見出し画像

第02章

第2章では著者は、人口は等比級数、生活物資は等差級数的であるとした前提を検証し、その抑制方法を考察している。

人口と食糧の増加率の違い(pp.33-38)

早婚によるデメリットが一切なく、早婚が全く抑制されない国はない。つまりどんな国も人口が増加する事を野放しに許容していたわけではない。反対に抑制がなされなければ今までの増加率を超えて増加し続けるとしている。そして人口に影響を及ぼす悪徳[→不倫、と言っても現代的な意味での不倫ではなく、婚前の性交渉を含む]が殆ど存在しない社会があると仮定して次に続けている。

その上でマルサスは人口の増加が抑制されない平等で徳性が高い[→浪費や贅沢をしない]国の例としてアメリカを上げており、実際25年で二倍になっている。

食料はイングランドを見ている。仮に25年で倍増したとしても、次の25年で4倍になることはありえないとしている。なぜなら、土地の性質に限界があるからである[→土地の限界生産力(肥沃度)の逓減]。

したがって二つの増加率が交わるとどうしても、地球全体規模で考えても人口の方が増加力的に勝ってしまう。そこでマルサスはこの二つが釣り合うには必然性という自然法則が常時機能しなければならないと主張した。

増加率の違いの必然的な帰結(pp.38-40)

どのように人間は本能的な増殖の欲求を抑制するのか、ここでは植物や動物と対比するように説明されている。植物や動物は本能的に増殖し、抑制は事後的に行われるのに対して、人間は理性的に多くの要素を考えることで抑制すると述べられている。その要素とは、生まれた子どもを十分に養えるのか、自分の社会的地位はどうなるのかなどと言った、子どもを持つ時に不安になる要素のことだと言える。

下層階級の暮らしぶりの上下運動(pp.40-41)

このような不安があるのに対して、本能的な欲求である人口増加ももちろん行われる。しかし、人口増加の営みの結果は人間の空間と養分の不足を招く。これによってもたらさせる結果としてあるメカニズムが説明されている。それは、先ずはじめに、人間の数と食糧が均衡している状態であるとする。次に人口だけが増え、今までより多い人数で同じ量を分ける必要が出てくる、すると食糧が足りなくなり、貧しい人はより貧しくなったり、労働が安くなったり、食糧の価格の上昇が起きたりする。これにより、土地を改良し、より多くの人が働けるように整備されることでその人数に見合った食糧を作れるようになり、均衡状態に戻る。このメカニズムが恒常的に存在していることで歴史が続いてきたとしている。[写真中央の「人口増加→食糧不足→貧困→改善→食糧増加→人口増加」参照のこと、当時のイギリスの農業は、大規模農場の経営者が農業労働者を雇って営まれていた。]

この上下運動がさほど注目されてこなかった理由(pp.42-44)

このようなメカニズムは明瞭ではなく、それらを知ることは極めて難しいと言われている。その理由としては、我々の知る人類の歴史は上層階級の歴史だけであり、多くの人々に関する重要なデータがないことが挙げられている。また、そのようなデータも名目的なデータと実質的なデータでは持つ意味合いが異なることも一つの理由として挙げられている。これは富裕層の労働市場への介入の仕方が原因であり、賃金の上がり方の不合理も内在している。[名目賃金が変わらずとも、食糧価格が上昇して実質賃金が下がるということはよくあるが、その変化は気付かれにくい。また、救貧法による給付があるために雇い主が賃金をケチるとか、雇い主同士が賃金を低くするよう共謀するとか、で、名目賃金が(したがって実質賃金が)ちゃんと上がらないということもよくある。]

本書の主張全体の基礎をなす3つの命題(p.45)

最後に第2章のまとめとして、①人口増加は貧困や悪徳にしか抑制できないもの、②苦い成分が人生の大部分であること、③これらを生み出した物質的な原因は永続的であることを歴史の中で揺るぎない命題として定義されている。


ディスカッション

資料:ネット記事「「世界人口が増え、食料危機が起きる」のウソ-世界中の農業専門家が作り上げたフェイクニュースの実像に迫る-

  • 穀物生産における技術進歩について、マルサスはまったく考慮していないように思われるが、この記事では「ICTやAI、バイオテクノロジー」など、それが重視されている。

  • この記事では、日本が国際市場で穀物を調達できなくなることはないとされているが、昨今の円安などに鑑みれば「買い負ける」こともあり得るのではないか。[他方、マルサスは国際的な穀物取引を想定しているのか?]

以上

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?