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「執事といえばセバスチャン」調査2024結果公開(追跡調査報告2 )


【アンケート調査とその前提】 

今回、「執事といえばセバスチャン」のアンケート調査を行いました。既に2つの考察を行なっておりますが、そこで不明なものを確認するものです。

論考を進める中で『アルプスの少女ハイジ』登場のセバスチャンの影響が大きいため、どの時期に放送されていたのかを明確にするの聞き取り調査も行いたいと考えていました。

実施要項

アンケート調査の精度については、調査対象の母集団のうちどれぐらい回答を集めると誤差が少ないかの基準があり、仮に「執事セバスチャンに関心を持つ層」を100万人以上とする母集団の場合は、400回答で誤差±5%になるとされています。いわゆる、「味噌汁の味を知るのに、味噌汁全部を飲む必要はない」という統計的な考え方によるものです。

これに基づくと、今回の結果は以下となります。

調査期間:2024/06/16(日)〜06/30(日)
調査方法:GoogleフォームによるWebアンケート
設問数:最大14
有効回答数:317(信頼区間:95%、許容誤差6%)

※年齢制限を設け、14歳以上の回答を条件としています。Twitterの利用制限に準じるためです。

アンケートを募集した方法は、基本的に私のTwitterアカウントでの投稿と、フォロワーによる拡散のみであるため、元々私をフォローしている時点で一定のバイアスを含むものですが、あくまでも今回は参考ということで考察を進めていきます。

留意事項

・自由記入項目は同一項目として加工・集約している場合と、回答内容で意味が通らないものについて未掲載にしている場合があります。
・小さな文字を含んだ画像を貼り付けており、タブレットやパソコンのモニターでの閲覧を推奨します。

【属性情報】

■設問1. 生まれた年を教えてください。

質問項目は「生年」でした。ただ範囲が広すぎましたので、年代で丸めて以下の結果となります。

年代別回答数

回答を得た年代を見ると1980年代が最も多く、ついで70年代、90年代が中心になっており、一定のバランスが得られています。ただ2000年代(24歳以下)は顕著に少なく、私がリーチできた範囲の限界もあるかもしれません。

年齢を聞いた意図としては、年代によって他の回答項目に顕著な差が出るのではないかという仮説があったためです。たとえば、今回調査したい「執事といえばセバスチャン」も、ある年代にとっては『アルプスの少女ハイジ』かもしれませんし、別の年代にとっては『黒執事』かもしれないのです。

ただ、このような設問同士を掛け合わせる集計については同人誌のメインコンテンツとします。そのため、今回のウェブ無料公開分については回答をそのまま掲載する報告が軸となります。

■設問2.性別を教えてください。

性別の比率では、女性が64.7%、男性31.2%と、女性の方が回答している傾向が見られます。執事の支持層は「女性支持が強い」ということがところでしょう。 

【「執事といえばセバスチャン」認識】

■設問3.「執事といえばセバスチャン」というフレーズを聞いたことがありますか?

こちらは認識調査です。

「執事といえばセバスチャン」というフレーズを聞いたことがある人が85.2%と高いのは、この調査が「執事といえばセバスチャン調査」と題していることから自明なバイアスですが、そのような状況でも14.8%も聞いたことがない人がいる、というのは意外でした。

こちらで「いいえ」を回答した場合、最後の質問「あなたが好きな執事を一人だけ、お選びください」まで質問が飛びます。このため、この後の続く回答の有効数は「はい」と答えた270名のみとなります。

■設問4.「執事といえばセバスチャン」だと思いますか?

「執事といえばセバスチャン」を知っている人しかここでは回答していません。その知っている人たちの間で、「執事といえばセバスチャン」という見解に同意するかは、また別の話でした。54.1%が賛同するものの、41.9%が「代表しているとは限らない」としているのです。 

そのほかは自由記入項目でした。このうち、2つの意見は「執事といえばセバスチャン」ではなく、「(人名で)セバスチャンといえば執事」という逆転したものでした。それだけ「執事」と「セバスチャン」は切り離せないものでもあるようです。 

■設問5.「執事といえばセバスチャン」と聞いて、「あなたが最も強くイメージする」セバスチャンを一人だけお選びください。選択肢にいない場合は、作品名など特定できるセバスチャン情報をご記入ください。 

ここではこちらで作成した代表的「執事セバスチャン」リストを用意し、「自分が好きなセバスチャン」という軸で回答を求めました。 

上位は大ヒット作品でアンケート募集時期にアニメも放送していた『黒執事』からセバスチャン・ミカエリスが34.8%で圧倒し、次いで『アルプスの少女ハイジ』のセバスチャンが24.8%と大健闘です。 

以降、『ToHeart』と、『リトル・マーメイド』、そして『サディスティック・19』からとなっています。

『リトル・マーメイド』のセバスチャンはカニで、正式には執事ではなく「宮廷音楽家かつお目付け役」ですが、執事イメージを持つ人が一定います。 ただ、こちらについては金曜ロードショーで地上波放送された際に、英国執事設定があったと明かされています。

今回の回答では「執事セバスチャン」リストから漏れていたものが自由記入項目で2作品あります。

1作品目の「スレイヤーズ」短編集は、他の項目でもご指摘いただいたもので、調べると1997年『スレイヤーズすぺしゃる』「PB攻防戦 前編/後編」登場の執事です。こちらについては過去の調査事項に詳細を追記しました。

後者の「1999年『Zill O'll』(ジルオール、PS/プレイステーション)はロールプレイングゲームで、作中に登場する貴族レムオン・リューガの家に仕える執事がセバスチャンでした。なお、PS2版(2005年)でグラフィックがつき、「貴公子然」としているとのこと。 

■設問6.「執事といえばセバスチャン」のイメージを「世の中に最も広げた」とあなたが思うセバスチャンを一人だけお選びください。選択肢にいない場合は、作品名など特定できるセバスチャン情報をご記入ください。

前の設問が「自分が好きなセバスチャン」だったのに対して、今度の質問は「世の中に執事セバスチャンのイメージを広げたのは誰か?」という認識を問うものです。

こちらは前の設問と順位が逆転し、『アルプスの少女ハイジ』が1位、『黒執事』が2位です。ただ、その差はわずかです。

注目すべきは『ちびまる子ちゃん』が3位に入っている点です。『ちびまる子ちゃん』と「執事セバスチャン」については、現状ではほんのわずかな言及しか確認できていません(4巻)。

このわずかな1コマ(アニメでも一言)でこれだけの方が印象に残っているとすると、他に言及される機会があったのではないかと思われるので、追加確認中ですが、突き止められていません(単行本は確認中。アニメは多すぎてまだ。ちびまる子ちゃんオフィシャルサイトの問い合わせでも質問中)。

そしてここでも上位に『リトル・マーメイド』が入っています。

「未回答」「作品はない」「特定のセバスチャンがいない」「わからない」など、必ずしも特定の作品に依拠しているわけではない回答もありますが、合計すると3%にとどまりました。

■設問7. 「執事といえばセバスチャン」というあなたの認識は、何に由来しますか?

「執事といえばセバスチャン」という認識が、どのように育まれたのか? 主要な設問は上位4つで、それ以外は自由記入で分散しています。

1位は「執事セバスチャンが登場する作品が多い」という事実から帰納法として「執事といえばセバスチャン」という結論に至る形で、最も多いです。

次に「自分が接した作品に執事セバスチャンがいた」というものです。

これを「設問5で最も強くイメージする執事セバスチャン」とクロス集計すると、93票中、『黒執事』38回答/40.9%、『アルプスの少女ハイジ』24回答/25.8%、『サディスティック・19』10/10.8%となりました。この辺りは特定作品の強い影響が見られます。

そして今回、事例を集めたかったのがこれに続く2つの回答です。

1つ目は「作品の中で執事といえばセバスチャンとのフレーズを読んだから」で、回答者の10%が何らかの作品で接しています。ここでは作品として『黒執事』『ToHeart』が挙げられます。

2つ目は「コラムなどのテキストでその見解を読んだ」で、5.6%あります。この中には1回答、私のテキストを見た方も含まれており、認識を確認するはずが、認識に影響を与えていたという観測者効果的なものです。

ただ、今回の設問には2つの設計不備がありました。まず「回答後にその詳細を聞く」と伝えていなかったので、「そのほか」としてこの段階で該当作品やテキストなどの詳細を挙げる回答が散見しました。

もうひとつの不備は「執事といえばセバスチャンというあなたの認識」という記述にしたため、「その認識に同意していない」という回答が3件出ました。同意・不同意にかかわらず「どこで聞いたか」を確認したかったのですが、設問ミスで適切な回答を得られませんでした。

【分岐:「執事といえばセバスチャン」というフレーズを読んだ作品】

■設問8. あなたが「執事といえばセバスチャン」というフレーズを読んだ作品についてご記入ください。


こちらは「作品」について回答いただいた方へ、より具体的に確認する設問です。かなり前のことでもあり、思い出せない方が上位です。

上位はこれまでに見た作品もありつつ、前述した『スレイヤーズすぺしゃる13』「PB攻防戦」はアンケート作成時に見落とした重要な位置付けの作品となっています。

『ToHeart』については回答を2つに分けています。これは「作品の中で言及していた」とする回答と、「作品内か作品外か不明」では位置付けが異なるためです。

以前に確認のため『ToHeart』で執事セバスチャンが仕える「来栖川芹香」ルートのテキストを読みましたが、ここで執事は「本名が別にあり、セバスチャンに改名している」ものの、「執事といえばセバスチャン」という認識が示されていません。

運良く、Twitterに『ToHeart』を作られた髙橋龍也氏がアカウントをお持ちでしたので、「1997年『To Heart』において執事が「セバスチャン」と改名されておりますが、その発想の由来などをお聞かせ願えますでしょうか?」と確認したところ、「『アルプスの少女ハイジ』でしょうか」という回答を得ました。

少なくとも、ミーム的な「執事といえばセバスチャン」というものではありませんでした。

ただ、先の「作品内か作品外か不明」とあるように、たとえば『ToHeart』の場合、雑誌や攻略本、あるいはアニメ化・ノベライズ化もあったため、メディア展開の中で「執事といえばセバスチャン」と、別の語り手が述べている可能性もあります。この辺、調査の難しいところです。

続いて作品を見ていくと『腐女子彼女。』(2005年)があげられています。こちらは確認済みで、2005年11月の記述として、「執事といえばセバスチャン」「セバスという略称」「セバスチャンは受け」という記号的認識が表明されています。

『私の王子様』(明石はるか、一迅社)は2018年、『ゲート・オブ・アミティリシア・オンライン』(翠玉鼬、小説家になろう発表・商業化)は2013年からの発表です。

ここで気になるのは『純情ロマンチカ』の執事・田中がセバスチャンと呼ばれる6巻(2005年11月)についてで、この11月に『腐女子彼女。』で「執事といえばセバスチャン」との言及があり、時期が符合しますので『純情ロマンチカ』を参考にしている可能性が高いと思います。

『純情ロマンチカ』6巻p.82
『純情ロマンチカ』6巻p.83

続いての記述では、「ギャグ系の少女漫画」「ギャグ漫画」とあり、『サディスティック・19』と思われます。また「30年ぐらい前の同人・ファンロード・アニパロ」系もありそうと思いつつ、あまりに範囲が広すぎて確認の目星がつかないので、調査保留とします。

「テレビ」と「20年くらい前にプレイしたRPGツクールのゲーム」に関しても特定できませんが、年代的に「執事といえばセバスチャン」が確立した後と思われます。

【分岐:「執事といえばセバスチャン」というフレーズを読んだコラム・テキスト】

■設問9. 「執事といえばセバスチャン」だとあなたが思うようになったコラムや評論、ネットのテキストについて、分かる範囲でご記入ください(書名、書き手、文章タイトル、URLなど)

こちらは思い出すことがより難しく、「未回答」が最も多くなっています。そして2番目に来ている「久我さん」は私なので、自分で調査したことをまとめて発表していたら、調査に影響してしまったということでしょう……

「コラムなどの言及」での源流たどりは難しそうでもあります。

【『アルプスの少女ハイジ』の影響か、『ペリーヌ物語』の影響か?】

設問前テキスト

「執事セバスチャン」がいる作品は1990年代から増え始めています。1990年代のクリエイターが作中に執事を登場させようとした際、子供の頃に接した作品にいた「執事セバスチャン」を名前の由来にしたという説があります。

■設問10. 1990年以前に執事セバスチャンがいた作品は『アルプスの少女ハイジ』(1974年)が『ペリーヌ物語』(1978年)が該当します。 あなたはどちらの「セバスチャン」が影響を与えたと思われますか?


ここが今回の調査の最も大きなポイントです。最後の回答にあるように、『アルプスの少女ハイジ』のセバスチャンは「執事」ではなく「使用人」であり、今の時代に連想される執事っぽい外見もしていません。しかも原作小説では「青年」です。

にもかかわらず、「なぜ、執事セバスチャンで、『アルプスの少女ハイジ』が連想されるのか」、私には理解できませんでした。

そうした中、執事セバスチャンを『星くずパラダイス』で登場させた克・亜樹先生にメールで問い合わせた際、『ペリーヌ物語』の影響を受けたと回答をいただき、「もしかして『アルプスの少女ハイジ』の影響はそこまで強くないのでは」との仮説を持ちました。

その検証のために『アルプスの少女ハイジ』と『ペリーヌ物語』どちらの執事イメージが強いかを検証するためにこの設問を設けました。

結果は以上の通りで『アルプスの少女ハイジ』の回答52.6%に対して、『ペリーヌ物語』は4.8%と10倍以上の差がついていることから、「『ペリーヌ物語』の影響を受けた点も指摘できるが、多く(ほとんど)の場合は『アルプスの少女ハイジ』の影響とするのが妥当ではないか」と思える結果でした。

通説を否定するデータが集まるかと思ったものの、通説を補強する結果となりました。よくあることです。

一方で、私は『アルプスの少女ハイジ』か『ペリーヌ物語』かと、排他的な条件として捉えていましたが、アンケートで2つご指摘いただいたように、「両方のイメージの影響を受けたのでは?」とする説には同意する点があります。ただ今回のアンケート設計はその点を踏まえなかったので、その可能性の強さを検証するデータ収集はできませんでした。

その上で、この結果で重要な点は、自明としてきた「『アルプスの少女ハイジ』が影響を与えた」とする説について、「説を知らない・聞いたことがない」とする回答が23%もあることです。また、「聞いたことはあるが、作品に接していない」人の数も多く(これは年代と思える)、この辺りは年齢とクロス集計すると、傾向が見えるかもしれません。

■設問11.あなたがその作品に接した媒体を一つだけお選びください。

この設問も『アルプスの少女ハイジ』と『ペリーヌ物語』を別々に集計する設計にしないといけませんでしたが、分けていませんでした。

この状態で読み解くと、アニメの影響が強いことがうかがえます。質問の意図としては、アニメ以外の「セバスチャン」イメージとして、アニメ版よりも執事っぽい格好や、「執事」と表記されたセバスチャンの可能性を考慮しましたが、回答数はわずかでしたので、今回は重視しません。

【分岐:アニメを選んだ場合】

■設問12.  アニメを見た最初の放送年をご記憶の方は年をお選びください。

この設問を読み解く前提として、「そもそも『アルプスの少女ハイジ』はそれほど視聴されていたのか?」という疑問が私にはありました。

私は1976年生まれで、通しで『アルプスの少女ハイジ』を見た記憶がありません。ただ、私の年代では子供の頃にアニメの再放送が異常に多く、たとえば私個人の経験でも1978-79年放送『はいからさんが通る』、1979-80年放送『機動戦士ガンダム』『ベルサイユのばら』の再放送を小学生の頃に見ていました。

昔は、夏休み・冬休みや、地方局の早朝にもアニメの再放送もありました。

そうした個人の経験はさておき、客観的情報として新聞のテレビ欄を確認するのが良いだろうと考え、年代別テレビ欄を『ザ・テレビ欄 1975-1990』(ティー・オーエンタテインメント、2009年)で確認しました(詳細は以下)。

この資料掲載の情報は東京限定で、かつ全件掲載は困難であるため「4月と10月」を掲載しています。「夏休み・冬休み」など「スポット放送」は含みませんが、『アルプスの少女ハイジ』も『ペリーヌ物語』も1年放送された番組のため、再放送する場合も4月か10月に引っ掛かるだろうと考え、参考にしました。その結果が以下の表です。

『アルプスの少女ハイジ』は『ペリーヌ物語』と異なり、いわゆる「ハウス世界名作劇場」シリーズではないですが、そのシリーズの先駆けといえるため、他のシリーズ作品も含めてリストにしました。

この表を見ると、『アルプスの少女ハイジ』は1974年、1975年、1977年、1979年と1970年代には本放送と3回もの再放送が確認できました。しかし、1980年代に入ってから再放送はありません。

一方、『ペリーヌ物語』の1980年の放送後、1989年に再放送があり、その放送のすぐ近くに『星くずパラダイス』(1990年)、そして『サディスティック・19』(1991年)が続けて発表されています。そして『星くずパラダイス』の著者である克・亜樹先生が『ペリーヌ物語』の影響を挙げられていたことから、『アルプスの少女ハイジ』説はどこまで信憑性があるのか、というこの調査に立ち返ることになります。

ただ、前述したように『ザ・テレビ欄 1975-1990』の掲載情報は非常に限定的で、特にアニメの再放送で重要な地方局が無視されています。

そうした状況であるため、地方局のテレビ欄を収集する困難を克服するため、そして調査前に「地方局で『アルプスの少女ハイジ』を見ていた」と複数の指摘をいただいていたことから、このアンケートで回答を求めました。

次の表が結果となります。

先述したように『アルプスの少女ハイジ』と『ペリーヌ物語』を区別できる設問ではなかったため、今回は『アルプスの少女ハイジ』の結果に近づけるため、設問10で『アルプスの少女ハイジ』を選択し、設問11で「アニメ」を選択した人たちのデータに絞りました。

こうしてみると、本放送があった1974年に回答数が集中ししつつ、1980〜90年代にもアニメを見た人が確認できます(わからないが最も多いですが)。

■設問13.アニメを見た当時、住んでいた都道府県をお選びください。

※2000年代は2000年しか解答項目にないため、参考程度

次はアニメをテレビで見ていた際に住んでいた地域です。こちらは年とクロスすると膨大になってしまうので、年は年代として丸めました。

私がこの調査を行う前に『ザ・テレビ欄 1975-1990』で作成した表では1980年代の『アルプスの少女ハイジ』の再放送は「東京」では確認できませんでしたが(上記でも1980年代の「東京」在住者の回答はない)、全国で見ると数多く放送されていたことが確認できました。

【閑話休題:1990年代の放送環境の整理】

このような再放送の幅広い年代については、最後のアンケートで2つの指摘をいただきました。

劇場版『アルプスの少女ハイジ』の存在

1点目の指摘は『アルプスの少女ハイジ』には「劇場版」があり、それを地上波で使用したとのものです。

調べると『劇場版 アルプスの少女ハイジ』はテレビ版を最初から最後まで編集したもので、1979年に公開されました(便宜的に劇場版・総集編)。劇場版はわずかな時間で放送可能なため、基礎となった「4月/10月の番組表」では見つけにくいものです。さらに、この劇場版はもう2作あり、1974年『劇場版アルプスの少女ハイジ』(テレビ版第4話)と1975年『アルプスの少女ハイジ 山の子たち』(同第45話)が存在しました。

以下は「劇場版・総集編」で、中身を視聴したところ、確かにセバスチャンは一定度合い出ていました(出現時の表現分析は同人誌で行います)。

今回の設問では私が「劇場版」を知らず、「1年間放送のアニメ枠」を前提にしたため、回答では地上放送と劇場版とを区別できませんでした。この辺りは調査を行うことで未知を学び、ブラッシュアップしていきます。

1990年代の衛星放送・映像ソフト化

2点目の指摘が、1980年代生まれで『アルプスの少女ハイジ』の再放送を見たという回答です。その放送媒体として有料衛星放送「キッズステーション」(1993年サービス開始)が挙げられました。

これについては上記の結果が1980-1990年代に放送があったことを示しており、私の初期調査が限定的である結果となりました。

そもそも、調査前の前提として「1990年初頭には『星くずパラダイス』と『サディスティック・19』が出ており、この2作品に影響を与えたのはどの作品か」という仮説の検証がありました。

そして初期調査では1990年代の地上波再放送を確認できなかったため、「1990年代の執事セバスチャンブームはこれらの作品の影響下にある」「再放送がなかったので、直接『アルプスの少女ハイジ』の影響を受けていない」と考え、1990年代を重視しませんでした。

しかし、前述したように『ToHeart』では直接『アルプスの少女ハイジ』の影響を受けていること、そして上記のようの再放送が衛星放送であったことを踏まえると、1990年代も見なければなりませんでした。

この1990年代の影響を見るには、地方局以外に、地上では出ない衛星放送、ケーブルテレビ、そして映像ソフト再生機器の普及率を参照します。

この年代にはNHKのBS放送も始まっており、前述の「キッズステーション」のような「有料衛星放送」、そしてケーブルテレビの普及率も上昇します。

以下、NHKの衛星放送契約数推移と、CS衛星放送契約数、そしてケーブルテレビの契約数の推移です。数字は1989年から始めています。

見ていくと、1990年代を通じてNHKは契約数が1,000万から2,000万超へ、WOWOWなど有料衛星放送も合計で300万台へ、そしてケーブルテレビも(データは1995年から。比較用に他と開始時期を1989年にしている)1,000万を超えます。

出典:総務省 衛星放送の現状 〔令和6年度版〕
出典:一般社団法人 衛星放送協会 有料・多チャンネル放送契約数
総務省 令和5年ケーブルテレビの現状 

こうした時期に再放送があったのでしょう。NHKのアーカイブを確認すると、NHK BSでは2回、再放送がありました。1回目は1987年11月08日から1989年05月21日までです。

2回目は1999年01月07日から1999年06月23日までです(以下リンク)。

『ペリーヌ物語』も、この1999年のハイジ再放送直後の1999年06月24日から1999年10月07日まで放送されました(以下リンク)。ただ1999年にはもう「執事といえばセバスチャン」の傾向が顕著に出ているため、この1999年の影響は無視し得るものです。

1990年代を調査対象に含めてる無視できないもう一つの要素が、VHS・LD・DVDによるソフト化です。『アルプスの少女ハイジ』はVHSで1989年と1997年(廉価版)が、DVDは1999年に出ています。これに劇場版のソフト化も加わります。そしてこの時代はVTR普及率も上昇しており、レンタルビデオ店舗数も増加しています。

VTR:内閣府 主要耐久消費財等の普及率(全世帯)(平成16年3月末現在) 
光ディスクプレイヤー・ディスク:環境省 2.08 主要耐久消費財等の普及率(一般世帯)(その1) 

VTRの普及率は『アルプスの少女ハイジ』のVHSが出た1989年時点ですでに63.7%あり、レンタルビデオも踏まえれば、かなりの家庭で視聴できる環境があったことがわかります。

整理すると、『アルプスの少女ハイジ』は1970年代以降も視聴可能な環境にありました。

  • 放送内容

    • 「テレビ放送版」全話放送

    • 「劇場版」

  • 放送経路

    • 「テレビ放送」(地上波+衛生放送+ケーブルテレビ)

    • 「映像ソフト」(VHS+DVD)

こうして考えると、私が当初想定していた「『アルプスの少女ハイジ』はそれほど多くの人に視聴されていないのでは?」「再放送も少ないのでは?」という初期調査が崩れ、1990年代にあっても一定の影響力を持ち得る環境が残っていたことが確認できます。

【最終設問】

■設問14. あなたが好きな執事を一人だけ、お選びください。

以下、結果です。人気投票ではないのでご参考までというところにて。同人誌版では年代・性別でクロス集計します。

1位:『黒執事』セバスチャン・ミカエリス→盤石です。

2位:『HELLSING』ウォルター・C・ドルネーズ→老年・青年・少年まで完璧な執事です。

3位:『無敵超人ダイターン3』ギャリソン時田。→まさかの3位入り。とはいえ、『サディスティック・19』でも「セバスチャンか、ギャリソンか」と言われていた存在ゆえにメジャー度合いが高いです。

それにしても、ここでも『ちびまる子ちゃん』セバスチャンが強すぎ、追跡調査の必要性を感じています。

備考

秘書や従者も混ざっていますが、この辺りは広義の執事にしています。

一部、同じ作品でも名寄せしていないものもあります。以下、いくつか事例を挙げていきます。

  • 映画『アイアンマン』J.A.R.V.I.S.はAIで、同作の原作の執事エドウィン・ジャーヴィスの名前に由来します。ただ、AIと人間なので、分けました。

  • ジーヴスはシリーズで集約しましたが、『プリーズ、ジーヴス』のみ勝田文先生の漫画版として別カウントしました。

  • 映画『リトル・マーメイド』のセバスチャンは1名だけ、自由記入でセバスチャンのフルネーム「ホレイシオ・フェロニアス・イグネイシアス・クラスタシアス・セバスチャン」で投票してくださった方がいました。意思を尊重し、別カウントにしています。

【フリーコメント】

最終設問後にフリーコメントをいただきましたが、今回は公開しません。同人誌か、別の機会にします。

【宿題・継続調査】

  • 1990年代に執事セバスチャンを出したクリエイターへの確認

    • 『ちびまる子ちゃん』 公式サイトで問い合わせ+コミックス確認中。

    • 『サディスティック・19』白泉社に取材申込中。

    • 『スレイヤーズ』神坂一氏公認FC「めがぶらblog」で問い合わせ中。

  • 2000年代

    • 『腐女子彼女。』ぺんたぶ氏への「執事といえばセバスチャン」認識の問い合わせ予定。

  • アニメ『アルプスの少女ハイジ』セバスチャンの描写確認

    • 外見は執事らしくないが、仕事が執事らしいかを確認中。

【この後】

今回の調査結果とこれまでの論考を整理した同人誌を、2024年8月夏コミ刊行の予定で準備中です。

いただいたサポートは、英国メイド研究や、そのイメージを広げる創作の支援情報の発信、同一領域の方への依頼などに使っていきます。