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古池や 蛙飛びこむ 水の音【短編】


梅雨の期
巨大化した水色の蛇達が
テノール歌手のような低い声で哭きながら
この世の森羅万象を飲み込んでゆく
青黒く染まる森の中

闇夜の錬金術で世界中の輝きを余すことなく抜き取る秘密結社の使いは、今日も希望に水を蒔く人々の新芽を潰すように緑と金と紫に染まる大地を這う

赤と黒が妖しく光る瞳の奥で
魔界の扉が開く

蛇たちの肛門から見るに耐えない
魑魅魍魎が誕生する


折れたビニール傘

サワークリーム味のポテチ

半分残った栄養ドリンク

三十代会社員のため息


開いたばかりの日刊ゲンダイ

一口食べたアメリカンドッグ

ワンカップ大関の空き瓶


焼酎4リットルのペットボトル


骨っぽくて全然可愛くない犬

「ニャー」って鳴かない猫


とちおとめ5箱

誰も興味ない回覧板

???

アジアンカンフージェネレーション通算4枚目のアルバム「ファンクラブ」

(根暗感あり過ぎて全然、売れなかった)


アナコンダが地を張って隣の街に行く

遠くの鉄塔をその目に捕らえ

泥を掻き分ける黄緑色の汽車の

車窓からは


地球外の星から来た

へんてこりんな動物を見てるような顔の

おばさんやサラリーマンたち

気象を操る彼らは

街のあちら、こちらで

目がただの点になった人々を大量生産するのが

唯一の楽しみのようだ。


遥かなる銀河にぷかぷか浮かぶ

宇宙の便座が隕石のように


落下した衝撃波と

謎の沈黙で始まった

空想から戻り、鯨が呟く

「ブラックナイトフィーバーが終わる」

革命前夜の静けさ

「古池や 蛙飛び込む 水の音」

それは、そう

僕の今まで生きた時間も


そう


街外れのコンビニ店の深夜3時の


静けさ


結成3日目のパンクバンドが見る客席の


静けさ


ドラムの音が大き過ぎて、ボーカルの声を

喰い殺すライブハウスで


全く何を歌っているのか、

どういったメロディーが鳴っているのか

わからないまま外に出る


少年少女の鼓膜に訪れた


まともな静けさ


夜中、ひとりで

売れないバンドの客席みたいな

ガラス張りの棚に検品したパンを

並べる時の


静けさ


茶色の瓶の中で


煙草の吸殻が溜まって濁った


水のような目をした


巨大なガマガエルが一匹


深夜3時頃


コンビニ前の通りで


跳ねる

静けさ。

内なるゴールデンレトリバーのエサ代、読みたい書籍の購入、音楽などの表現活動に使わせてもらいます。