【書籍紹介】基礎から学ぶ推薦システム - 情報技術で嗜好を予測する -

書籍名:基礎から学ぶ推薦システム - 情報技術で嗜好を予測する -
出版社:コロナ社
著者 :奥 健太Twitter
発行日:2022/07/21

本書は、推薦システムを初めて学ぶ人を対象に、推薦システムの必要性の説明から始まり、基礎的な推薦システムと、推薦システムの評価が網羅的に解説された一冊です。「まえがき」にも書かれているように、本書では深層学習ベースの推薦システムのような先端的なトピックは意図的にカバーしていません。先端的なトピックを理解するためには基礎から学ぶことが重要であるからという理由はもちろんあるのですが、基礎的な推薦システムが現在では使い物にならないかというと決してそんなことはありません。例えば、推薦分野の最近の論文では、本書で紹介されている「アイテムベース協調フィルタリング」というごく基礎的な推薦手法が、深層学習ベースの推薦手法を上回る精度を出すことが報告されています。また、こうした基礎的な推薦手法は実際のサービでも使用されています(文献PDF)。つまり、最新の推薦手法にも劣らない実用的で高精度な推薦手法の知識が身につけられるという点でも、本書で紹介されている基礎的な推薦システムを理解することの意義は大きいと言えます。

他にも、本書が推薦システムを初めて学ぶ人に適している理由が二つあります。
一つ目は徹底的に具体例ベースで推薦システムが説明されている点です。しかも、すべての例が「食」で統一されているため、「ユーザが好む食べ物を推薦する」という共通の目的に対する、推薦システムによるアプローチの違いを把握しやすくなっています。具体的な数値を例としてあげつつ手法の説明をしようとすると、説明の過程で導出される計算結果の例が分かりづらいものになって、最初の数値の例から修正しなければならない、ということが自分の経験ではよく起こります。なので、これだけの分量の説明を、納得感のある数値例をあげながら記述するのはさぞかし大変だったのではないかと思います。ですが、そのお陰で、初学者でも抵抗感無く学びやすい内容になっています。
二つ目は計算の過程が詳細に記述されている点です。一つ目とも通ずるところがあるのですが、単に式展開が丁寧に書かれているだけでなく、展開した式に具体的な数値を当てはめた計算例が書かれている点が理解を促進するうえで大いに役立ちます。特に、主成分分析と勾配降下法では、表や行列の図も併用しながら、紙面を贅沢に使って計算結果の導出過程が丁寧に説明されているのが印象的でした。

サポートページも用意されており、本書の内容を基にした講義スライドや演習問題が公開されているなど非常に充実しています。大学生はもちろんですが、高校生でも十分に理解できる内容になっていると思うので、推薦システムに興味を持って勉強してみたい人がまず最初に手に取る本としておすすめの一冊です。


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