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【お話】ふたつの森がありました #1


オープニング

陽のあたる森があります
お日さまの光を浴びて 緑の木々はきらめき 
地面にのびた影法師が手をつないで笑ってる
そんな陽のあたる森が あなたの心にもあります

影の森があります
お日さまの光も届かず 決して花も咲かない
自分の姿すら見えずに 時間も止まってしまう
そんな影の森が あなたの心にもあります

この物語は そんな森のはなし
誰の心にもある そんな森のはなしです

知ってるかい(1)

影の森の入り口に 物知りノウンが住んでいる
なんでも知ってる かしこいヒヒだ
困ったときは ノウンをたずねていけばいい

でも 知ってるかい 知ってるかい
ノウンはホントは 200歳
不老長寿の薬をつくって 自分で飲んでみたらしい

知ってるかい 知ってるかい
影の森の入り口に 物知りノウンが住んでいる
歳をとらない 不気味なヒヒだ
だけど便利なやつだから 仲良くしといて損はない
知ってるかい 知ってるかい

ノウンの住処

ノウンの住処では、リスのこどもが母親のケガに効く薬を調合してもらっていた。
 「この薬を塗れば、お母さんのケガは治るんだね?」
リスの子は目を輝かせてノウンから薬を受け取った。
ノウンはにっこりと微笑んで、腕組みをした。
 「もちろん! この薬を塗れば、たちまち痛みはなくなるよ」
 「ありがとう! さすが、ノウンだね」

≪歌・さすがのノウン≫
森いちばんの物知りで 森いちばんの発明家
そして森いちばんのイケメン さすがのノウン
「よせやい 照れるよ」
なんでも知ってるの? なんでも知ってるよ
影の森の一番奥はどうなってるの?
ゴツゴツした岩山がそびえたっているよ
その岩山のむこうはどうなってるの?
岩山のむこうには 広い海がある
どこまでも続く 広い海がある
本当に なんでも知ってるんだね
本当に なんでも知ってるんだよ

 「おっと、そろそろ日が暮れる。気を付けてお帰り」
ノウンが窓の外を見て、リスの子を促した。
リスの子はうなずいたが、もじもじとためらってなかなか出ていこうとしなかった。
 「どうした?」
優しい声でノウンは尋ねた。
 「さっきここに来るとき、ヒューとすれ違ったんだ。こわくてさ…」
リスの子は、おずおずと理由を話した。
ノウンは、なーんだと笑って、
 「ヒューは、なにもしないさ」
 「でもこの間、トラのおじさんがヒューにやられて、まだ起き上がれないって聞いたよ。ライオンの長の片目もヒューの仕業なんでしょう?」
リスの子は少しむきになってノウンを見上げた。

知ってるかい(2)

影の森の奥深く 恐ろしいヒューが住んでいる
漆黒のカラダ 鋭い爪
岩山の絶壁は あいつにしか登れない

でも知ってるかい 知ってるかい
ヒューは呪いの悪魔の子
あいつが何なのか 誰もしらない

知ってるかい 知ってるかい
影の森の奥深く 恐ろしいヒューが住んでいる
正体不明の不気味なやつだ
とても凶暴なやつだから
いいか 絶対近づくな…

ノウンの独白

「あいつは可哀そうなやつだ」
ヒューには仲間がいない。
なにかの過ちで生まれた子どもなんだ。
ライオンでもトラでもない、どの動物でもない。
ヒューとおなじ動物は、この獣の国にはいない。
おそろしく強いが、おそろしく孤独だ。

ヒューはまだ赤ん坊のときに、このあたりに捨てられていた。
そんなヒューを、子どもを亡くしたばかりで錯乱状態だった雌ライオンが自分の子だと思い込んで育てた。
けれどその雌ライオンも、正気を取り戻すにつれておぞましいヒューを恐れて、ライオンの群れに逃げ戻った。
ヒューは彼女を追った。そしてライオンの長と闘った。

ヒューは負けなかった。
雌ライオンに駆け寄ろうとした。
が、彼女が「化け物!!!来ないで!!」と泣き叫んだ声に傷つき、
影の森へと消えた。

時折、獲物を求めて影の森から出てくるが、
ヒューはいつも岩山の向こうの海辺にひとりでいるんだ。
ヒューはもう、誰のことも相手にしない。
誰のことも、見ない。
だからこちらから何も仕掛けなければ、襲ってきたりはしないよ。
「さあ、…もうお帰り」


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