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アル中ワンダーランド

地面に横たわっている酔っ払いが何かを叫んでいる。そしてその酔っ払いを取り囲む5人の警官たち。ろれつが回ってなかったから、なんの話をしていたのかはわからなかったけど、おそらく無銭飲食でもしたのだろう。

蔓延防止措置下の道頓堀で、そんな光景を見てきた。

その日は色んなタイプの酔っぱらいを路上で見かけて、傍から見ればゴッサムシティでしかなかったけど、落ち着く空間だなあ、と、思いながらその光景を眺めていた。

たぶん一般的な住宅街で暮らしていたら、そんな酔っ払いを見る機会なんて全くないだろう。

僕の好きな漫画に「アル中ワンダーランド」という作品があって、著者が自分のアルコール依存症体験を赤裸々に語った内容なのだけれど、そのレベルまではいかないにしても、それに近い人は道頓堀ではふつうに見かける。

「アル中ワンダーランド」は僕にとっても耳の痛い内容が多くて、あまり読みたくはない(けど面白いから読んでしまう)作品なのだけれど、酒を飲む人みんなに読んで欲しい内容ではある。

吉本ばななが帯文に寄せたコメントも秀逸だ。

"人生は生きているだけで苦しくて重たいもの。その対策を練らずに丸腰でボコボコになったのがこのまんが"

こう言われるとめちゃくちゃ読みたくなる気持ちと、恐ろしくて読みたくなくなる気持ちの両方あって、かなり複雑ではあった。

確かに人生が軽くて楽しいものであれば酒を飲むこともないだろうけど、実際はそんなこともないから飲んでしまうわけで、飲み過ぎたら失敗してしまうこともある。

その失敗を酒で埋めだしたら著者みたいなことになってしまうのだろうし、すんでのところで踏みとどまるためにも「アル中ワンダーランド」はおすすめだ。

僕の場合は酒そのものよりも飲み屋の空気感の方が好きだったりするので、本来アルコールじゃなくてソフトドリンクでもいい気はするんだけど、やっぱり店に行くとつい飲んでしまう。

特にバーやスナックで初対面の人と話す時は、アルコールを入れてないと緊張してしまう。

その考え方自体、「アル中ワンダーランド」の作者と完全に一緒だから、自分でも危ういなと思うのだけれど、じゃあ家で飲めばいいのかというと、宅飲みは感情が死んでくる気がするので、やっぱり飲み屋にいってしまう。

まあ別に、飲み屋に行ったからといって、必ずしも誰かとしゃべるわけでもないんだけどね。

ただ誰ともしゃべらずに一人で飲む時も、やっぱり家と店では全然違うとは思う。

誰も自分に関心を持っていない場に身を置くのはとても心地いい体験で、そういう店に一人で溶け込んでいると、なんだか自分の存在を認めてもらったような感覚にもなれて、だから飲み屋が大好きだったりもする。



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