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墓地マン/【ひとり旅】すばらしきかなスリン島④

タイの東北部「イサーン」の町、チェンカーンにいる。朝起きたらニワトリの声を聞き、あのお店まで朝ごはんを食べにいく。ちょっと通りを歩いて、持ってきた本を読む。毎日同じことの繰り返しをとても楽しんでいる。

チェンカーンで登場するのは4人だと以前に触れた。カフェのオーナー、バナナマン。トリプルAのふたり。妖艶な男、墓地マン。

墓地マンの話をしよう。

◆◆◆◆◆◆

チェンカーンの町から自転車で数十分走ったところに、ちょっとした観光地があった。申し訳ないけれど、どんな観光地か忘れてしまった。
が、そこは墓地だった。

たたたんに、そこで墓地マンに会ったことだけは覚えている。そしてほんのり切ない気持ちになったのだ。

墓地マンは年の頃は40くらいだと記憶している。170㎝前後の細身で、マジシャンのようなハットを被り、黒っぽい上下の服を着ていた。先のとんがった黒いブーツを履いていたような…いや、ここまできたら、イメージでしかないな。これはだいたいのこんな感じやったなぁ、というイメージである。陽気で明るくて、しゃべり好き。とにかくあやしげなフンイキだった。

墓地にいたボクに、墓地マンは話しかけてきた。

◆◆◆◆◆◆

ボクと墓地マンはニッポン人の旅人と現地人がする、一通りのお約束の会話のやりとりをした。あの時は何も思わなかったけれど、墓地で話をするって、めっちゃ変。

墓地マンは圧倒的にあやしいフンイキだった。にもかかわらず、離している内容はちょっと真面目だったような気がする。

英語で話すのだが、もちろんボクは英語をスピークできない。なんちゃってイングリッシュ。墓地マンの話の内容の半分は理解できない。
ようやく理解できた墓地マンの質問、
「英語は理解できるか?ギターはできるか?自国の歴史は話せるか?」
聞き取れたけれど、そのほとんどをボクはできなかったしわからなかった。

あぁ、できない、わからないと、ボクは答えた。
墓地マンは苦笑いした。困ってたのかな。豊かな国ニッポンから来たんじゃないのかね?って顔してた。じゃあお前は何ができるんだ?って聞かれるのが怖かった。聞かれなかったけれど、確かに墓地マンはそう思ってたはずである。

◆◆◆◆◆◆

今日の夜、家に遊びに来ないか?と誘われた。墓地マンの好意だった。
ボクはそのお誘いを断った。旅の達人ならきっと遊びに行ってるのだろう。

「じゃあお前は何ができるんだ」
っていうのが、頭から離れなかった。だからお誘いを断ったんだと思う。
でもその一言は、直接言われたわけじゃない。墓地マンは何も言ってない。ボクが勝手にそう言われた気がしてるだけである。

ボクは何もできないでいた。
そして今も何もできないでいる。

スリン島はまだでてこない。でももうすぐだ。もうすぐスリン島の存在を知ることになる。

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