ピアニカわすれタロウ

うちの次男はかなりのマイペースな男だ。いや、うちの男はみんなそうか。
ある夜、夫が自宅にいる私に電話をかけてくるなり、言った。
「おい、息子、何か話ししたか?」いつもこんな調子。まるで背景が見えぬ。
「なにかあった?」
「そうらしいぞ」
「だからなに?」
「いや、おれんとこにも学校から電話があったんやけどな」
その日息子は学校にピアニカを持っていく必要があった。いつものように集合場所に行き、いつものようにお友だちとはしゃいだ。そしていつものように集団登校の列に加わったのだが、音楽の時間が近づいてはたと気づいた。ピアニカはどこ?
息子からの情報で担任教師はご丁寧に父親に電話した(母たる私は電話に出られない人と認識されている)。そして、父親はその父に電話した(母たる私はすぐ出動できないと認識されており、夫の父は言い方は悪いがこの二世帯住宅の住人のうち最も切羽詰まった予定がないと認定されている)。案の定、ピアニカは息子の集団登校の集合場所にぽつねんと置かれていた。
息子は帰宅してきっとおじいちゃんに言った。「いやーごめんごめん、すっかりわすれてたー。」よせばいいのに。
おじいちゃんは孫に怒った。「お前とお前の友だちは、いーっつもいつもダラダラ遊びながら学校行ったり帰ったり、時間通りに帰ってきたことがない。この悪たれ三太郎め!」運悪く三人組で、なんとも語呂の良いあだ名がついてしまった。
息子から夫の父の怒りの様子を聞いた私は、わらいころげ、そしてちょっぴりかわいそうになった。
よりによって悪たれ三太郎だなんて。みんなこどもなだけで悪気はないんである。つい言ってしまった。
「別に悪いことしようとしてるんじゃないもんねえ、ただピアニカ置き去りにしただけでさ。今回だって、うちの子だけの問題じゃん。しいていえば、あんたがピアニカわすれタロウなだけじゃん。しっかりしてよね。」
小学校の先生方、本当にいつもありがとうございます。
あのときのピアニカわすれタロウも、もう6年生。私たち家族、この一年で小学校完全卒業です。先生方のおかげです。

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