそばを探して見たけど、やっぱりないんだ。

「あのー、コンドームはどこに置いてあるのでしょうか?」と聞いてみたよ。薬局にコンドームがないって、おかしくないか?

そうしたら、訊いた中年の、といっても俺よりは年下の女性が、ジロっと睨みつけたあと、大声で言うんだ。
「この客がコンドームはどこって聞いてるわよ」って。
「あっ、いえ、ボクは要らないっていうか、買うつもりはないんです」
「何を言ってるの? さっき私に訊いたでしょ」
まるで俺が犯罪者みたいに問い詰めるんだ。


「コンドームが必要なんでしょ」
「あ、いえ、その、ボクは旅行者だし、、、」

「言ってる意味わからないネー」

そう、同じことをその女性にも言われたよ。でも、あの女性が俺と同じ客だとは思わなかったんだ。
それに、どこにあるのか知りたかっただけなんだったら。
考えてみたら、これまでコンドームなんて買ったことがないや。いったい、みんな、どこで買ってるんだろう。

「24時間スーパーカー?」

んなわけ、あるかーい。

もう、しどろもどろになりながら謝りに謝って、伊勢の夜の街探索に戻ったよ。なんで買いもしないものを尋ねたりしたんだろう。。。アイツと飲み歩いた店を探していただけなのに。

「そう、それを聞きたかったのデース」

あったよ!

『nousagiya 』。
最高に美味いピザを食べさせる店なんだ。いったい、アイツと二人で何回通ったことか。食べたピザはいつも同じ、アオサとジャコのピザ。

でも、大問題が。薬局を2つも冷やかしてるうちに、20時を過ぎていて、入れなかったんだ。。。

「ナンデ?」

だからさぁ、まんえん防止等重点措置。略してマンボウ。

マンボウでアオサとジャコ食えぬ伊勢

「クッダラナーイ」

ちっ、川柳も知らない奴に言われたくないね。お前さんたち、いったいどこの国から来たんだ?
あれっ、今は簡単に、外国から入国できないんじゃなかったっけ。

俺はね、あのピザの写真を撮って、明日アイツに見せてやろうと思っていたのに。。。
仕方なく、次の店を探して彷徨い続けたよ。

「ソウソウ、先に進みましょうカー」

うるせい。
あれっ? そういや、うる星やつら、っていうぐらいだから、別の外国じゃなくて、お前さんたち、異星人ってこと?
ま、いいや。外国でも、異性でも、天国でも。もう、俺にはどうだっていいんだから。

で、駅の向こうに歩いて行ったよ。
あった、あった。焼き鳥がうまい「驛亭」。でも、もう店仕舞してやがる。チェッ。俺は一軒一軒寄っては写真を撮って、アイツに見せてやりたかっただけなのに。。。

こんな時にコロナなんて、理不尽で不条理で非科学的だー。

「ソレはどうだかわからないけど、何かが起きる時って重なったりするよネー」
「そうそう、ただの偶然なのに、理不尽で不条理に感じたりするカー」

ううせぃ。ただの偶然なんて、俺は絶対信じないぞ。
あいつと5歳の時に出会ったのだって、単なる偶然なんかじゃなくて、奇跡なんだよ~。

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