【前に進み、後ろに戻る】7

「私、人殺してるんだった」
このことを思い出すたびに、景色から色が消える。
友達と馬鹿話をしている時、周りは誰も知らないけど面白い映画や漫画を見つけた時、帰り道に野良猫がじゃれてきてニャンニャンしてる時、楽しい時に限って脳内の誰かが、お前それどころじゃないだろ、と水を差す。もう警察は犯人の目星をつけているのだろうか。私が仲良くなった人たちに迷惑をかけるだろうか。昨日買ってまだ読んでいない古本たちはどうなるのだろう。親に勘当されて家賃を滞納して電気と水道とガスのどれを残そうか悩んだ時にも売らなかった大切な本だ。残してほしいな。スマホの検索履歴とか写真とか調べられるのかな。今、楽しく過ごしていいのか分からなくなる。殺人に時効はない。一生、この窮屈さに身を置かなければならないのか。

このモードに入ったら、ひたすらため息をついて、遠くを見つめることしかできなくなる。今日はちょうど部屋にいてゲームをしていてレアアイテムがドロップした時だったから、そっと電源を切って、冷たい床に仰向けに寝転がった。鉄アレイを枕にして、左足は段ボール箱を潰している。はあ。このまま、眠ろう。

そこでやっと今日も、目が覚めた。

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