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【お話】ほんものの愛コンテスト #1

プロローグ

 あるところに「何でも持っている」という評判のお姫さまがいました。
お姫さまはたいそう美しく、知識も知恵もありました。
世界中から集められた宝物が蔵いっぱいに溢れていましたし、世界一の腕前を競うコックたちが毎日おいしい料理をつくり、世界一と評判のデザイナーがお姫さまのためにドレスをつくるのです。
お城には、その他にもたくさんの召使いがおりました。お姫さま専用のオーケストラも雇われていましたし、絵描きや詩人、美容師…そして魔法使いまで。
お姫さまは、ほんとうに何でも持っていたのです。

 ある日、お姫さまは魔法使いを自分の部屋に呼んで言いました。
 「ほしいものがあるの」
魔法使いはお姫さまのことが大好きでしたが、いつものこの台詞のあとにつづく無理難題には内心うんざりしていましたので、持っていた帽子を指でくるくると回しながらため息をつきました。
 「今度はなんですか。また空を飛ぶ象だとか、泳げない魚だとか、とんでもないものを出せって言うんじゃないでしょうね」
 「そんなんじゃないわ」
お姫さまは可愛らしい唇をとがらせて、魔法使いを軽くにらみました。
 「今度は大真面目なの。わたしは、ほんものの愛がほしいの」
魔法使いはずっこけそうになりました。
 「ほ、ほんものの愛、ですか」
お姫さまはにっこりと笑って、こくんと頷きました。

 お姫さまは、なにかにつけて「ほんもの」が好きでした。
というよりも「ニセモノ」が嫌いだというのが正しいかもしれません。
今度は「ほんものの愛」ときました。
魔法使いは、落ち着こうとして何度も深呼吸をしました。
 「あのですね、お姫さま」
 「父に言っておふれを出してもらったから、もうすぐみんながほんものの愛を抱えてお城にやってくるでしょう。ほんものの愛を捧げてくれたひとと、わたしは結婚しようと思うの」
お姫さまは魔法使いの言葉をさえぎって、歌うような口調で言いました。
 「魔法使い、あなたにはいっしょに審査員をしてほしいのよ、いいわね?」
魔法使いはお姫さまの言葉に、しばらく口をあんぐりと開けて固まっていましたが、やがてゴクンと唾を飲み込み、
 「審査って、お姫さまはどうやってほんものの愛を選ぶつもりなんですか」
と尋ねました。
お姫さまは魔法使いを見つめて、きょとんと首をかしげました。
 「わたしはほんものの愛を見たことがないから、あなたに手伝ってほしいと言ってるのよ」
 「そ、そんなの僕だって見たことありませんよ!」
思わず大きな声を出してしまい、魔法使いはあわてて口を手で覆いました。
少し離れたところで、衛兵がこちらを気にしています。
お姫さまはそんなことにはお構いなしに、
 「そう。じゃあ一緒にさがしましょう」
と、上機嫌なまま、立ち上がりました。
 「簡単なことだわ」
 「え?」
 「見つかるまで、さがすだけよ」
お姫さまは魔法使いに微笑みかけると、そのまま軽い足取りで部屋を出て行ってしまいました。
残された魔法使いは、大きなため息をついて天井を仰ぎました。
もうこうなったら、誰にもお姫さまを止めることはできないのです。
諦めて手伝うしかありません。
持っていた帽子を目深にかぶると、魔法使いは立ち上がりました。
 「ほんものの愛、か。はたして見つかるのやら」
ぶつぶつと独り言を言いながら、魔法使いはお姫さまのあとを追いかけました。

<#2へ続く>


くぅの本日のヒトリゴト

 新しい(と言っても33年前に書いたやつだけど)お話を始めました。
読みに来ていただき、誠にありがとうございます。
このお話は「ふたつの森がありました」より10年くらい前に書いたお話ですね。
『ほんものの愛』だなんて、なんとも青くさくてこそばゆいです。
ですが。
こうして30年以上の歳月を経て、一応、れっきとした大人というか、当時のわたしからしたら「おばさん」いや「おばーちゃん」になったわたしは、『ほんものの愛』がなんなのか、知りえたのでしょうか。

そして、あなたは。
これを読んでくださっているあなたは、『ほんものの愛』をお持ちでしょうか。

コメントいただけたら、うれしいです。

くぅでした。

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