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ゲーム映像は誰のものか。分析、批評空間としてのYouTube

YouTubeにはゲームを題材にしたドキュメンタリーライクな動画がたくさんアップロードされている。「Gaming Historian」、「Ahoy 」、「gameranx」といったチャンネルが有名だろうか。

ゲーム映像、写真、テレビ映像、公式トレイラー、制作者の映像といったフッテージを組み合わせて分析・批評するという動画だ。例えばグランドセフトオートの歴史を説明した以下のようなものである。

ゲーム(と他のあらゆるエンターテイメント)の分析・批評は長らくテキスト(雑誌やWEBメディア)や音声(ラジオやポッドキャスト)で行われてきたが、誰もが動画というリッチな表現手法を用いて分析・批評を行い、インターネットにアップロードできるようになったことで、当該ジャンルのコンテンツ量が激増した。

ゲームや映画といった映像を伴う作品であれば映像にボイスオーバーでナレーションをのせることで、映像とシンクロした細かい分析が可能になった。映画の話になるが、「Every Frame a Painting」の分析は目を見張る。以下の動画はポン・ジュノの作り出す画面がいかにアンサンブルを生み出し、視聴者の注意をコントロールし、独特のリズムを奏でているかを説明したものだ。

これらの分析・批評は"映像を無断で使用することで"可能になる。個人の動画制作者が一つ一つのフッテージの許諾をとることは極めて手間がかかり、不可能に近い。

米国にはフェアユースという考え方があり、利用目的、著作物の性質、著作物利用部分の比率、潜在的市場・価値に対する使用の影響、といった基準に照らして問題ないと認められれば、許諾プロセスを経ずに著作物を勝手に使用することができる。YouTube公式ページはディズニーの映像を使った以下の動画をフェアユースに適合する例として挙げている。

残念なことに日本にはフェアユースの考え方はない。包括的な法律がないので、個別パブリッシャーのガイドラインを照会するしかない。最近話題になっているのは任天堂の著作物に関するガイドラインであるが、キャプチャーした映像、スクショを使って動画・静止画を作成し、WEBに投稿することは可能だ。YouTubeであれば収益化もできる。ただし個人に限る。

日本では2020年6月5日に改正著作権法が可決され、ダウンロードの規制対象が漫画やソフトウエアのプログラムなどにも広げられた。漫画村に端を発する違法アップロードサイトへの対策がおもな目的であり、規制は今までよりも厳しくなった。

著作物の違法アップロードは制作者の収益を圧迫し、結果としてコンテンツの経済圏を壊していくことになりかねない。違法アップロードは可能な限り規制し、正規ルートでの流通が普及することが望ましい。

一方で、コンテンツを更に広めるためのコンテンツ、またそのコンテンツに影響をつくられる新たなコンテンツといった周辺の生態系を育てていくためには、フェアユースのようにユーザーにある程度の裁量を与えることが重要ではないだろうか。

エンターテイメントのコンテンツがデジタル化して違法な流通が跋扈する一方で、(合法・違法なものも含めて)コンテンツの周辺を司る生態系はますます発達している。改造マリオがマリオメーカーを生み出したように、オリジナルコンテンツを使っておもしろい派生コンテンツを生み出す流れは途絶えさせないほうが良い。

いつか日本でもゲームや映画の分析・批評動画の制作者が増えるよう、ほそぼそと啓蒙活動は続けていきたい。

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