失井敗斗暗殺計画⑥ クロエEND
敗斗「……で、なにか言うことは?」
クロエ「良かれと思ってやりました」
敗斗「詳しく聞こう」
クロエ「マスターは複数の美女にキスを迫られて嬉しい。私はマスターとキスができて嬉しい。WIN-WINです」
敗斗「なんか、お前のメリットだけ確定してない?」
クロエ「私のターンまで回ってきた時点で、私エンドは確定です。勝利のVサイン。いぇい」
敗斗「真顔で言われても感情が伝わりづらいんだが……喜んでいそうなことだけはわかった」
クロエ「というわけで、キスしましょう、マスター。思い切り濃厚なやつを。……大丈夫です。この日のために、私はしっかりと勉強してきました。さくらんぼの茎も、舌で100本は結びましたよ」
敗斗「数がエグい! しかも、お前の場合は本当にやってそうだ!」
クロエ「もちろんです。経験豊富なマスターとは違い、私は処女。いざという時、マスターに不快な思いをさせないよう、日々勉強しておりますとも」
敗斗「ちなみに、他にはどんな勉強を?」
クロエ「主に、この『四十代から始める本当の快楽』という書物を熟読しております」
敗斗「お前何歳なんだよ!?」
クロエ「19歳です」
敗斗「早すぎる! そういうのは、もっと年取ってから読め!」
クロエ「良かれと思いまして」
敗斗「そのセリフ気に入っちゃったんだ!」
クロエ「マスターがご存知かはわかりませんが、女の子にも性欲はあるのです。特に、『キスしたい欲求』と『匂いフェチ』は大半の女性が標準装備しているとこの本にも――」
敗斗「……クロエ。大切な話があるんだ」
クロエ「はい。一生、マスターを愛し続けます」
敗斗「プロポーズじゃねぇよ!?」
クロエ「今夜も『YES』です」
敗斗「『も』ってなんだ、『も』って!」
クロエ「ご安心ください。マスターがどんな特殊性癖を持っていたとしても、十全に応える自信があります」
敗斗「だからそうじゃなくて!」
クロエ「……? でしたら、一体なんのお話を――」
敗斗「俺……童貞なんだ」
クロエ「…………」
敗斗「…………」
クロエ「…………?」
敗斗「…………」
クロエ「またまた」
敗斗「いやいや」
クロエ「ご冗談を」
敗斗「マジだって」
クロエ「ですが、毎夜のように快楽の宴を――」
敗斗「俺たち、同じ部屋で生活してるよね。毎晩、俺一人、浴槽で寝てるよね」
クロエ「しかし、帰りも遅いですし、外に女性が――」
敗斗「100%純粋に《取引》してるよね」
クロエ「《魔石通貨》で極上の美女を召喚――」
敗斗「してません」
クロエ「え……。では、本当に……?」
敗斗「そうだと言っている」
クロエ「…………(震え)」
敗斗「……幻滅したか? まあ、それでもいい。愛想が尽きたら、他の男探せ。残念ながら、俺はキスすらまだの男だからな」
クロエ「そうではありません」
敗斗「……ん?」
クロエ「私は……嬉しいのです」
敗斗「……へ?」
クロエ「つまり、私はマスターの『初めての女』になれる可能性があるということですよね!?」
敗斗「んん??」
クロエ「いいえ、これは確定事項です! 絶対になります!! マスターのファーストキス……否、童貞は、いくらなら買えるのですか!? くっ……私としたことが! 先日、ちょっと衝動買いをしてしまったせいで、手持ち資金が10億リルしかありません! こんなことなら、100億でも1000兆でも用意しておいたのに――!!」
敗斗「……もしもし、遊部? 前にメリアを匿ってくれた部屋あっただろ。あれ、しばらく貸してくれない? ちょっと今すぐ逃げなきゃいけない用事ができて――」