お前は既に疲れている
ねえ、きっと大丈夫じゃないよね?
当たり前です。
ビジネスレベルでドイツ語できる友だちだって言ってるじゃないですか。
「日本から来てる留学生、みんなよく寝てるって言うよね。そりゃそうだ。外国語に囲まれて生活してるんだから、特に何もしてなくたって疲れるわ」
ああそっか。こんなにドイツ語できるこの人が、そう言う。語学に難ありの私なんかますますストレス感じてるんだろうなと初めて気づいた気がする。
そういえばドイツに来てから、やたら下痢っぽい。「下痢 原因」で調べようものなら、全部当てはまりうるから困ってしまった。
環境が全く違うところへ、一人の知り合いもいないまま、大切な人たちと離れて、というか死ぬ気分で来たのだから、体がずっと元気である方が壊れている。急に寒くなったり、そうかと思ったら唐突に夏日和になったり。食べ物も変わる。人も変わる。言語も変わるし、そもそも私はドイツ語のコミュニケーションがうまくできない。
本当に一年間留学行くんですか?!とツッコまれるレベルの軽装でやって来たから、生活に必要なものもいるならすべて現地で揃えた。
歯ブラシだってドイツ製はゴツい。シャンプーボディーソープも全部違うものだ。服のサイズも違う。調味料も、日本とは別物だ。米も異なる。Wi-Fiを繋ぐのも毎日ちょっとした手間がかかる。変わったものばかりだ。
体調も変わったようだ。女性の症状が身に染みるようになった。なってしまった。日本にいるときは私はそれほど痛みもなかったし、メモしておかなければ次がいつか自覚できないほど、期間による変動も特にはなかった。私は女であることを望んでいないから、これくらいでまだよかった、辛かったら本当に身体を憎んで引きちぎりたくなっていただろうから。
それが、ドイツに来てから体が自然に従うようにでもなったものか、おかげでプールで泳げるような能力も身についたものだけど、生理も感じるようになった。頭痛や腹痛も起こる。心理的にも影響されているようで面倒くさい。
これで好きな女性の痛みを少しでも理解できるものなら幸せである。ってそういう慰め方をするしかなくなる。なんというか、私は女性を好きになったとき、周期の方もその人に合うようにズレることがあるのである。だから文字通り、現在の痛みを誰よりも分かち合いたい、という気になって、それで耐えるのである。これは男体には出来ないことだから。
体だけではない。内面だって、荒波に揉まれているじゃないか。
近頃は悩みの範疇が別ものになってきて、それに対してさらに悩ましく思う。
以前は死生観や哲学のような、遠目から見れば神聖で崇高にも見えることが心を沈めていた。
現在はもっと俗世じみている。生活や仕事を考えなければならない。
煎じ詰めれば、いずれにせよ私は好きな人のそばにいたい、そうできる自分でいたい、自分らしくいたい、それだけだ。財力を求めるのも、数字や金色が好きなのではない。好きな人と幸せになるための一アイテムだ。
けれども、その変化を好きな人が受け入れてくれるかはわからない。怖いと思う。
「俗世にまみれて自分らしさを押し殺し埋もれていく私」よりも、「自ら美しく死んでいく私」の方を、好きな人が私に対して望んでいるのではないか。
私は愛する人に死を望まれている?
会えない間に変わっていったことを、少しずつ調整してまた同じ温度で愛し合いたい。
貴女は幸福に生きるのが似合うよ?その側にいるのが私では、駄目ですか。
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