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「執事といえばセバスチャン」考察の追跡調査報告1 『ペリーヌ物語』の影響考察

はじめに

1年半前に、「執事といえばセバスチャン」はいつ成立したのか? 執事ブーム以前のセバスチャン考察 を書きました。その後の調査の途中経過記事です。この段階でも調査が終わっていないのですが、「#エアコミケ」参加予定日の5/4(月)に、集まっている情報からのテキストを公開します。まとまり次第、前作とあわせて同人誌にする予定です。

復習しますと、元々日本の漫画やアニメなどで「執事キャラクター」が増加していくトレンドが1990年代に目立ち始め、2000年代に顕著になり、2006年には執事喫茶も誕生しました。1990年代には執事が「青年化」「少年化」する傾向もあり、それまでの「じいや」ポジションから脱却して活躍の機会を広げていました。

その辺を書いたのが『日本の執事イメージ史 物語の主役になった執事と執事喫茶』です。


ただ、この出版時は「執事といえばセバスチャンというのはいつ成立したのか?」を細かく追いきれなかったので、考察と情報収拾を兼ねて、記事を公開したのが、先ほどのnoteです。

【確認したいこと】どっちのセバスチャン?

私が知りたかったことは、通説となった「執事といえばセバスチャン」の源流が「いつぐらいに成立したか」ですが、もうひとつ、「執事といえばセバスチャン」の「セバスチャン」は『アルプスの少女ハイジ』(1974年放送)由来か、というところになります。

最大の疑問は、『アルプスの少女ハイジ』に登場するセバスチャンは、以下の点で「執事イメージ」ではないので、「源流」として良いのか、確証が持てないことでした。

■1. セバスチャンは「男性使用人」であり、「執事」ではない
アニメでも原作小説でもゼーゼマン家の責任者としてロッテンマイヤー(アニメ:女執事、原作:ハウスキーパー=女性使用人責任者)がいます。セバスチャンはロッテンマイヤーの「下」に位置するので、「ハウスキーパーと対等な執事」ではありません。

■2. セバスチャンの外見が執事っぽくない
アニメのセバスチャンは中年男性で、白髪ではなく、黒服でもなく、「執事セバスチャンとして描かれるじいや的執事」ではないのです。原作では「青年」とされています(名前も原作では「ゼバスチャン」)。

FireShot Capture 060 - =What's HEIDI_= キャラクター紹介フランクフルト of アルプスの少女ハイジ公式ホームページ - www.heidi.ne.jp

http://www.heidi.ne.jp/pg145.html から引用

この2点から、執事を描こうとする人が「執事といえば、『アルプスの少女ハイジ』のセバスチャン」とダイレクトに連想して創作に反映して、かつ受け手側がそれを受け止められるだけの共通認識ができる環境にあったのかを知りたいと思いました。

家事使用人研究者の観点では、セバスチャンの役割は執事の下にいる「フットマン」(予算管理や人事管理をしない、執事の部下)が該当すると思います。

余談ですが、世界名作劇場についての専門家として数多くの同シリーズの著作を出されているちばかおり氏のハイジの研究本でも、原作のゼバスチャンのことを「ほとんど執事」と解説しています。この点から、「セバスチャンを執事として認識する」(実際にそう思っている人もかなりいる)こと自体は、不思議ではありません。

“フランクフルトに来たハイジ、父親のような気配りを見せる気のいい青年ゼバスチャン。ペーターによく似た丸い大きな目をしていて、ハイジの窮地を何度か救ってくれるハイジの味方。ボーイのような服を着ているとあるが、彼の任務は来客の応対、食事のサービス、銀食器の管理など、男性使用人の長に近く、ほとんど執事といってもいい存在。
(『図説 アルプスの少女ハイジ』p.45から引用)

では、「執事セバスチャン」の源流としてふさわしい人が他にいるのかとの問いに対しては、『アルプスの少女ハイジ』(1974年)放送後の1978年、世界名作劇場シリーズの『ペリーヌ物語』(1978年)の「執事セバスチャン」が挙げられます。

おしろ

『ペリーヌ物語』第41話「お城のような家」

見た目上は「執事」であり、老人であり、服も執事イメージを伴っているコーディーネートです。

【疑問解消の手段1】 「執事セバスチャン」を描いた方達のへヒアリング

「執事といえばセバスチャン」の通説が成立する前に「執事セバスチャン」を描いていた方達へ、「誰をモデルにしたか」を質問しました。

前回の記事では、以下の執事をリスト化しました。

01. 1974年『アルプスの少女ハイジ』セバスチャン
02. 1978年『ペリーヌ物語』セバスチャン
03. 1989年『ちびまる子ちゃん』セバスチャン
04. 1990年『星くずパラダイス』セバスチャン
05. 1991年『サディスティック・19』セバスチャン(崇一郎)
06. 1997年『パズルアリーナ闘神伝』セバスチャン
07. 1997年『To Heart』セバスチャン(長瀬)
08. 1998年『プリンセスナイン 如月女子高野球部』セバスチャン
09. 1998年『アキハバラ電脳組』セバスチャン(山田良男)
10. 1999年『戦う!セバスチャン』ロード・セバスチャン ☆青年執事
11. 2000年『マリオストーリー』セバスチャン
12. 2002年『幻想水滸伝III』セバスチャン
13. 2003年『TO THE CASTLE』セバスチャン(ラモン・ボンヅゥオ)
14. 2003年『マテリアルナイト 少女は巨人と踊る』セバス
※セバスチャンの後に()がある執事は、()内が本名。

『日本の執事イメージ史』2005年までの主要な執事リスト
http://spqr.sakura.ne.jp/wp/archives/1735

今回、ヒアリングの対象とした漫画家は、1980年代後半から「執事セバスチャン」(またはセバスチャン)を描いた3名の方です。

1. さくらももこ氏(『ちびまるこちゃん』「ホームヘルパーのセバスチャン」との表記)
2. 克・亜樹氏(『星くずパラダイス』セバスチャン)
3. 立花晶氏(『サディスティック19』セバスチャン)

このうち、さくらももこ氏は故人のため、克・亜樹氏と立花晶氏に問い合わせを行い、克・亜樹氏から公開を前提にご回答をいただくことができました(立花氏にはメール、Twitter、出版社への手紙で連絡してご回答をお待ちしている段階です)。

克・亜樹氏からの回答

「星くずパラダイス」のセバスチャンの名前の由来ですが、元は僕が大好きなアニメ「ペリーヌ物語」のキャラの執事セバスチャンからです。
更に「アルプスの少女ハイジ」にも執事(アニメでは使用人ですが)という名前が出てくるので執事といえばセバスチャンしかいないと思っていました。
当時は「執事はセバスチャン」というムードは無かったと思います。
「星くずパラダイス」のセバスチャンがドイツ出身なのはハイジからなんとなくそうしました。(フランクフルトなので)

繰り返しですが、以下がセバスチャンです。

画像3

『星くずパラダイス 1』(克・亜樹、小学館)p.19から引用

『星くずパラダイス』の執事セバスチャンは1) 『ペリーヌ物語』登場のセバスチャンに由来、2) ハイジにもセバスチャンがいて、重なるところがあり、セバスチャンしかいない、3) ドイツ出身設定は、ハイジに由来とのことでした。

そして「発表時点ではまだ「執事といえばセバスチャン」との認識は、広く普及していなかった」とのご回答をいただけました。

この辺りは、個人的な認識と合致していますが、想定よりも『ペリーヌ物語』の影響が強いことが印象的でしたし、『アルプスの少女ハイジ』の存在感の強さも裏付けられています。

ここで「執事を、セバスチャンに改名させた」作品『サディスティック・19』著者・立花晶氏の見解が得られれば、回答が得られるように思います。「執事をセバスチャンに改名させる」ことをしている描写は、私が調べた範囲では『サディスティック・19』が原点となるからです。

その考察は前回のnoteに書きましたが、画像で再掲します。

FireShot Capture 061 - 「執事といえばセバスチャン」はいつ成立したのか? 執事ブーム以前のセバスチャン考察|久我真樹|note - note.com

この「セバスチャン」と改名させられたエピソードを見直すと、執事の名前は「セバスチャンか、ギャリソン時田」という選択肢になっています。「ハイジ」「ペリーヌ」、そして「ギャリソン時田」と執事たちの画像を比較すると、ビジュアルでが『ペリーヌ物語』の方が「ギャリソン時田」とのイメージに、まだ近い印象を受けます。

・立花晶様ご本人、ご友人の方、編集者の方がご覧になっておりましたら、こちらも是非、お送りしたお手紙等へご返信いただければ幸いです。
・生前のさくらももこ様から、セバスチャンの秘密をお聴きになった方、テキストが残っている方がおりましたら、こちいらも是非お願いいたします。


【疑問解消の手段2】 テレビ再放送によるイメージ接触機会

前回のnoteで私の感覚として、「1974年放送の『アルプスの少女ハイジ』が1990年代の作品群に影響を与えるのか」という疑問がありました。それに対しては「幼い頃に見ていた作品を、プロになった際に描いているので、問題ないのでは?」とのご指摘をいただき、納得しました。

その中でもう少し知りたかったのは、再放送の存在です。私自身(1976年生まれ)は子供時代に『アルプスの少女ハイジ』の再放送を見た記憶がありません。『アルプスの少女ハイジ』は1970年代の作品であり、ビデオデッキ・レンタルビデオも普及していなかった時期にどれだけイメージが伝わったのかに疑問がありました。

コメントで「再放送が多かった」と指摘をいただいたことと、自分自身再放送で1970年代の『はいからさんが通る』や『機動戦士ガンダム』『超電磁ロボ コン・バトラーV』『アタックNo.1』などを見た記憶はあることから、「ハイジ」も「ペリーヌ」も再放送が多かったかのではないかと考え、調べてみました。

調査手法は、1975〜1990年までの東京のテレビ欄を集めた『ザ・テレビ欄 1975-1990』を入手して、目視で『アルプスの少女ハイジ』と『ペリーヌ物語』(あと、世界名作劇場が好きなので、その再放送も)を抽出しました。

以下が、そこから作成したリストです(東京の新聞欄です)。

放送年調査のコピー

このリストから、以下のことがわかります。

・『アルプスの少女ハイジ』は1974年の本放送終了後、1975年、1977年、1979に合計3回再放送している。1980年代に再放送はない。
・『ペリーヌ物語』は1978年の本放送終了後、1980年、1989年に合計2回再放送している。

面白いのは、この『ペリーヌ物語』の1989年再放送すぐ近くに『星くずパラダイス』(1990年)、そして『サディスティック・19』(1991年)が続けて発表されていることです。

もちろん、このデータだけでは完璧とはいえません。この元データは各年の番組改編期の4月と10月の1週間の番組表をそれぞれ抽出したものであり、「夏休みに放送したアニメの再放送」が抜けています。

また、1991年以降の再放送データはないので、続刊を手配中です。1990年代に『アルプスの少女ハイジ』の再放送がなかったとはいえません。

さらに、地方局がやはり無視できないです。以下、前回のnoteでいただいたご指摘です。

FireShot Capture 065 - 「執事といえばセバスチャン」はいつ成立したのか? 執事ブーム以前のセバスチャン考察|久我真樹|note - note.com

またTwitterでも同様のご指摘がありました。

というのを考えていくと、このテキストを読んだ皆様の記憶を教えていただくのがよさそうなので、近日中にアンケートを用意する予定です。

現時点での中間報告まとめ

今回、1) 克・亜樹様のご回答(『ペリーヌ物語』の影響がある)と、2) 『ペリーヌ物語』の再放送が1989年にあり、3) かつ「執事セバスチャン」を描いた漫画『星くずパラダイス』(1990年)、『サディスティック・19』(1991年)と放送が近い年に発表されている点で、この時期の「執事セバスチャン」イメージ作成には『ペリーヌ物語』の影響が想定以上にあるのではないかと、考察する次第です。

もちろん、『アルプスの少女ハイジ』という国民的作品の影響力を軽視するものではありません。前のテキストにも書きましたが、『アルプスの少女ハイジ』のVHS、LDなども1980-90年代に発売されており、絵本やフィルムコミックも出ています。また1990年代には春日井製薬がお菓子のCMにハイジを起用したともあります。

この辺りはテレビ欄調査の追加と合わせて、行えればと思います。

最後に、次に向けての本筋での課題を整理しておきます。

1. ブーム前に「執事セバスチャン」を描かれた方達(今回言及した方達)は、どの執事セバスチャンに影響を受けたか?
→立花晶様からお話を伺えれば、クリアに。

2. 「執事といえばセバスチャン」として「本名があるのに、改名させる」起点は『サディスティック・19』が起点か&ブーム後は「執事だからセバスチャンと命名したのか?」
→ここについても『アルプスの少女ハイジ』起因では説が見受けられるので、ヒアリングを考えます。

うかがいたいのは、以下の作品群です。

06. 1997年『パズルアリーナ闘神伝』セバスチャン
07. 1997年『To Heart』セバスチャン(長瀬)
08. 1998年『プリンセスナイン 如月女子高野球部』セバスチャン
09. 1998年『アキハバラ電脳組』セバスチャン(山田良男)
10. 1999年『戦う!セバスチャン』ロード・セバスチャン ☆青年執事
11. 2000年『マリオストーリー』セバスチャン
12. 2002年『幻想水滸伝III』セバスチャン
13. 2003年『TO THE CASTLE』セバスチャン(ラモン・ボンヅゥオ)
14. 2003年『マテリアルナイト 少女は巨人と踊る』セバス

どう聞いていくかが難しいのですが、どうか、この記事が目に入った際は、ご連絡・ご回答をいただければ幸いです。

「調べること多く残っているじゃん!」と思いつつ、コミケ98にあわせてテキストを公開することが優先したので、ご了承いただければと。

エアコミケや、同人誌の通販委託などは以下のブログにまとめています。

執事に興味をお持ちいただけたら、是非、『日本の執事イメージ史』を。星海社のサイトでためしよみできます。




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