中州教授の講義録「夜遊びの本質とは何か」

本稿は博多大学で開催された、中州教授「夜遊び学」の講義を文字起こししたものです。今回のテーマは「夜遊びの本質とは何か」です。

以下、講義録になります。

ゴホン。

「夜遊び学」の講義を担当する中州です。どうぞ宜しくお願いします。本講座は夜遊びを学問的に追及することを目的としています。本日は、夜遊びの本質について御話をします。物事の本質から目をそらす事は真実から目を逸らす事と同義です。学問に近道はありません。真正面から実直に取り組んでいくことが肝要です。

さて、心構えを説いた所で、質問です。一体、夜遊びとは何なのでしょう。今日はこの点について皆さんと一緒に考えてみたいと思います。

まず、夜遊びは、我々が対価を払ってサービスや物品を受け取る点において、その特徴があります。美味しい御飯も夜の貴婦人方も基本、無一文では相手にしてくれません。そういう観点から考えれば、お金を払うのは自分自身なのですから、夜遊びを、やるも自由、やらぬも自由。老若男女、好きな事を自由気ままにするだけで十分なはずです。夜遊びといっても遊びの一種なのですから当然のことです。

しかし事はそう単純では無くなってきています。誰でも子供のころは、何の縛りもなく誰とでも自由に遊べたはずですが、大人になるにつれて難しくなってくる。最近は、夜遊びで何をすればいいのか分からない、面白くない、という相談を受けることも多くなりました。とりわけ、若い人からの質問が多い。昔の様に先輩が飲みに連れて歩かなくなった、通信技術の発達で外に飲みに行く機会そのものが減少している、という意見もありますが、本題とずれますので、ここでは触れません。

では、皆さんにとって夜遊びとは具体的にどういうことを指しますか?

皆さんからの御意見を聞いてみましょう。では、そこの麦藁帽子をかぶったあなた、君はどう思いますか?

ふむふむ、朝まで友達と飲み明かす、ですか。なるほど、それは楽しい。立派な夜遊びです。私も若いころは見知った仲間と朝まで良く騒いだものです。

では、そこの茶色い髪の貴女は?

美味しいものを食べる、うむ、その通り。これも立派な夜遊びだ。美味しいものは人生の真実の一つだと思っています。生きるのと同じ位大事なものです。

朝まで飲む、美味しいものを食べる。それぞれ、具体的で素晴らしい答えです。

では、ここで一つ視座を上げてみましょう。抽象度を一段上げて言い換えてみたらどうなるでしょうか。より普遍的な言葉で置き換えてみましょう。

ふむ、手が上がらないか。では、ここで私から一つ、例を出してみましょう。

時折東京に行く機会があります。花の都、大東京です。当然ながら、大きな街は多くの繁華街があります。銀座や歌舞伎町は余りにも有名でしょう。定宿が新橋なので、歩いていける銀座にはよく通います。銀座では鮨屋の暖簾を潜ります。しかも何時も決まって同じ店に行きます。

一体何故いつも同じ店に行くと思いますか。

では、奥に座っている金髪のあたな。

美味しいから? 確かに、間違いではない。江戸前鮨は大好物です。火事と喧嘩は江戸の華と言いますが、私は人知れず行う丁寧な下処理こそが江戸の華だと思っています。噺家が羽織の裏地を凝るようなものです。羽織を脱ぐ一瞬その華やかな裏地が見える、丁寧に仕事をされたコハダの握りが喉を通る、その瞬間を楽しむのが江戸の粋ではないのでしょうか。

ただ、日本一の繁華街、銀座です。美味しい御店は他にも沢山あるはずです。何故、何時も同じ店に通うでしょうか。他の理由も考えてみましょう

では、そこのバツ印のハットをかぶった君は?

店主と仲良くなったから? お、正解です。

なんだ、拍子抜けした、と思われる方もおられるかもしれません。しかしこの単純明快な事実こそが、夜遊びの真理だと私は考えています。

私は夜遊びの本質とは馴染みを作ることだと考えています。永年連れ添った古女房の具合の良さを楽しむ、と言い換えることが出来るでしょうか。古くは、畳と女房は新しいものが良い、なんて諺がありますが、私に言わせれば、物事の本質を全く分かっていない幼稚で封建的な言葉だと思います。時を同じく重ねて馴染んだ方が味わい深いに決まっています。新しいものも悪くはありませんが、古いものを楽しめないのは自らの精神性の未熟さの証左でしかありません。

気兼ねなく話が出来る馴染みをつくり、とりとめのない時間を楽しむ。小奇麗な小料理屋でも、瀟洒なバーでも、夜の社交場でも、何所でも、誰でも良い。自分と合う馴染みをつくり、その関係性を成長させることが非常に大事になってきます。

もし馴染みを作る過程で初老の婆さんがやっている場末スナックに出会えることが出来たら幸運としか言いようがありません。酸いも甘いも知り尽くした御年輩を味方に引き入れることが出来れば怖いものはありません。お金と時間は多少浪費しますが修行代と思い諦めましょう。ある程度の投資は何事も必要です。

春夏秋冬、季節によって、景色の見え方も、味わいも異なってきます。一度で全てを感じ取るのは不可能です。馴染みになった、彼ら、彼女らは酒場の案内役です。ベテラン航海士の様にあなたを素晴らしい夜の世界に誘なってくれるでしょう。旬の料理とお酒を合わせながら、とりとめのない会話を楽しむ。これほどの季節の楽しみはありません。

銀座、新宿、ススキノ、中洲、日本各地に盛り場は限りなくありますが、それぞれに趣が異なります。最初は自分のホームを決めて、自らの拠り所となる御店を探すことを最初のステップにすると良いでしょう。馴染めば馴染むほど見える景色が違ってくるはずです。広げるのは、ベースとなる自らの拠点が出来てからで十分です。

夜遊びが分からないという方は、まずは夜の街に自分の馴染みを作ることから始めて見ては如何でしょうか。勇気を持って最初の一歩を踏み出してみてください。この変化を楽しむことが出来れば、それはあなたの成長の証です。夜遊び学の入り口に立つことが出来たと言っても過言ではありません。

キーンコーンカーンコーン

丁度、時間が来たようです。来週のテーマは、今日の講義でも少し触れた、銀座で鮨を食う、です。美味しい鮨屋は全国各地にあります。しかし何故、銀座で鮨を食べる事は一目置かれるのでしょうか。次回はこの奇妙な現象について多様な観点から分析してみたいと思います。

今日の講義は以上です。また来週お会いしましょう。

それでは、さようなら。

以上です。如何でしたでしょうか。ネオン煌く夜の街に佇む博多大学。夜遊びを追求する多くの老若男女が集まってきています。

夜遊びを真面目に学問したい。

そんな志を持つあたなの御入学を心よりお待ちしております。

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