通訳珍場面2選
私は社内通訳時代が比較的長く、色々な会社の中で集中的に通訳経験を積むことができました。これはフリーランス通訳者になった今でも非常に重宝していると感じています。今回はそんな約8年半の社内通訳時代で直面した、通訳珍場面集をお届けします。
1) 隣部屋でドリル工事
これは私がUSJで通訳していた時代のことです。そこは少し広い会議室で、コの字に机を並べて関係者が見える形で座っていました。そして会議室はポリコムでアメリカ繋がり、私はその同時通訳を担当していました。
ポリコムから出てくる音をそのまま拾って、同時通訳するのは、思っていたより難易度が高い通訳形態でした。というのも耳にイヤホンをなどをつけて直接聞くことができないため、かなり集中して聞かないと周りの音にかき消されてしまい、訳すべき音を聞き漏らしてしまうのです。私はその日も神経を一点集中して訳していました。
するとある時、爆音が聞こえました。何かと思ってあたりを見回すと、隣の部屋からドリルか何かで工事を始めていたのです!もちろん爆音のせいで殆ど何も聞き取れません。さあ困りました。
社内通訳はこういう無茶振りな通訳場面も、何とかして乗り越えなければいけない時があります。僕はそういう冒険的なところが好きなのでやって来れたと思いますが、保守的で予定調和のみを好むような人の場合、工事の音で集中力の糸が切れてしまい、通訳を諦めることもあるかもしれません。
爆音に晒されながら、僕は音が聞こえない時は何度も聞き返しました。通訳者にとって聞き返すのは恥なのですが、状況が状況です。コミュニケーションを成立させることが自分の仕事だと思い直し、本当に一つ一つ、地道に泥臭く通訳しました。
すると会議終了間際に、USJのみならず他社の参加者も「過酷な環境でよく通訳してくれた」と拍手してくれたのです!その拍手を僕は今でも忘れることができません。やはり人は見てくれているんだという感覚を、改めて持ちました。同じ環境で通訳するのはもう御免ですが(笑)。
2) パナガイドに駅内アナウンスが流れる
これもUSJ時代の出来事です。USJではパークを回りながら議論することは通訳場面としてよくあったのですが、その中でも面白かったのがパナガイドの混線です。
パナガイドというのは、パナソニック社の無線機器です。通訳者はこれを使って日本語と英語(もしくは他の外国語)に通訳していきます。
パナガイドにはチャンネルが設定されており、多くの場合、CH1からCH6まであります。それぞれのチャンネルは周波数で区別されているようです。そしてこの周波数こそが、混線を引き起したのです。
ある日、CH1を日本語に、CH2を英語に設定して通訳していたのですが、これらのチャンネルが突然他の周波数と混線しました。おそらくどこかで同じ周波数を使っていたが為に、こちらのパナガイドの音が出なくなってしまったのでしょう。仕方なくCH3を日本語、CH4を英語に再設定し、通訳を聞いてくれている皆さんに状況を説明し、仕事を再開しました。
すると今度は、何と最寄のユニバーサル・シティ駅からのアナウンスがパナガイドから聞こえてきたではありませんか!僕はフリーランス通訳者と組んでいたのですが、二人で大笑いしてしまいました。パナガイドから「次の電車は〜西九条経由〜大阪行き〜」とか聞こえてくるわけです。これはもう文字通り、仕事になりませんでした。渋々、CH5を日本語、CH6を英語にチャンネル設定を変えました。
これまでのパナガイド使用歴で、CH5,6まで使用することになったのはあれが最初で最後だったかもしれません。
コロナ禍の今はパナガイドを使って通訳するような密集会議はほぼ行われていないと思いますし、何せZOOMやTeamsで行う同時通訳が急激に増えました。このようにパナガイドは今や、通訳者にとってひと昔前の道具になってしまったのかもしれません。僕にとってパナガイドという言葉には、今や時代を感じさせる響きすらあります。
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