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不思議の国の豊17/#恋との出会い


前回は


ここまで、そして

#恋との出会い

僕が目を覚ますと、目の前の少年が

にっこり笑った。

「えっ?ここはどこ?」

さっきまでの怖い夢が嘘のように、

ここは暖かかった。

温かいまなざしの向こうには

暖かな太陽まで一緒にいた。

「僕はどうしたがやろう?」

「さっき、大きいくじらに飲み込れて

周りが真っ暗うなって、

長いくらい洞窟を進みよった。

小んまい光が見えて、

聴いたことのない言葉やけど、

僕を気遣う声やった。」

少年は何か話しかけてくるが、

意味は分からない。

「あれは、夢やったがや」

僕は思い出した。

一人ぼっちになり、嵐が襲ってきたので、

僕は自分の体に縄を巻き付け、

船は大波に煽られ

ひっくり返った。

僕はそこから投げ出されてから

あの夢を見ていたのだ。

長い航海だった。

船出した時には他の船もいた。

僕たちは潮に逆らい、南へ行こうとしていた。

おとうさんとお母さんは、

出発前に集めたいろいろの品々を船に積み込んで、

遠い海の先の南の村に行き、

そこで、僕たちの村に無いものと交換して、

帰ってくるつもりだった。

海に出て、村のあった陸地がほんの少ししか見えないところに来た時、

突然、村と違う方角の遠くに真っ黒い煙が上がった。

その中に大きな炎も見えた。

「あんな大きな火は見たこともない。」

とみんなが騒いでいると、

突然聞いたこともないような大きな音が

周りの水をざわめかせた。

おとうさんは、

「みんなあ!大波が来るぞ!

船に体を縛り付けえよ!」

#津波

大波は来た。

僕には山のように見えた。

船は笹船のように揺れ、

僕たちは海水を浴びた。

気が付くと、僕たちの船は、大波の中ほどに乗って

どんどんおしやられていた。

秋に真っ赤な花を咲かせる植物が

咲いてない時期に緑の細長い葉っぱで

一面を覆う山の斜面はつるつる滑った。

僕たちはそこで滑って遊ぶのが好きだった。

その、滑り降りるような感じと同じ感じだった。

でも、高さは全然違ったし、船は滑り降りているのに

下にはいかなかった。

しばらく行くうちに、

船は穂先が向きを変え、

ひっくり返った。

僕たちの船には、

僕と弟とおとうさんとお母さんが乗っていたが

おとうさんとお母さんと僕で、船を元に戻した時には、

弟はいなかった。

僕たちは泣いた。

おとうさんは怪我をしていた。

周りには他の船は見えなかった。


空はずっと曇っていた。

それが三日ほど続いた後、雨が降った。

僕たちは残っていた皮袋をかき集めてに水を溜めながら、

天に向かって雨水を飲んだ。

最初は美味しかったが、

だんだん変な味になってきた。

僕たちは、水を溜めるのも、飲むのもやめた。

そして雨は降らなくなった。

おとうさんは、しまい込んでいた帆を半分折れた柱に張った。

昼間でも太陽はうっすらとしか見えない。

僕たちには、それでだいたいの進んでいる方角は南東だと分かったが、

今どこにいるかは見当がつかなかった。

いつもなら、陸地を見ながら徐々に目的の南の村に行くのに、

陸地はどこにも見えなかった。

おとうさんは熱が出ていた。

そして、言った。

「ええか!わしはもういかん。

偶に釣れる魚はあてにならん。

水はしばらくある。」

そこまで言って、

お母さんに耳打ちした。

お母さんはこっくりと黙ってうなずいた。


僕とお母さんはまだ海の中を漂っていた。

時折雨が降った。

空は曇っている。

そして嵐だった。

僕たちはまた船に体を縛り付けた。

嵐はおさまったが母がいなくなっていた。

そしてすぐ嵐が始まった。


少年は、自分を指さして

「トモ」と言った。

他の言葉は分からないから、

僕は彼をトモと言う名前に決めた。

僕は自分を指さして

「YUTAKA」

と言ったつもりだったが、

声がかすれた。

彼はにこにこして「ユカ」と言った。

僕はまた眠りについた。


目が覚めると、

トモは、僕に何か柔らかいものを食べさせていた。

トモは「ユカ!ユカ!」と言って喜んだ。

トモは僕に口移しで、食べ物を食べさせていた。

次にトモが口移しをした時、

僕の舌と彼の舌が触れた。

僕は体が熱くなった。

見つめている眼が離せなくなった。

最近膨らみ始めた僕の胸は

心が解けていくのに、

何かが満ち溢れ、固く張ってくるのを感じた。

以下次号












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