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不思議の国の豊31/#恋心と憧れの桂子

前回はここまで、そして

#恋心と憧れの桂子

小学生の僕には憧れの恋人たちがいた。

なぜか、日常ではなかなか会えない恋人たちだった。

恋人と言ってもまだそんな

言葉や意味では、なかったのかもしれない。

日常で同級生たちと

「あんた誰が好きながー?

源生(げんせい)君やろう?

やって、あいつケンカ強いやん。

ケンカ強いって、めちゃくちゃ頼りになるやろ?

博明君は見た目かっこええけど、

いざと言うときあんたを庇うてくれるの?」

みたいな品定めの会話はするが、

僕には、残念ながら、同級生たちの知り合いには

僕の好きな子はいなかった。

僕だけ浮いていた。

例えば、保育の時初めて声をかけた

何か他と雰囲気の違う、ヨシミちゃんは

河口小学校の同級生にはほとんどが大栃の保育に行っていないので

名前を言ってもピンとこなかっただろうし、

河口小学校で2年生まで同級生で、転校していった

色白で頭の良かった正章くんも、大栃小学校の多くの同級生には

話してもわからないと思ったし、

僕のおじさんの嫁さんのいとこで僕より一つ下の

僕さえめったに合わない弘岡町の菜摘ちゃんも

僕が、どんなにかわいい子か説明しても

誰にもわからないと思ったから、

僕はそれほど詳しく話すことは無かった。

母の一番下の妹で、幼いころ小児麻痺を患って、

びっこを引いている可愛い顔の久美ちゃんも

僕を「恋人のゆたか」と呼んでかわいがってくれたので

僕も恋人と思っていた。

高知のおじいさんの家は、高知市の旭3丁目にあった。

同じ3丁目で、東西に路面電車の走る大通りを隔てて、

南側に母のいとこ姉妹二人が住んでいた。

僕はそこにもよく遊びに行った。

そしてこの美人の姉妹が僕を良くかわいがってくれた。

姉は僕より二つ上、妹は年子だった。

二人はタイプが違ったが、

僕は特に姉にあこがれた。

色白でふっくらした顔立ち、

二重瞼に長いまつげ、

その桂子は、まつ毛にマッチ棒が乗るのが自慢だった。

僕は自分の鏡をのぞいては、

「僕は桂子に似いちゅう!」

と一生懸命、風邪をひいて熱のある時しか

二重にならない左目の瞼を一生懸命いじくるのだった。

涙が出るけど、

こうすると僕の瞼は両目が二重になり、

そして、まつ毛にマッチ棒が乗るのだった。

潤んだ眼と、ちょっとだけ唇をすぼめると、

僕のほほにはえくぼができた。

桂子より赤い僕の唇は

まるで、桂子の唇になるのだった。

そして、スカーフで髪の毛を隠すと

瓜二つだと思った。

やっぱり、血がつながっているんだな。

と僕はうれしかった。

しかしそれは、一瞬でしかなかった。

だからこそ僕は桂子が大好きだった。

だから早く次の夏冬春の休みが来て

高知に行って桂子に会いたかった。

桂子のうちにはレコードプレーヤーがあった。

僕が初めて買ったレコード、ミニスカートで歌う黛ジュンの

「天使の誘惑」の歌声

「好きなのに

 あの人はいない・・・

話し相手は

涙だけなの・・・」は

僕の切ない恋心そのものだった。

以下次号




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