チョンボ飛車タダ草むしり下手くそ帝国の内分泌的リアリティ

サスペンス映画の巨匠・ヒッチコックの有名な逸話がある。

ヒッチコックをさえぎったタイミングで書くべきではないのだが、この本文は途中からめちゃくちゃ下品な話になる。

ヒッチコックは映画『汚名』を撮影するにあたり、プロデューサーと口論になった。その原因は、作中でナチの残党を追うFBIエージェントが発見する「ウラン鉱石の入ったワイン瓶」であった。この映画が公開されたのは戦後すぐの1946年。原子爆弾をめぐるサスペンスはあまりにもセンシティブだということでプロデューサーが難色を示した。するとヒッチコックは「じゃあダイヤモンドの入った瓶にしよう」と、あっさりと案を取り下げたのである(結果的に映画では原案が採用されているが)。

ヒッチコックにとって必要なのは「サスペンスの発端となるアイテム」であって、核兵器をめぐるあれこれではなかった。このように「登場人物に何らかの動機づけを与える、ときに代替可能なアイテム」のことを、彼はマクガフィンと名付けた。たとえばチルチルとミチルが探す青い鳥であり、水戸黄門における町娘のことである。それらは本来描きたいストーリーに導くための「何か」であって、チルチルとミチルは白い鳥を探しても冒険ができるし、猫の敵討ちのために助さん格さんを動員してもよいのである。

話は540度回転しアダルトビデオの話をしようと思う。

描かれるストーリーによっては、その舞台が大学生の家であったり、教室であったり、一軒家だったりする。そしてそれを演出するための「マクガフィン」として様々なものが描かれる。

例えば大学生の家では自堕落な男子学生が麻雀をやっている。これは麻雀じゃなくてもよく、ゲーム機でも、酒の瓶でも、自動車学校のパンフレットでもいい。本来描きたいものは性的なシーンであって、その麻雀はどうでもよい。どうでもよいのだが、これが麻雀をやる人間からするとおかしなシーンになっていることがある。例えば牌の数が合わない、フリテンになっている、2副露している親にゴミ手の子が危険牌を切りまくる……このときマクガフィンはノイズとなる。

「そんなん打ったら飛車タダやんけ」とツッコみたくなるような将棋を打っていることもある。この将棋もマクガフィンだ。頭脳明晰で冷静な人物であることが分かればいい。あるときは庭仕事をしている家政婦が雑草の地上部だけをブチブチ引きちぎっていたこともあった。イネ科雑草は成長点から除去しないと生えてくるだろうが。いや落ち着くのだ、この草むしりすらマクガフィンでしかないのだから。ディテールを求めるのは間違っている。

しかし先日、こう思った。こうした「AV特有の詰めの甘いマクガフィン」がマクガフィンではなくむしろ本質であったならば?つまり代替可能な副次物ではなく、むしろAVという虚構世界の姿をセックス以外から映し出す魔鏡なのではないか?

頭の中が性でいっぱいの大学生は、大学の講義などまともに受けない。そればかりか、麻雀すらまともに打つことができない。いわんや将棋をや。2手3手先を読めない人間ばかり「だからこそ」彼らは避妊をしない、そういう無茶苦茶な世界であることを下手くそな将棋によって増強しているのである。害虫対策のガの字もない破廉恥な恰好でSDGsな草むしりをするたわけに対して雇い主は常にブチギレている。このような世界では何が起きるだろうか?

以前見たビデオでは、高校を連想させる教室の黒板にあきらかに周回積分が書かれていたことがあった。ネットから適当に難しそうな数式を引っ張ってきたのだろうが、高校生が周回積分なんか解くわけないだろ!という指摘は、その弾道の先に実体をもたない。むしろ「高校でいきなり周回積分を出題するとち狂った学習指導要領が執られているせいで、生徒たちはまともに授業を聞かず性行為の事だけ考えている」という真実を膜の向こうからゆるやかに分泌しているのである。これは映画『インセプション』に登場するコマのように、その世界がどのレベルで狂っているかを示す薬品となっており、マジレスは無粋を超えて的外れである。

性的なシーンを描くのが主題なので脇役がおろそかになっている、のではないのだ。ここでは本質と現象が逆転する、あるいはメリーゴーランドのように共犯的な輪舞をみせる。つまりエロ動画だから雑なのではなく、根本的にあらゆるものが雑な世界が構築されることで現象としての性行為に自然と収束しているのである。「透明人間モノを理論的に説明するために光の回折現象を改変した時空を作りました」だと作り込みがすごいという評価になるのだが、「全員がひたすらセックスするように仕向けるため全員をバカにしました」という可能性についてはなぜか考えない協定になっている。これを作り込みの甘さだとか、リアリティのなさだとか、設定の雑さだとか、ツッコミどころといった名前で嘲笑する時代から私は一抜けすることにした。

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