ホテル業界についてあれこれ

市場動向(〜2018年頃)

2018年度の国内ホテル市場規模は2兆291億円(前年比5.6%増)となっており、過去7年連続のプラス成長で過去最高の水準である(出典:矢野経済研究所)。日本人の宿泊数はほぼ横這いとなっており、主な背景は訪日外国人旅行者の急増とされる。2008年のリーマンショックおよび2011年の東日本大震災によって一度は落ち込んだものの国を挙げての誘致活動と経済再生により堅調に観光客が増えている。

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地域別に見ると東京・大阪などの経済圏のほか、北海道・沖縄をはじめとした観光地など、訪日客の訪問数が多いと見られる地域にて特に顕著な増加傾向となっている。

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2020年には東京オリンピックも控えており、ホテル業界としてはインバウンド需要への対応が活発である。Wifi環境の整備、HPの多言語対応、クレジットカード対応、等々、訪日客向けのサービス対応が急がれているが、旅館(特に小規模なところ)を中心として対応が追いつかない事業者も多い。

Airbnbなど新規サービスの登場もあり、コスト構造の異なる代替的な宿泊形態が増えたことによって苦境に立たされる事業者も多い。宿泊施設の種類別に見るとホテルと簡易宿泊所は増加傾向にあるものの旅館は大きく落ち込んでいることがわかる。

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市場動向(〜コロナ期)

2019年に入ると過去数年のホテル業界の活況に伴う新規開業等により客室の過剰供給が懸念されるようになる。また2019年は台風19号を始め自然災害の目立つ年となり、訪日客の足が鈍る原因となった。

さらに2020年からは新型コロナウイルスの影響により訪日客は激減し、4月は前年同月比99.9%減の2900人(参考:日本政府観光局)となっている。また外出自粛により国内の移動も制限されているため宿泊業、特に地方でインバウンド需要に頼っていた事業者などは倒産するところも出ている。

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5月末現在では日本国内の流行は一旦の落ち着きを見せているが、全世界的にはまだ収束したとは言い難く、ワクチンの開発状況も鑑みればこの影響は数ヶ月から年規模で続くと見るべきであり、ホテル業界は大きな危機にあると言える。

日本旅館協会は新型コロナウイルス対応ガイドラインを発表し感染防止のための取り組みを進めるよう促しているものの、このコロナ対策のコストも大きな負担となることは想像に難くない。

これに対し政府はGoToキャンペーンと題して大々的に国内観光を促す取り組みをとっているが、開始は早くとも7月以降となる模様。各事業者はこのコロナ期をいかに耐えられるかがポイントとなる。

アパグループ

・概要

宿泊特化型のビジネスホテルを中心に全国に展開。売上高(2018年度比較)ではプリンスホテル、共立メンテナンスに次いで3位であり、ルートイン、東横イン等が肩を並べる。(参考:https://news.yahoo.co.jp/byline/takizawanobuaki/20191006-00145531/

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新規ホテルの開業を進めており、売り上げの増加とともに建築費用等の先行投資分によって増収減益となっている。

https://www.apa.co.jp/newsrelease/149021

・3C分析

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主な顧客はビジネスマンと思われ、競合としては格安で宿泊可能なカプセルホテルやホステルなどが挙げられる。若い世代であれば24H営業のネットカフェ、カラオケ等も競合となりうるか。

全国最大規模の展開をしており、ホテルの巨大化とドミナント戦略が鍵。大規模ホテルは小規模と比べて人件費や設備経費の効率化がしやすく、利益を最大化できる。またドミナント戦略によって競合から地域シェアを奪いつつ効率的なフォロー体制によって新人支配人の人材育成も併せて行うことができ、さらなる拡大戦略につなげることができる。

スペースではなく満足を売る新都市型ホテルを名乗り、1室あたりの面積を小さくすることで客室数を増やし、客一人当たりの料金を下げている。ホテルとして最低限の設備を整えつつ、"どこにでもある"展開力と安さ、そしてそのブランドイメージが強み。

・コロナへの対応

医療において病床数不足の懸念から軽症患者を隔離可能な施設が必要とされていたため、いち早く患者受け入れの声明を出し、対応をアピールしていた。アパの場合無償提供ではなく有償の一括借上としており、ホテルとして苦境でもあったところをうまくマッチングさせたと言える(余談:楽天の三木谷氏は所有ホテルを無償提供している)。

アパホテルはコロナ患者の長期滞在場所として、最低限の生活インフラに加えて①Wifi環境②個別空調システム③グループとしての統制(感染対策のノウハウ共有・品質維持)④棟数・提供客室数 など、様々条件が揃っている。患者受け入れによって社会貢献をアピールしつつも、隔離場所としての有効性を示すことで同時に増えたテレワーク需要に対しても特別割引を設定して一般利用の促進している。

コロナによって生まれる新たな需要にスピーディに対応し、メイン顧客である国内ビジネスマンに対して新しい使い方の提案・新規顧客の獲得にも成功している。訪日外国人に大きく依存したモデルでもなく、ダメージは比較的少なく抑えられるのではないか。

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星野リゾート

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国内約40施設で総合リゾート施設の運営を行う。

各地の特性を生かした徹底的なコンセプト設計が強みで、非日常の世界観を演出し、高品質なサービスの提供によって滞在そのものを楽しませる形態の宿泊施設。
非日常体験という点でその他旅館や民宿が競合となる。また、宿泊にこだわらない層に対しては価格面でビジネスホテルや民泊等も視野に入るか。

・コロナへの対応

顧客はほとんどが観光・休暇目的での利用であり、国内移動自粛の影響によって休業せざるを得ないケースもある。感染が落ち着いて以降もしばらくは徹底したコロナ対策が必要であり、客同士の間隔を開けるなど受け入れ可能人数の低下による売り上げ低減が予想される。顧客の心情としても旅行控えが懸念され、政府のGoToキャンペーンなどによる後押しでどれほど客足が戻るかが鍵である。

多くの旅館が廃業の危機にさらされる一方で、体力のある星野リゾートがファンド設立を発表した。ホテルの再建などによって施設拡大を果たしてきたノウハウを生かし、経営難のホテルに対して手を差し伸べた形。アフターコロナを見据えてリゾート運用を行う大手として業界の雇用を守るという使命を果たしつつ、投資による利益回収でどれほど客数減少の補填を行えるかがポイントか。

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