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⑤ 2012年冬 (ライブハウス)

 青年はいつものようにギターを担ぎアンプを転がしながら大阪駅の改札から出て歩いていた。階段横を通り過ぎた時、女性が声をかけた。
 「あの、すみません・・・歌う場所、探してるの?」
 青年は少し驚いた顔をして立ち止まり、黙って女性の顔を見た。女性は座ってギターを弾いている男性を指差しながら言った。
 「あそこにいる彼が前にあなたを見かけたことがあるって言ってて・・・。」
 青年がギターのチューニングをしている男性に近づくと、その男性は微笑みながら青年を誘った。
 「よかったら、ここで一緒にやりませんか?」

 女性は青年の顔に見覚えがあった。彼が中学生の時に出演していたミュージカルを観たことがあったからだ。名前を聞いて本人だと確信したけれど、そのことは青年が自分から話すまで黙っていることにした。
 
 「実は俺、前に君のストリートライブ見てたんやけど、オリジナル曲作ってる?良い曲やったわー。」
 「ありがとうございます。」
 青年はとても嬉しそうに笑って、丁寧にお礼を言った。

 その夜、帰宅した青年は真っ先に家族に報告した。
 「聞いて!聞いて!対バンに誘われた!堀江のライブハウス!」

2012年12月25日 堀江Goldee
 赤いシャツに黒のダメージジーンズ姿の青年がギターを持って、ひとりでステージに上がった。
 最前の女性たちが固唾を飲んで彼を見守る。
 ギターのチューニングを終えて、無表情のまま演奏を始めた。   
「聴いてください『Treasure』」
 
 演奏後、少し頭を下げて
 「ありがとうございます。こんばんは阪本奨悟です。」
 「おかえりー!」
 最前の女性たちが声をかけると、笑顔を見せてオリジナル曲を演奏した。

 「昔、色々やってた時には気付けないことがいっぱいあって。今こうしてフリーになって、どうなるか分からないですけど、自分の人生なんで、やりたいことをこのギターと歌でやっていけたらなと思ってます。」
 拍手と「がんばって!」の声がライブハウスに響く。
「歌はやっぱり聞いてくれる人がいないと。」
 青年は嬉しそうに笑って言った。

対バンを企画した女性が自分のステージを終えると、突然アンコールを青年に譲った。
「今回、阪本くん目当ての人がほんと多かったからね。呼んであげて!」
 女性がステージからはけると、青年の名前を呼ぶ声と拍手がライブハウスに響いた。
「しょうご!しょうご!しょうご!」
 青年は満面の笑みを浮かべてステージに上がった。

※阪本奨悟さんのSNSやファンの記録などを参考に書いていますが、フィクションです。問題があれば削除しますのでご連絡ください。