クリスタル大坪という漫談家について
大阪の地下お笑い界には、クリスタル大坪という漫談家がいる。
70代の高齢者で、売れてない芸人の中では芸歴もダントツに長い。
どんな芸風かというと、意味不明なタイミングでカタカナ言葉を羅列し、笑いをとっていくスタイルだ。
笑いをとっていくとはいっても、面白くはない。話のつながりが意味不明で、どこで笑ったらいいのかもわからない。
正直、プロの漫談家として客前でネタをするレベルには達していないと思う。
だから最初は嫌いだった。
考えてみれば当然のことで、僕は爆笑問題や明石家さんまを見てお笑いを好きになった人間なので、クリスタル大坪の漫談で笑うはずがない。
彼のネタをライブで見るたびに眠気が襲ってきたし、今もちょっとそういうところがある。
だけど、何度も見ているうちに、楽しみ方が分かるようになってきた。
クリスタルさんは決してネタが面白くはないし、しゃべりがうまいわけでもない。地下芸人の中では断トツで芸歴が長いはずなのに、決して技術があるわけではない。
そんなクリスタルさんだからこそ、生きるのがつらいな、と思う時に見ると救われるのだ。
若い頃の僕は、年齢を重ねたら色んなことができるようになるんだろうな、と思っていた。ただ大人になってみると、そんなことは全然なかった。
"大人になってもできることが増えるわけではなくて、自分にできないことが何なのかがわかってくる"と、むかし誰かが言っていたのだけれど、最近よくその言葉を思い出す。
だけど、クリスタルさんを見ていると、そんな大人でもいいんだよと、認めてもらえたような気持になる。
ネタが面白くなくても、しゃべりがうまいわけではなくても、ライブによってはちゃんとお客さんを笑わせることができているし、ごく少数のファンもついている。年齢に伴ってあるはずの技術や、経験や、思想がなかったとしても、ただ存在するだけで人の心を動かすことができる、と、クリスタルさんに教えてもらえた気がする。
そう思うようになってからの僕は、彼のネタがどれだけ面白くなかったとしても、ちゃんと最後まで見るようになった。
もし一度もクリスタルさんを見たことがない方がいるなら、ぜひ大阪の地下に見にいってあげてください。
参考までに、ネタの抜粋を載せます。先々月のライブでやったネタの文字起こしなので、もしかしたら内容を聞き間違えてるかもしんない
【掲載許可済み】
パンチパーマの大坪と申します。
ほんとにねー、大仏かと思ってます、なんか。
このトマトに、バツをつけろ!
このトマトにバツをつけたら……俺はよー、ガッツ石松だ。
俺はセートーマーケットの代表、クリスタル大坪だ。俺はセートーマーケットだ。
わかんねーかなー、わかんねーだろうなー
このトマト、おまいさんたちのスイカ、はかいしたやるぞー。
俺はよー、新選組だ。
俺は社長だ。
わかんねーかなー、わかんねーだろうなー。
棚から落ちてきたんだ、品物が。
俺はとび職だ。
だれかな、くってくれるかなー。
くえねーだろうなー。
このトマト、うまいぜー。このトマト、スペシャルミートソースにしてさ。イタリアンスパゲティーにして食ってやろうぜ。
わかんねーかなー、わかんねーだろうなー。
うまいぜー。しゃぶしゃぶにして食ってやるぜ。
終わるわ。
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