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【お話】ほんものの愛コンテスト #8

魔法使いとお姫さま

 お姫さまは自分のベッドにつっぷして、泣いていました。
魔法で現れた魔法使いは、少し離れたところに立って声をかけました。
 「お姫さま、元気をだしてください」
 「でないわ!」
お姫さまは魔法使いを見ようともせず、しゃくりあげながら言い返しました。
 「ほんものの愛を見せてくれなくちゃ、元気なんかでないわ」
魔法使いは泣き続けるお姫さまを黙って見つめていましたが、やがて覚悟を決めたように口をひらきました。
 「見つけられるわけがありませんよ、お姫さまには」
出てきた言葉は、とても冷たいものでした。
お姫さまは思わず起き上がって、魔法使いのほうを見ました。
 「なんですって?」
涙にぬれた瞳が大きく見開かれています。
 「誰のことも愛していないお姫さまには、見つけられないって言ってるんです」
にこりともせず、魔法使いは続けます。
 「いまのお姫さまに、ほんものの愛を手にする資格はありません」
カッとなったお姫さまは立ち上がって、魔法使いに詰め寄りました。
 「そんなこと正気で言ってるの? どうしちゃったの、魔法使い」
慰めてもらえるとばかり思っていました。
いつもそうだったから。
でも魔法使いは厳しい表情で、お姫さまを見ていました。
 「なぜそんなことを言うの? 一緒にさがしてくれるって言ったわ。諦めるのはイヤよ! わたしにどうしろと言うの?」
またお姫さまの瞳から涙がこぼれ落ちました。
魔法使いは、ふっと表情をゆるめて悲しそうに微笑みました。
 「ほんものの愛は、花でも詩でも宝石でもなく、力でも祈りでもないのかもしれません。けれど…どれも『ほんものの愛』なのかもしれないと、ぼくは思いました」
静かに魔法使いがそう言うと、お姫さまは眉をひそめました。
 「どういうこと?」
 「わかりません」
 「わかりませんって、どういうことなの」
お姫さまはじれったそうに、魔法使いの腕をつかんで揺すりました。
 「ちゃんとわかるように説明しなさい」
魔法使いは、うなだれました。
 

「すみません、言葉にできないのです。とても言葉にして伝えたいのに、ぼくにはどうしてもそれができないのです」
腕をつかんでいた手を離して、お姫さまは無理やり笑いました。
 「お話にならないわ」
呆れたようにそう言って、高らかに笑ってみせました。
そして笑うのをやめると、魔法使いに向かって指をさしました。
 「見損なったわ。あなたがそんなに無能だったとは知りませんでした」
 「すみません」
魔法使いは、小さな声でもう一度謝りました。
 「でもお姫さま、聞いてください」
 「なによ」
 「いくら愛していても、それが相手に届かなかったら悲しいのですよ。その悲しみを知っていなければ、ほんものの愛は見つからないんじゃないでしょうか。いえ、見つけられないんじゃないでしょうか」
魔法使いは必死で言葉を手繰り寄せました。
 「きれいな花が咲いても、どんなに素敵な言葉でも、深い祈りでも。それを受け取ってくれるひとがいてこそ、価値が生まれるものなのかもしれません。受け取ってもらえることを望んでいるのですから」
一生懸命に魔法使いが自分のために話してくれていることは、お姫さまにも伝わりました。
 「それを受け取ってもらえたら、それはどれも『ほんものの愛』なんじゃないでしょうか」
お姫さまの心は揺れました。
でもそれを認めてしまったら、コンテストはどうなるのでしょう。
 「きらいよ、役立たずの魔法使い」
くやしくなって、お姫さまは魔法使いをなじりました。
 「あなたなんて、もういらないわ」
その言葉に魔法使いは一歩、後ずさりました。
 「わたしはほんものの愛がほしいの! 誰がなんと言おうとほしいのよ。言ったでしょう、感じられないのなら存在を否定する、と」
ヒステリックにお姫さまは言い捨てて、魔法使いをにらみました。
魔法使いは黙って、ただ悲しそうにお姫さまを見ていました。
 「なんとかおっしゃい」
苛立ってお姫さまは言いました。
でももう魔法使いには、小さく謝ることしかできませんでした。
 「すみません…」
お姫さまは大きく息を吸い込んで、きりりと眉を吊り上げました。
 「もういいわ! 国外追放を命じます。無能な魔法使いなんていらないから、いますぐ出てお行きなさい!」
そう言って、魔法使いに背を向けました。
 「あなたの顔なんて、みたくもない」
誰だって痛いところを突かれるとくやしいものです。
大好きなひとに厳しくされると、拗ねてみたくなるものです。

 お姫さまは本当に魔法使いを追い出すつもりなどありませんでした。
またいつものくだらない魔法で、ご機嫌をとってくれればいいと思っていました。
今回はちょっとやそっとのものじゃ許せないけれど、でも魔法使いがあわてていろんなものを出して笑わせようとしてくれたら、そしたら許してあげようと思っていました。

でも。
いつまでたっても、魔法使いはなにも言いません。
お花も果物も、鳥も…なにも出てきません。
お姫さまは、おずおずと振り向きました。
 「魔法使い?」
そこに、魔法使いの姿はありませんでした。
がらんとした部屋には、お姫さましかいません。
魔法使いは、ほんとうに出ていってしまったのです。

<#最終回につづく>


くぅの本日のヒトリゴト 2024.9.18

 読みにきてくださって、ありがとうございます。
次回、いよいよ最終回です。

このお話を書き終えると、童話っぽい長編のストックはもうありません。
普通の(?)小説っぽいお話はいくつかあるのですが、もうそれは遺しておきたいとは思っていないので、なにを書いていこうかなと考えているところです。
まあとにかく、最終回とあとがきを早くあげちゃいますね。
あとがきは、当時のあとがきも残ってるから、それと一緒にね(笑)

では、もうしばらくお付き合いくださいませ♪

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