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不思議の国の豊48/#田の水が止まらない

前回はここまで、そして

#田の水が止まらない

僕が水路に水を引くと、

田んぼにはみるみる水が溜まった。

それが、畦の7合目辺りまでくれば

水を調節して、ちょろちょろと田んぼに水が落ちるようにし、

どこかに洩れる水や、地面に染み込む水、空中に蒸発して飛び去る水、

稲が吸いあげる水の合計と吊り合うようにすれば、

僕の仕事は終わりだ。

ここで、畦の7合目と言ったのは、

畦は、田の泥を田んぼの縁にじょうれん(平鍬)で掻き上げて、

その内側と外側をきれいに平たくしてあり、

羊羹のように切ると、その切り口は3角になっている。

富士山の形の7合目を僕が例えた言い方だ。

そう思って、水の入り具合を7合目丁度にしたのに、

田んぼの水はどんどん溜まって、

畦を越してあふれ始めた。

「ええっ!、どうして水が止まらんがー!!!???」

僕はあちこち走り回って、畦の低いところを

ちょっとづつかさ上げするが、

全然追いつかない。

そうこうするうちに、下の田んぼも、

その下も、

100メートル下の物部川のダムまでもが、どんどん水が溜まってくる。

もう、影仙頭の一番下の家が水没し始めた。

そんなことも思う暇もなく、僕の家も、

水につかった。

永瀬ダムはとっくに決壊しているはずなのに、

その頃には土佐湾までもが影仙頭の金毘羅さんを飲み込もうとしている。

「水を入れ過ぎてないのに止まらない!」

次の瞬間

「うわー」と叫ぼうとして、

僕は目が覚めた。

生暖かいものが僕のおしりと背中を濡らしている。

「またか-」

僕はさっさとシャツとパンツを着替えて、

布団のまだ濡れてない位置に移動し、

また眠ることにした。


僕が家にいるときは、問題ないが、

高知のおじいちゃん区や親戚に泊まりに行くと、

僕は気が気でなかった。

でも、それと関係なく、

どんなに気をつけても、寝る前にちゃんとおしっこに行っても

学年が上がるほどに回数へ減るものの

僕はおねしょをした。


僕にはどうしようもなかった。

いろいろなパターンで

それが楽しい夢でも、怖い夢でも

水遊びの夢を見ると、

決まって布団は濡れているのだった。

親戚で干される布団を見るたびに、

それを干すおばさんたちに、すまないなと思いながら、

心が痛んだが、僕には寝ている間のことはどうしようもなかった。

そんな僕を母は、あちこちつれまわって直そうとした。

病院やお灸や、太夫さんにご祈祷をしてもらったりだ。

寝る前のも、水を飲むなだの、もう一度おしっこに行け

などのしつけなどである。

しかし、どれも効果はないばかりか、

気になって眠れないで、

やっと眠りにつくと、

眠っている間に布団の中でおしっこに行きたい夢を見て、

トイレに間に合っておしっこを始め

「ほっとした」

と思った瞬間、目が覚めると、

「またか」

と、夢の中の夢だったことに気づくのである。

僕は、うすうす、気にしすぎるとおねしょになるのだと気づいた。

だから僕は、自分の子供がおねしょをしたら

「旨い地図を書いたねゃ」

と、深刻に考えなように、

誉めてやろうと考えていた。

以下次号


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