金持ちジュリエット

ジュリエットには野望があった。
「この美しいジュリエットを知らないなんて可哀想だわ。私を人々の記憶と歴史に刻むのよ!」
彼女は一人の小説家を雇い、自分を主人公にした物語を書かせることにした。
「私の気高さが分かるようにしてちょうだいね」
「ジュリエット様が素晴らしいのは存じ上げておりますが、人々の記憶に残るためにはそれだけでは足りないかと……」
「どういうことなの?」
「美しく、地位も高く、財産も持っている。憧れではありますが、今のジュリエット様は庶民からは遠すぎるのです。ある程度の感情移入や共感ができる作品のほうが長く読まれるものになるかと。例えば恋愛もの、悲劇のヒロイン役なんかはいかがでしょうか?」
少し考えて、彼女はその申し出を断った。今まで自分はすべてを手に入れ成功させてきたのだ。
「……承知いたしました。では人々に手にとってもらえるように、インパクトのある題名を作品に付ける許可をいただけますか」

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