見出し画像

山根 明著『男 山根 「無冠の帝王」半生記』の感想。堺で過ごした少年時代から世界の山根の誕生まで

日本ボクシング連盟の元会長であり、強面の見た目と突拍子もない言動でおなじみの著者。会長時代、日本ボクシング連盟の内部抗争で一躍時の人となったことは記憶に新しい。

攻撃的な姿勢や放言の数々から、世間的には完全に悪者となった感はあるが、本書は報道された内容について振り返りつつ、堺で生まれた少年時代から「世界の山根」の誕生秘話を語る、といった趣旨となっている。

ここで前書きの著者の言葉を引用してみよう。

"私の人となり、そして私のボクシング人生をお話しすることで、私が、なぜ「日本連盟の会長」だったのか、私が、なぜ「世界の山根」と言い続けたか、ご理解いただけたらと思っている"

以上が著者が本書を執筆した動機のようだ。

さて、本書で特徴的なことは、最後まで目を通しても、なぜ著者が「世界の山根」と言い続けたか分からない、ということにある。そもそも、誰かからそう呼ばれたという話も一切書かれてない。

確かに、国際ボクシング協会(AIBA)の常務理事に当選し、忙しい日々を送ることになった、というエピソードが語られてはいる、が、はたしてそれは「世界の○○」ということになるのだろうか。

おまけに著者は、このエピソードを「世界役員になった」と表現し、勝手に役職に「世界」をつけている。

本当にそんなあほみたいな役職名なのだろうかと疑い、AIBAのサイトで確認してみたが、"EXECUTIVE COMMITTEE"としか書かれておらず、どこにも"世界"は付いていなかった。

ただ、著者の言葉を虚言とは思わないし、おそらく誰かしらには「世界の山根」と言われたことがあるのだろう。そのことを推測できるエピソードも、著書の中で語られている。

第2章、第1節の「歴史の男と呼ばれて」である。

ここでは著者が「歴史の男」と呼ばれるに至った経緯が書かれている。どうしてそう呼ばれるようになったかというと、渦中の人となった著者に、ある記者がこう言ったらしい。

「山根会長は、歴史の男ですよね」

以上が、著者が「歴史の男」と呼ばれたエピソードである。

記者の言葉は、人に歴史あり、という意味合いしかなかったのだが、これに大喜びした著者は、わざわざ数ページも割いてこのエピソードに触れていた。

どうやら著者は、誰かから気に入ったあだ名をつけられると、それを宝物のように大事にしてしまう性格らしい。

私も似たようなところがあるので、気持ちは分からんでもないが、あの強面でそんなピュアなところがあるとは、意外である。

このように、ツッコミどころが多いうえに、肝心の疑惑についても「身に覚えがない」と言い張り、ごく一部の内容にしか反論しておらず、疑惑の解明という点では満足のいく内容ではなかった。

しかし、著者の意外な人間性が垣間見えるという意味では貴重な一冊でもあり、おすすめである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?