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抗精神病薬「エビリファイ」®用途特許の無効審決の取消

「エビリファイ」®の効能・効果のうち、うつ病と双極性障害を保護する用途特許に対し無効審判が請求され、双極性障害を保護するクレームを無効にする審決が出されていました。この度、この無効審決を取り消す判決が出されました(知財高判令和3年12月27日、令和2年(行ケ)第10077号、78号、79号、80号、81号、82号、83号)。
https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/857/090857_hanrei.pdf
https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/856/090856_hanrei.pdf
https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/855/090855_hanrei.pdf
https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/854/090854_hanrei.pdf

「エビリファイ」®(一般名:アリピプラゾール)を保護する物質特許は既に満了しており、用途特許(第4178032号、以下「本件特許」という。)により保護されていました。そして、本件特許で保護されない統合失調症を効能・効果として、再審査期間が終了後、多数の後発医薬品が承認されました。
一方、本件特許で保護される双極性障害は、再審査期間が終了したにもかかわらず、後発医薬品の効能・効果として承認されませんでした。

エビリファイ®の後発医薬品を販売していた共和薬品、ニプロ、東和薬品、および、Meiji Seikaファルマが、本件特許に対し無効審判を請求し、日医工および大原薬品が請求人側に参加しました。審理の結果、双極性障害を保護するクレームは実施可能要件およびサポート要件違反により無効、うつ病を保護するクレームに対する請求は棄却との審決がされました(令和2年5月12日、以下「本件審決」という。)。

本件明細書には、動物を用いた実験で、双極性障害を治療できたことを示す実施例は記載されていませんでした。しかし、双極性障害に関する技術常識の認定が審決と異なることが影響し、審決取消訴訟では、薬理学的試験(in vitro 試験)の結果および技術常識に基づいて、本件発明の化合物を投与することにより双極性障害を治療できることが認識できると判断されました。その結果、双極性障害を保護するクレームが無効との審決が取り消されました。
本件判決に対し、既に上訴されており、無効審決の取り消しが確定するかどうか現時点では明らかではありません。

厚生労働省は、後発医薬品を安定供給するために、有効成分に特許がある場合や、保護する特許が存在する効能・効果等については、後発医薬品を承認しないとの運用を行っています。エビリファイ®の後発医薬品については、無効審決が出された後に、双極性障害の効能・効果を追加する承認がされました。
無効審決が確定する前に、その特許の技術的範囲に含まれる後発医薬品を承認した場合、その審決が取り消されることにより、後発医薬品の販売停止や効能・効果の削除がされる可能性があります。後発医薬品を安定的に供給し、医療現場の混乱を起こさないという観点から考えると、無効審決が確定する前に、その特許の技術的範囲に含まれる後発医薬品を承認することは、好ましくないように思われます。

(文責:矢野 恵美子)


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