奥様の日々(奥様の日続き)

この話はYouTubeで朗読をされているemiko様の朗読用に書き下ろしをしたものです
https://youtu.be/I4fiY7PdNnM?si=VheVAK__SMKc6374


結婚をして後悔した日は沢山ある

「ずっと君の笑顔を見ていたい」

なんて青臭いセリフを信じてしまった小娘の頃

当時は女は20代のうちに結婚しないと負け組だった

一目惚れされて、優良企業の出世頭

顔もソコソコイケメン

打算はあった

フタを開けてみればマザコンの亭主関白

結婚を機に専業主婦となった私に別居している姑わざわざ赴き定番の嫁イビり

子供は男子一択

義務のような子作り

妊娠しても夫の自由は変わらず、私は1人で家事、毎日のように姑の家事指南と言う嫌がらせ

私もやられてばかりではなく、迎撃すると姑から鬼嫁呼ばわり

旦那も

「何で母さんと上手くやってくれないんだ」

とママの言いなり

だから夫も敵となった

お金だけはきちんと入れてくれる今で言うところのATM

出産後は姑を一切受け入れず、夫も今までのイビりを説明し、理解してもらった

つもりだったが

「部屋が汚い。やはり母さんに来て貰わないと」

等と言ったので実家の母に手伝って貰い、姑の襲撃を防いだ

「お前は子供を産んでから変わった。詐欺に遭ったみたいだ」

子供が出来てから一切の肌の触れ合いが無くなった夫に言われたセリフに

「こっちが詐欺に遭ったのよ。何が私の笑顔を見ていたいよ。親子で私を鬼にして!

このマザコン!」

当時流行りだしたマザコンを連呼してやった

子供が大きくなってからも喧嘩の種は尽きなかった

私のパートや愚痴、子供の進路に至るまで

子供が自立し、結婚した後も私達夫婦は上手くいかず

夫が好きだと言った笑顔なんて出す暇もなかった

しかし、30回目の結婚記念日兼私の誕生日が近付いたある日

「今度の結婚記念日、食事に行かないか?部下に旨い店を聞いたんだ」

思ってもみない言葉を夫から貰った

「最近俺達喧嘩ばっかりだったからな」

照れ臭そうな夫の話に

「そうね」

私も久し振りに夫の前で笑顔を見せた

30回目の結婚記念日は本当に楽しかった

とっておきの服を身に付け、2人で行ったデートの場所を巡り

素敵なレストランで美味しい食事

2人で思い出を語り、笑い合い

お酒を呑み

眠くなって

気がつくと暗い森の中

夫と

首を絞められた自分自身の体

「愛してるよ。中身を入れ替えて愛し続けるよ」

私の死体を撫で回し笑いかける夫の側には白骨死体

女物の服を着た死体と私の死体を見て笑う夫の姿は異様で

しかも

「あら素敵な紳士だこと」

クネクネとおかしな腰つきの男が私の体に入り込もうとしていた

「ちょっとあんた!何で私の体に入り込もうとしてんのよ!」

「だぁってぇ~!アタシの体は骸骨になっちゃったしぃ!あんたはもう死んじゃったんだし。あの体も要らないでしょ?」

オカマと体の取り合いをし、結局同じ体に魂が2つと言うおかしな状況になってしまった

しかも体の動きがぎこちない

「所であんたは何でこの体に入り込もうとしたの?」

同居人となってしまったオカマと情報を共有しようと思った

「あの樹海で仲良くなったアタシのオカマ仲間が、ラブドールを持ったイケメンに会っちゃってぇ。樹海にラブドールを持ってくるのっておかしくない?でもイケメンだからそのラブドールに入り込んじゃったの」

ラブドールと言うものがなんなのかは知らないけれど、人形に霊が乗り移る話はよく聞く

「だからアタシもセカンドライフを楽しもうと思って」

このオカマも恋人によって樹海で殺された様で

「アタシ達って最高に男運が悪いわねえ」

夫に殺された恨みも憎しみも

忘れはしないけれど

お互いに過去を笑い、うち解け合った

それから自宅に戻り、動く死体となった私とオカマと夫の奇妙な同棲生活が始まった

首を絞められたせいか、声がでなくなってしまったが、死語硬直が解けた体は普通に動いた

加齢による腰痛やあちこちの痛みも無くなった体は軽やかに

とは行かないが、家事は順調にこなした

またオカマも料理が得意なようで、舌の肥えた夫を満足させた

夜の生活も毎日のように行われた

出産後からの心身の不調も夫に対する憤りもない今、拒否する理由もない

夫は毎回私の体の隅々まで触って揉んでくる

若い頃とは違い

垂れた胸

ぽよぽよのお腹

たるんだ尻

皺が目立つようになった顔

白髪の方が増えた髪

全てをいとおしそうに撫で、愛の言葉を囁く

「この柔らかさ。やはりお前が最高だ」

若い女には目もくれない夫の理想はやはり母親なのだと知らされた

「良い旦那さんよねぇ。さっ!交代よ」

「それは絶対嫌!」

私達夫婦の営み中にオカマが邪魔をして来るのも小さなストレスでもあった

一度私の体を貸した時、いきなりお尻を夫に付きだした

夫は戸惑いつつもお尻を撫でてくれた

「私達はアブノーマルな行為はしないの!」

夫が寝た後は体内での説教コースに移行した

「あらやだごめんなさい。男同士でしかやったこと無いから」

楽しそうに笑うオカマの無邪気さに脱力したが、今の若い子はこんなものだと自分を納得させた

この珍妙な同棲?生活はなんだかんだでうまく行っていた

夫は昔の優しさを取り戻し、オカマのポジティブさや、おしゃべりの上手さに癒されていた

しかし、元々嫌な事から逃げ続ける夫の悪癖は直らなかった

「何か臭いな」

異臭を帯びた室内に夫が眉をしかめる

私の体が腐り始めたのだ

気温が下がっていたから腐敗も時間がかかった

「死体だとこんなに不便なのか」

ため息を吐く夫の頭の悪さにめまいがする

ここまでバカ旦那だとは思わなかった

「ねえ、言っちゃあ悪いけどあんたの旦那って無計画じゃない?」

オカマの同情的な眼差しが痛い

「俺もあいつみたいにラブドールにすべきだったな」

妻の前で堂々と最低発言をするこの男

「何でこんな人を選んじゃったんだろ」

PCの検索履歴からラブドールを注文した事を知る

「ラブドールって等身大の人形なのね。しかも若い子が多い」

「特注なら年齢はいくつにでもなれるわよ」

「あ、ほんとだ。オプションがある」

案の定夫は中高年のおばさん顔を選んでいた

しかも姑に似てる

「どんだけマザコンなのよ」

泣いてる私に寄り添ってくれたのは皮肉にも肉体を取り合ってるオカマだった

「もう2度も殺されたくない」

ひとしきり泣いた後私は決意した

カレンダーを見ればもうすぐ夫の誕生日

「11月22日。夫の誕生日なの」

「いい夫婦の日ね。なんか皮肉ね」

笑うオカマに私も笑う

「それでもあの人の事が好きなのよ」

「で、あんたはどうしたい?」

オカマの問いに私の決意は決まった

「あの人が理想家族が欲しいなら叶えてあげるのも女房の仕事よ」

腐っていくこの体が動くうちに


11月22日


「準備は全部整った」

オカマ仲間のラブドールさんと共に隣町の息子夫婦の遺体をトランクに詰め込んだ

後は睡眠薬入りの酒をたらふく呑んでおかしなイビキをかいている夫を運ぶのみ

「あなた。家族団欒の時間ですよ」

あの樹海で私達はもう一度家族に戻るのだ







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