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「ツールの導入ありき」がDXの迷走を招く

御社のDXは大丈夫ですか?——

DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉が広く使われるようになりました。

DXを推進すべく取り組みを始めている企業、近い将来取り組む予定の企業も多いことでしょう。

このマガジンでは、さまざまな事例から「間違いだらけ」のDXを読み解いていきます。

自社に当てはまる事例がないか、DXの認識にずれがないか、チェックする上で役立つでしょう。

ぜひ参考にしてください。

【当コラムの登場人物】
加賀:中堅メーカーに新卒で入社して3年目。新設されたDX推進チームに抜擢された。
吉田松井:DX推進チームの先輩社員。2人とも30代半ばの中堅社員。
岩崎:加賀の勤務先で執行役員を務めている。DX推進チームの意思決定者。

本日の事例

加賀が配属されたDX推進チームのメンバーは、彼を含めて3人。

吉田係長と松井さんは30代半ばの中堅社員のため、チームメンバーの中で加賀さんは最年少です。

本日の事例では、DX推進の根本に関わるコンセプトについて読み解いていきましょう。

DX推進チームが発足してまもなく、チームメンバー3人は企画立案に向けて打ち合わせを開始した。

加賀は「根本的な変化(トランスフォーメーション)」こそがDXの本質と考えている。
既存のビジネスモデルを変革し、新たなビジネスモデルを構築すること。
それこそがDXの目的だと思っていたため、彼は打ち合わせ初日から面食らってしまった。
吉田と松井は、打ち合わせが始まるなり「どんなツールを導入するべきか」を議論し出したからだ。

最近はクラウドツールが増えてきたから、パッケージソフトををクラウドへと移行するには良いタイミングかもしれない。
パッケージソフトを買い換えるよりも、クラウドツールの月額費用を支払っていくほうが長期的にはコストを抑えられる。
クラウドツールを導入するにあたって、セキュリティガイドラインを確認しておく必要があるだろう——。

そのような話に終始している。
2人がごく自然に議論しているので、加賀は一瞬、自分自身のDXに対する認識がおかしいのかもしれないと疑った。
だが、やはり意見を述べておくべきだろうと思い直し、こんな提案をしてみた。
「あの、DX推進チームなので、ツールを導入する以前に解決すべき課題を整理したほうが良くないですか?」

加賀の言葉を聞いた吉田と松井は、そろって不審な表情を浮かべた。
この若手は一体何を言い出すのだろう、といった顔つきだった。
「加賀くん、仕事というのは前に進めないことには何も始まらないよ。現状、課題が山積みになっていることは皆知っている」
「私もそう思う。まだ3年目だから実感が湧かないだろうけど、現実的な線で話を進めないと岩崎役員に提案しても通らないよ」

10歳ほど年上の2人から諭すように言われ、そういうものなのか、と加賀は捉えるしかなかった。

事例の解説

DXを推進する際によくある間違いとして、ツールの導入を前提に考えてしまうパターンが挙げられます。

中堅社員の2人が話し合っていたような、クラウドツール導入の検討から議論を始めてしまうパターンは典型的な失敗例です。

仮にパッケージ型ソフトをクラウドアプリに切り替えたところで、ツールの機能自体が劇的に変わるわけではありません。

クラウド化することで多少は利便性が向上したり、他のツールとの連携がしやすくなったりはするでしょう。

しかし、これはDXが掲げる本来の目的からは明らかに逸脱しています。

加賀さんが当初考えていた通り、DXの目的は「根本的な変化」にあるからです。

では、なぜ中堅社員の2人はツールの導入ありきで話を進めてしまったのか?

それは、既存のツールを別のツールに置き換えるほうが話が見えやすく、稟議も通しやすいからです。

わざわざハードルの高い提案を通すよりも、手近で分かりやすい提案を通したほうがチームの実績になりやすい。

こうした思惑が働いた結果、ツールの導入ありきでDXに着手してしまうケースは決して少なくありません。

事例の間違いポイント

ツールの導入はDX推進の手段の1つであって、目的ではありません。

手段が目的化していることが、この事例の重大な間違いポイントといえます。

結果的にツールを導入することはあっても、ツールの導入ありきで議論が始まることはあり得ません。

DX推進を掲げるのであれば、次の順序で議論を進める必要があるでしょう。

1.現状、組織が抱えている課題を洗い出す
2.課題に優先順位を付ける
3.優先度の高い課題の解決策を検討する
4.解決策の1つとしてツールの導入を検討する場合もある

課題に優先順位を付ける際、よく言われているのは「緊急度・重要度」という視点です。

しかし、DXに関しては直近の緊急度・重要度だけでなく、事業全体にもたらす影響の大きさを考慮するべきでしょう。

たとえば、営業担当者の提案精度を高める必要がある、という課題を抱えていたとします。

提案の精度が担当者ごとにまちまちになっているのは、顧客情報が担当者ごとに属人化していることが大きな原因の1つです。

顧客情報の共有化を図り、各担当者が最新の動向を随時確認できるようにしなければなりません。

この時、初めて「顧客情報を一元管理するためにCRMツールを導入する」という選択肢が挙がってくるのです。

他社が使っているから、流行っているからといった理由でCRMツールを導入しても、ツールを活かし切れない恐れがあります。

ツールの導入ありきで進めるDXは、手段と目的を取り違える元凶となりやすい点に十分注意してください。

まとめ

・ツールの導入ありきのDX推進は、DXの本質を見落とす原因となる
・DX推進の根底には、解決するべき事業課題がなければならない
・手段と目的を取り違えないことがDX推進を成功させる上で必須

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