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【お話】お月さまとウサギ


あるところに、ちいさな優しいウサギがいました。
ウサギはお月さまが大好きで、
毎日、毎日、お月さまを見ていました。

お月さまも、ちいさなウサギが大好きでした。
空の上からウサギのことをいつも見ていました。

ある日、ウサギはお月さまに言いました。
「もっと近くに来てほしい…」
って。
「あとほんの少しだけ、近くなりたいです」

お月さまは言いました。
「あんまり近くにいくと、眩しいよ」

大丈夫、とウサギは笑いました。
「眩しかったらサングラスをかけるから」


お月さまは、大好きなウサギに少しだけ近づいてみました。
ピカピカのお月さまが、ひとまわり大きくなると、あたりはとても眩しくなりました。
ウサギは、サングラスをかけて、
「近づけて、うれしい」
って笑いました。
うれしそうなウサギを見て、お月さまもうれしく思いました。


でも。

ハトが言いました。
「眩しくて眠れやしないわ」

ネコも言いました。
「大好きなお星さまが、ちっとも見えないんだけど…」

そんなヒソヒソ話しに、ちっとも気づかないで、ウサギはお月さまばかり見ていました。
「もっともっと近づけたらいいのに…」
って。
いつしか、ウサギの周りには誰もいなくなりました。


お月さまは、悲しくなりました。
悲しくて、笑えなくなりました。
だんだん、細くなっていきました。
そして、ウサギの前からいなくなってしまいました。

『キミのキラキラした目が大好きでした。
サングラスはキミに似合わないよ』
と、書き置きを残して。


ホントは、ウサギにもわかっていました。
近づけてうれしかったけど、いつしかお月さまのキモチは遠く遠く離れてしまっていたこと。

近づくというコトは、
そばにいるというコトは、
こういうコトじゃないんじゃないかって、
ウサギも薄々感じていたのです。

目が真っ赤になるくらい、泣いて、泣いて…
ウサギはサングラスをはずしました。

そんなウサギを心配して、
ハトが歌を歌ってくれました。
ネコも、散歩に誘ってくれました。

「ごめんね」
って、ウサギは言いました。


ウサギは、前よりもっと優しいウサギになりました。


それから、ウサギとお月さまがどうなったかって?

窓をあけて、お月さまを見てくださいな。

ほら、
ウサギが笑ってるのが見えるでしょ?


2010.12.23記

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