【お話】ほんものの愛コンテスト #4
お姫さまの部屋のテラスで
お姫さまはテラスから月をみていました。
今夜の月は三日月でした。
ため息をつこうとして息を吸い込むと、ふいに目の前に魔法使いの顔だけが現れて、お姫さまは目を見開きました。
魔法使いは全身を現して、ふわりと宙に浮いています。
「こんばんは。夜風はお体に毒ですよ」
お姫さまは、さして驚いた顔も見せずにツンと横を向きました。
魔法使いはくすっと笑うと、指をパチンと鳴らしました。
すると魔法使いの手の上には、真っ赤に熟したリンゴが現れました。
「どうぞ」
お姫さまは黙ってそれを受け取りました。
「見つかりませんでしたね、ほんものの愛。諦めたほうがいいのかもしれませんね」
魔法使いがそう言うと、お姫さまは表情をこわばらせて、
「まだ始めたばかりなのに、なにを言うの。諦めたりしないわ。だってどうしても欲しいんだもの」
と、きっぱり言いました。魔法使いは苦笑いをして聞きます。
「お姫さまには愛してくれるひとがたくさんいるじゃないですか。それだけじゃ、足りないのですか」
「わたしは、この目で見てみたいのよ」
両手でリンゴを持って、お姫さまは魔法使いをみつめました。
「見えないものかもしれませんよ」
魔法使いは、ぱっと姿を消してからまた現れて言いました。
「それなら、せめて感じたいわ。そこにあるものならば、感じたり確かめたりできるはずでしょ。でなきゃ愛なんてものの存在は信じられないわ」
月を映して輝くお姫さまの瞳はとても真剣でしたので、魔法使いは困ってしまいました。
「わかりましたよ。そこまでおっしゃるなら、諦めずに明日に期待しましょう。見つかるまで、探すんですもんね」
穏やかな口調でそう言うと、魔法使いはひょいと帽子をとってお辞儀しました。
「おやすみなさい」
くるくると帽子を指でまわして、魔法使いは消えました。
テラスに残されたお姫さまはリンゴをかじろうとしましたが、風が強くなってきたので部屋に戻ることにしました。
それを少し離れた木の枝に腰かけて、魔法使いは見守っていました。
大好きなお姫さまのために、出来ることなら『ほんものの愛』を探してあげたいと思います。
でも魔法使いにも分からないのです。
さっき胸の中で弾けたものが何だったのかわかれば、探せるような気がしていました。
「ぼくは無力な魔法使いだな…」
声に出してつぶやくと、とっても悲しい気持ちになってしまいました。
灯りの消えたお姫さまの部屋の窓を見つめながら、魔法使いは長いため息を夜風がさらっていきました。
2日目も、3日目も…
けれども、次の日もそのまた次の日も『ほんものの愛』は見つかりませんでした。
あんまりくだらないものが多かったので、審査する側も見物人も苛立ってしまうようになりました。
そこで4日目からは失格者に罰を与えることになりました。
国外追放、というとても厳しい罰です。
そのおふれが出されると、たちどころに出場者の数が減りました。
あわよくば一国一城の主に…と考えていた出場者がほとんどだったのでしょう。追放されては元も子もありません。
4日目に受付にやってきたのは、たったの3人でした。
<#5につづく>
くぅの本日のヒトリゴト 2024.9.14
今日も見に来ていただいて、ありがとうございます。
とてもうれしいです。
お話の内容とは関係ないのですが…
今日は子どもたちと、2018年の9月に虹の橋を渡った愛猫のお墓参りにいってきました。
名前は、りんといいました。
もう6年も経つのですね。
わたしはバツイチでして、再婚しております。
子どもたちとも色んなことがありました。
決して仲良こよしなファミリーではなかった時期もありました。
でも、りんのことだけは皆、大切に思っていました。
だから、「りんのゴハンあげた?」「今日、おしっこしてた?」というやりとりは毎日してたし、りんのためならスケジュールを調整する家族でした。
(決して、それ以外のことでは歩み寄らなくてもね)
亡くなってからも、それは変わらなくてね・・・
りんのお墓に手を合わせて、ありがとうね、と言いました。
あなたのおかげで、今年もこうやって親子で一緒の時間を過ごせてるよ。
ほんとに、あなたは大事な大事な家族だよ。
そんな、今日でした。
くぅ
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