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米国連邦最高裁、譲渡人禁反言の法理を維持しつつ、適用範囲を限定

アメリカ合衆国最高裁判所(連邦最高裁)は、2021年6月29日、特許の無効主張に関する「譲渡人禁反言(Assignor Estoppel)」の法理は依然として有効であるとしつつ、その適用範囲を限定する判決をしました(Minerva Surgical, Inc. v. Hologic, Inc.)。

譲渡人禁反言の法理とは、米国特許について特許権侵害を主張された被疑侵害者が、過去に当該特許を譲渡した者である場合には、当該被疑侵害者が特許無効を主張することは禁反言の法理により禁止される、という法理です。米国において、譲渡人禁反言の法理は判例法として認められてきました。

本件の事案では、発明者Aが特許出願を行った後、当該特許出願に関する権利を会社Bに譲渡し、会社Bが米国特許商標庁(USPTO)から特許を受けました。会社Bは当該特許を第三者に譲渡し、当該第三者は当該特許を原告会社Xに譲渡しました。
その後、発明者Aは被告会社Yを設立し、事業を開始しました。他方、原告会社Xは、本件特許について継続出願(Continuation Application)を行い、従前は存在しなかった請求項を追加した上で、当該請求項に基づき、被告会社Yに対し、特許権侵害訴訟を提起しました。
訴訟において、被告会社Yは、追加された請求項が明細書の記載に合致せず、特許は無効であると主張したのに対し、原告会社Xは、被告会社Yの無効主張は譲渡人禁反言の法理により禁止されると反論しました。連邦地裁は、原告会社Xの主張を認め、連邦巡回控訴裁判所(CAFC)もこれを支持したことから、被告会社Yが連邦最高裁に上告受理の申立てをしました。

今回、連邦最高裁は、譲渡人禁反言の法理は依然として有効であると判断しました。
連邦最高裁は、特許の譲渡人は、譲渡の際、当該特許が有効であることについて黙示的な表明を行うものであり、後に、特許が無効であると主張することは、この黙示的な表明と矛盾し、公平の原則に反するものであって許されないと指摘しました。

他方で、連邦最高裁は、譲渡人禁反言の法理が適用されるのは、あくまで、譲渡人が譲渡の際に行う黙示的な表明と、無効主張とが矛盾する場合に限られる、としました。
連邦最高裁は、譲渡人禁反言の法理が適用されない場合の例として、(1)従業員が会社に対し、特許出願前に特許を受ける権利を譲渡した場合、(2)特許の譲渡後に、法令の変更等によって特許に新たな無効理由が発生した場合、(3)特許の譲渡後に、従前の請求項よりも実質的に範囲が広い新たな請求項が追加された場合、を挙げました。
その上で、連邦最高裁は、本件において、原告会社Xが継続出願により新たに追加した請求項が、譲渡時に存在した請求項よりも実質的に範囲が広いものであるか否かを判断させるため、本件を連邦巡回控訴裁判所に差し戻しました。

(文責:乾 裕介)

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