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善牙と善搏

昔、深い森の中に、母ライオンと母トラがいた。それぞれひとりの子供を育てていたが、森の中で会うことはなかった。ある時、母ライオンが狩りに出かけ、ライオンの子は森をさまよっているうちに、母トラのところにたどり着いた。母トラは遠くから見て、「こいつを殺して食べよう」と最初思ったが、「そこまでしなくて良い。我が子に遊び相手がいても悪くないわ」とすぐに思い返した。その時、ライオンの子はお腹がすいていたので、母トラについて子トラとともに乳を飲んだ。ところで、母ライオンが狩りから帰ってきて子供がいなくなり、山や谷を探し回って、ようやくトラの横で乳を飲んでいる我が子を見つけた。母ライオンが近づいてくると母トラは慌てて逃げようとしたが、母ライオンに止められた。「妹よ、逃げることはない!私の子供に優しくしてくれてありがとう。よかったらこれから一緒に住んだらどうか。私が出かける間は、あなたがふたりを見、あなたがエサを探す時は、私が見守るわ。平等に育てて、良いことではないか。」こうして、ライオンとトラと同居することになり、ライオンの子は善牙ぜんげ、トラの子は善搏ぜんはくと名付けられた。ふたりは一緒に育ち、だんだん大きくなった。後に、二人の母は病気になり、死に際に二人を呼んで言い聞かせた。

「あなたたちは同じ乳を分かち合って育ったのだから、兄弟のようなものなのだ。世の中には人の仲違いを企む人がいくらでもいるわ。私たちがいなくなった後は、お互いを大切に見守り合ってください。陰口に惑わされてはいけないよ。」こう言って息を引き取った。

ふたりは仲良くしていて、同じ場所で暮らし、日々小さい動物を狩って腹を満たしていた。彼らの食べ残しを求めて、いつもその後ろを追っかける一匹の野干ジャッカルが、いつしか見られるようになった。野干は思った。「ずっと彼らの後ろにこう追っかけていくわけにはいかない。彼らふたりの仲を引き離さなきゃ。」そして、まず善牙のもとに行き、こう言った。

「善牙よ、善搏はこう言っている。『俺は家柄も、種族も、容姿も、能力も善牙より優れている。なぜなら、俺は毎日良い獲物を手に入れられるから、善牙なんかは俺の後ろを追っかけて、俺の食べ残しで生きているのだ。』」

それを聞いた善牙は、野干に尋ねた。「お前はどうしてそれを知っているのか?」と。野干は答えた。「本人に会ってみればわかるよ」と。

野干はこっそりと善牙に告げて、今度は善搏のもとを訪ねた。
「知っている?善牙はこう言っている。『俺は家柄も、種族も、容姿も、能力も善搏より優れている。なぜなら、俺は毎日美味しい肉を手に入れられるから、善搏なんかは俺の食べ残しを食べて自分の命を保っているのだ。』

善搏は尋ねた。「お前はどうしてそれを知っているのか?」と。野干はまた答えた。「本人に会ってみればわかるよ」と。

その後、ふたりが森の中でばったりあった時も、お互いに険しい目つきで睨みあうようになった。善牙は思った。「何も聞かずに奴を一発殴るわけにはいかない。」そこで善搏に確かめた。
「『家柄も、種族も、容姿も、能力も善牙より優れている。』って言ったか?」
それを聞いた善搏は心の中で思った。「きっと野干が私たちを引き離そうとしているのだ。」そして彼は善牙こう答えた。
「僕はそうは言っていない。僕は『家柄も、種族も、容姿も、能力も善牙より優れている。』と言ったことはない。陰口を鵜呑みしてお互いの信頼関係を壊してしまうのはもったいないことだ。悪党の思う壺にハマっちゃうよ。どうか怒りを鎮め、僕のことを信じてください。」

真実を知ったふたりは仲直りをした。


古昔於大險林中,有母獅子及母虎,各養一兒。於此林中,各不相見。曾於一時,其母獅子出行求食,獅子兒在林中遊行,遂到母虎所居之處。其虎遙見,作如是念:「我當殺之,用充飲食。」復更思念:「此不須殺,當與我兒,以為朋友,共相歡戲。」時獅子兒為饑所逼,遂向虎處,共飲其乳。時彼母獅還歸住處,不見其兒,遂便尋覓、周行山澤,見在虎邊,而飲其乳。是時母虎見母獅來、遂欲奔走。母獅告曰:「姊妹!幸勿奔馳!汝於我兒,能生憐念,我今共汝一處同居,若我出時,汝看二子,汝若覓食,我護兩兒。善惡是同,斯亦佳矣!」既合籌議,遂即同居。便與兩兒,各賜名號;其獅子兒名曰善牙,虎兒號為善搏。俱同養育,皆漸長成。後於異時,二母俱患,臨命終際,並喚兩兒,俱告之曰:「汝等二子、一乳所資,我意無差,義成兄弟。須知人世,離間之徒,搆合諂言,滿贍部內。我終沒後,宜好相看,背面之言,切勿聽取!」作是語已,即便命終。汝諸比丘當知!諸法常爾,即說頌曰:「積聚皆銷散,崇高必墮落。合會終別離,有命咸皆死。」彼二猛獸共相友善,同一住處,晝夜伺捕別小走獸,以為充腹。時有一野干,逐彼二獸後,食彼等食後所餘之殘肉,以自全命。時彼野干竊自生念:我今不能久與相逐,當設方便,鬬亂彼二獸,令不復相隨。時野干即往善牙獅子所,語言:「善牙!善搏虎有如是言:我生處勝、種姓勝、形色勝汝,力勢勝汝。何以故?我日日得好美食,善牙獅子逐我後,食我殘肉,以自全命。」即說偈曰:「形色及所生,大力而復勝,善牙不能善。善搏如是說!」善牙問野干言:「汝以何事得知?」答言:「汝等二獸共集一處相見自知。」爾時野干竊語善牙已,便往語善搏虎言:「汝知不?善牙獅子有如是語:而我今日種姓生處,悉皆勝汝,力勢亦勝,何以故?我常食好肉,善搏虎食我殘肉而自活命。」即說偈言:「形色及所生,大力而復勝,善搏不能善。善牙如是說!」善搏虎問言:「汝以何事得知?」答言:「汝等二獸共集一處相見自知。」後二獸共集一處,瞋眼相視。善牙獅子便作是念:「我不應不問,便先下手打彼。」爾時善牙獅子向善搏虎而說偈問:「形色及所生,大力而復勝,善牙不如我。善搏說是耶?」善搏虎聞,即自念言:「必是野干鬬亂我等。」即以偈答善牙獅子言:「善搏不說是:形色及所生,大力而復勝,善牙不能善。若受無利言,信他彼此語,親厚自破壞,便成於冤家。若以知真實,當滅除瞋惱。今可至誠說,令身得利益。今當善降伏,除滅惡知識;可殺此野干,鬬亂我等者。」二獸即便打殺野干,還和合如初。爾時世尊告諸比丘:「此二獸為彼所破,共集一處,相見不悅,况復於人?為人所破,心能不惱?云何六羣比丘鬬亂彼此?無有諍事而生諍事,已有諍事而不能滅。」