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【小説】或る妄想、闇に沈み眠れ(10)

この話は、フィクションです。

注意喚起

Tさんあてにレターパックを投函して、一週間ほど経過しただろうか。

Tさんから結果が返ってきた。

封筒の中には簡素な手紙。便せんにこう殴り書きされていた。

しらべられる範囲でやりました。
これ以上は怪しまれる。
クビがトブ。やばい。
ごめんね。
ちなみにXデーは3年以内。

手紙と一緒に一枚のmicroSDカードが同封されていた。

わたしは急いで部屋の中からカードリーダーを探した。microSDカードの読み取りなど久しくしていなかったので焦った。汗だくになりながらカードリーダーを探し当て、パソコンにセットする。

念のため、パソコンからインターネットは『切断』しておく。

ローカルな環境でそのmicroSDカードの中身を観た。
2つファイルが入っていた。

まずK/W 作品 2025年~2027年 刊行スケジュール というファイルを観てみる。

びっしりと作業予定が書かれている。大量になにかを刊行するらしい。そしてもうそのスケジュールは2024年から動き始めているようだった。

予定表には作品のタイトルや収録予定の作品の内容などが書かれている……がこれはどう見ても、K/W先生 が手掛けるような内容ではなかった。あくまでファンの感覚でしかないが……K/W先生 が物書きのルールとして守ってきたこと、作家性を保持するために大切にしてきたことをぶっ壊してしまうような内容といったらわかってもらえるかも。そして、この量を K/W先生 がひとりで書き上げる量でないことも……容易にわかる。組織的に動いている……

そして、もう一つのファイル。こちらはMP3……音声ファイル……こっそり録音したのか?Tさん、結構危険なことをしてくれたんだな……

おそるおそる再生してみる。聴こえてきたのはファンの回る音……喫煙室、のようなところか……Tさんと、〇〇さんの会話のようだった。

『おつかれっす~』
『ああ、Tくん。今日もげんきそうだね』
『〇〇さんは、打ち合わせがえりっすか?』
『うん。来年、結構おっきい仕事があってさ~』
『なにかの周年ですか?大御所の』
『あ、まぁ、そんなところ。K/W先生って知ってる?』
『ああ~、怖いショートショートとか書くあの……ゲーム解説とかもする人っすよね?』
『そうそう。その先生のホンがばーっと出るわけよ』
『そうなんですか』
『上の方も乗り気でさ。でもなんか変なんだ。先生の意向なのか、作風がこれまでとガラッと違ってさ。もう原稿が集まり始めてるんだけど…怖いってより、なんだろな…啓蒙……警告?そういう宗教書籍みたいな趣なのよ』
『へえ、なんだか変な話っすね。イメチェンですかね?』
『読み物としては面白いんだけど……全然違う人が書いている、みたいな感じもする……』
『あれじゃないんですか?流行りのAI小説とか』
『いや、K/W先生 は進んでAIに書かせるような人じゃないさ』
『ふ~ん。じゃあ何かお金とかですかね。もしくは社会運動的な……』
『まぁ、オレは編集者だから、先生についていくしかないけどね』

〇〇さんは、一介のサラリーマン編集者として、この件に携わっていると見え、今のところ「敵」ではないようだが…なぜこのようなことになっているか戸惑っている雰囲気だった。コンタクトをとってみる価値はあるのかも……いや、もしかしたら”そう装っているだけ”かもしれないし……

とにかく、3年以内に『 K/W先生 の名をかたった誰か』により、『 K/W先生 がこれまで築いてきたものをぶっ壊すような小説』が次々刊行される……ということは決定事項のようだ。

K/W先生 にそのことを伝えたい……が、敵に気づかれずにやり取りをする方法が思い浮かばない。先日DMをもらったアカウントに連絡をいれてもいいのか?いや…敵が勘付くかもしれない……

頭のなかがぐちゃぐちゃだ!

……あの時せめて、K/W先生 におおよその滞在場所くらい確認しておくべきだった……

出版を止める方法は何かある?テロリストのように過激にアプローチしたところで、わたしがお縄になる可能性がある……それだと相手の思うつぼじゃないか。

残された道は、直接対決か……

K/W先生 のふりをしているモノが偽物だと世間に暴露し、追放する……

そんな大掛かりなことを遂行させる方法はあるのか……?

(つづく)


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