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【小説】(第8話)消費生活相談員の憂鬱と矜持

 
 消費生活相談員とは、地方公共団体の消費生活相談センター及び消費生活相談窓口において消費生活相談やあっせんに対応する専門職だ。(消費者庁ウェブサイトより)
 消費生活センターの数は、2023年4月1日現在、全国で856ヶ所、市区町村における消費生活に関する相談窓口を設置している自治体数は、1,721 自治体(設置率 100.0%)となっており、そこで相談対応にあたる消費生活相談員の人数は3,313人だ。
 消費生活相談員の採用形態については全体の83%が非常勤職員であり、平均の報酬時給額は1,841円、週4日勤務の場合の名目支給月額は235,648円となってる。(データは「令和4年度 地方消費者行政の現況調査」より)
 その多くが1年間の有期雇用契約での勤務であり雇止めもありうる就労環境となっている。
 これはそんな消費生活相談員のショートストーリーだ。
 
 古ぼけたコンクリート外壁の庁舎の中層階にある消費生活センターのフロアは、明るい照明と木製のフリーアドレスデスクという真新しいオフィスに見えるが、壁際の書庫やロッカーは昔ながらのスチール製でところどころ錆びついている。全てのオフィス用具が新調されていないのは、役所にありがちな予算確保が中途半端という所以であろう
そんなチグハグなオフィスに、ブルーやホワイトのポロシャツやノーネクタイのカッターシャツにチノパン姿の職員が10人腰かけている。その中で消費生活相談員は8人在籍しており、全て40代以上の女性だ。各デスクには白い電話機が配置されており、頻繁に呼び出し音が鳴っている。
 相談員の林明美が受話器を取ると若い女性の声が聞こえてきた。
「先日、うるおいコスメの件で相談させてもらった秋川唯と申します。林さんはいらっしゃいますか?」
「はい。私が林です。定期購入の契約でご相談頂いた件ですね。」
「そうです。解約のための経緯書の書き方を教えて頂いて、その日のうちに郵送しました。それで昨日にうるおいコスメからメールで返事がありました。」
「どういう返事でしたか?」
「解約に応じるそうで、違約金の支払いはしなくていいそうです。」
「よかったわねぇ。」
「はい。おかげさまで助かりました。」
 うるおいコスメ合同会社は、ネット広告でリップスティックを初回限定500円と大きく表示しつつ、注文ボタン付近に細かな文字で売れ筋5色セット5,000円の6ヶ月定期購入コースの契約に同意するという注釈を記載していた。これを中途解約するには2万円の違約金が必要になるとウェブサイトの利用規約に掲載されていた。
 女子大生の秋川は注釈を読まずに、初回限定500円の価格表示のみを確認して契約の同意ボタンをタップしたそうだ。スマホで画面を確認すると誰でもこれは500円の単品購入だと思うような構成になっていた。注意深く細かい文字の注釈を読まなければ、これが定期購入契約だとは認識できないだろう。
 それでも注文ボタン付近に定期購入の契約であることの記載はされており、だまし討ちとまでは言えない。そうなると通信販売の契約には取消権が認められないという扱いになってしまう。そこで最終確認画面を確認したところ月額5,000円の6ヶ月定期購入であることは記載されていなかった。
 特定商取引法第16条の6では、最終確認画面には商品分量・価格等について表示することが義務化されているが、うるおいコスメはその表示を怠っており、それは契約の取消しが可能となるという旨を経緯書として作成するようにアドバイスをした。
 秋川は、その助言に基づいて相談室で経緯書を手書きで作成し、最終確認画面のスクリーンショット画像を印刷したものを添付して郵送をしたのだ。なかなか厄介な文書作成だったが、秋川は机に肘をついた左手で額を押さえながらボールペンを走らせ、20分程度で書き上げていた。長い黒髪を微かに揺らしながら颯爽と文書を仕上げる様子を見て、優秀な学生なんだろうという気がした。
「経緯書を書くのが面倒に感じて諦めてしまう人も多いのですが、秋川さんはしっかりと書いたので、販売業者も反論が出来なくて解約に応じたと思います。頑張りましたね。」
「林さんのおかげです。自分だけだったら、どうして良いかわからなかったです。違約金を支払わずに済みました。」
「結果を教えて下さり、ありがとうございます。この件は記録させて頂きますね。」
「はい。是非そうしてください。本当にありがとうございました。これで失礼します。」
 受話器を置いて、思わずウンウンとうなずいてしまう。問題解決の報告を受ける瞬間が何より嬉しい。その笑顔に勘づいたのか隣席の相談員の菊池みどりが声をかけてきた。
「いい知らせだったみたいね?」
「そうなの。定期購入だけど経緯書を送って解約できたそうよ。」
「それはよかったわね。」
 そう話している間にも新しいコール音が鳴り、菊池が素早く受話器を取った。
 
 菊池が神妙な表情で電話対応をしている横で、林明美は秋川の相談記録を手短にPIO-NETに入力した。PIO-NET(全国消費生活情報ネットワークシステム)とは、国民生活センターと全国の消費生活センターをネットワークで結び、消費者から消費生活センターに寄せられる消費生活に関する苦情相談情報(消費生活相談情報)の収集を行っているデータベースのシステムだ。このデータベースに登録される苦情相談件数の多い事業者は、消費者庁や都道府県の消費者行政部門の調査対象になることもある。
 PIO-NETへの入力を済ませると林はデスク上の青表紙のファイルを広げ砂田商事の電話番号を確認した。長尾久志という70代男性が砂田商事の電話勧誘によって無料試供品のサプリメントの自宅への配送を許諾したところ、同封されていた書類には何もしないと定期購入契約がスタートすると書かれていたものだ。
 それの解約については砂田商事の専用ダイヤルで受け付けすると書かれていたが、何度も架けてもオペレーターにつながらなかったようだ。幸いクーリングオフ期間内の相談であったため、クーリングオフをする趣旨をハガキに書いて投函するよう助言した。この手続きによってクーリングオフは成立しているのだが、それでも定期購入の商品が配送されてくる例があるため、念のために消費生活センターからも砂田商事に電話で解約の確認をしておきたい。
 その目的のために砂田商事に架電しているのだが全くつながらない。呼び出し音はするのだが、一向にオペレーターにつながる気配がない。これで9日目だ。今日もつながらないだろうと諦めの気分になっているところでようやく受話器から女性オペレーターの声がした。
「砂田商事お客様相談ダイヤルです。」
「あっ。こちら消費生活相談員の林明美と申します。御社の契約者の長尾久志様の件でお電話しました。」
 そこで長尾の電話番号と契約者番号を告げ、クーリングオフのハガキを送ったことを伝えた。
「弊社は解約については電話で承っております。長尾様から解約の電話があった記録はありません。」
「ええ。何回も電話しているのにつながらなかったそうです。私も毎日電話して、今日で9日目ですがようやくつながったので用件をお伝えしています。」
「そう仰られてもご本人からの電話でないと受け付けはできません。」
 感情を抑えて通話をしていたが、ここで怒りのスイッチが入った。つい声を荒げてしまった。
「あのね。特定商取引法ではクーリングオフは書面か電子メールで行うことも認められているの。電話に限定するのは御社の独自ルールでしょ?事業者の独自ルールよりも法律の規定の方が効力あるのよ。これを拒むならクーリングオフ妨害になるし、行政処分の対象にもなるのですよ。」
「それでも電話でないと社内システム上の受付ができません。」
「それは特定商取引法の規定には従えないと宣言していることになりますが大丈夫ですか?とにかくハガキは到着しているのでしょう?」
「郵便物の確認はこの部署ではしておりません。」
「それなら至急確認してください。特定記録郵便で差出ししているので配送記録はあります。ハガキの投函日でクーリングオフは成立しています。」
「総務にハガキの確認をするのでお時間をください。」
「はい。ちゃんと確認をしてください。確認をしたら電話を頂けますか?」
「誠に申し訳ありませんが弊社からの電話はできないので、そちらから電話して頂くようお願いします。」
「はあ?全然電話がつながらないからハガキを送っているのに。それなら電話回線を増やすなり、しっかり対応してくださいよ。」
「誠に申し訳ありません。」
 女性オペレーターがそう言うと同時に電話は切れてしまった。相手が意図的に切断したのだろう。林はウウッとうめき声を漏らすしかなかった。林が天井を見上げると臨席の菊池が受話器を握ったまま無言で視線を宙に泳がせていた。
 
 菊池は感情的に捲くし立て続ける男性の声に呆れてしまい、会話を続ける気力を失いつつあった。
「つまりご相談者様は人気ユーチューバーがステルスマーケティングに加担していることを問題視されているわけですね?」
「そうだよ。もう何回も言っているじゃん。ユーチューバーのオノテイが鬼土竜ラーメンのステマをしているの。鬼土竜の店主がSNSでステマの証言をしているから、すぐにオノテイを逮捕しろよ。」
「ステルスマーケティングは景品表示法の禁止行為ですが、違反時の罰則は広告主に対する措置命令になります。処分の対象は広告主であるラーメン店の店主ということになり、現行の法律ではユーチューバーを逮捕という話にはならないですね。」
「何言ってるんだよ。ステマの配信をしてるのはオノテイだから、オノテイを逮捕しろよ。やる気があるのか、こら。」
「繰り返し申し上げておりますが、消費生活センターは消費者トラブルのあっせん解決を図るための機関であり、違反事業者への処分権限があるわけではありません。」
「はあ?法律違反について教えてやっているのに、何だよその言い草は。」
「景品表示法違反の通報ということなら消費者庁の通報フォームからお願いします。」
「お前、仕事をやる気あるのか?こうやって通報しているのに、他へのたらい回しをする気なのか?」
「もちろんご相談の記録はPIO-NET(パイオネット)に登録し、消費者庁も情報共有をします。その上で処分対象になるかどうかは消費者庁の判断です。」
「何だよ。お前はやる気のない給料泥棒だな。お前じゃあ話にならないから上司に代われ。」
「本件のご相談の対応責任者は私です。上司に代わっても対応が変わることはありませんが。」
「お前じゃあ話にならないから代われって言っているんだよ。」
「わかりました。少々お待ちください。」
 菊池は電話の保留ボタンを押すと、課長の原田に声をかけた。
「原田課長。景品表示法のステマ案件の通報の電話なのですが、暴言がひどくて上司への交代を要求していますがお願いしていいですか?」
 原田は目を通していた書類を机に置き、白髪交じりの頭を掻きながらニコリと笑った。
「いいよー、菊池さん。こちらに転送して。」
「お願いします。」
 原田は転送電話を受け取ると回転イスの背もたれに大きな体をのけぞらせながら発声した。
「お電話代わりました。課長の原田と申します。」
「課長なんだな。さっきの相談員じゃ話にならんから聞いてくれ。」
「お言葉ですが対応したのは優秀な相談員ですよ。」
「そうは思えなかったけどな。とにかくステマの犯罪行為をしているユーチューバーを逮捕してほしいんだ。」
「ステマというと景品表示法違反のことですね。それを処分する権限は消費生活センターにはないですね。」
「はあ、お前も仕事をする気はあるのか?」
「今、お前と仰いましたね。当センターはご相談者様との信頼関係を前提として相談業務をしていますが、お宅様とは信頼関係を築くのが難しそうですね。」
「俺は犯罪者を逮捕しろと言っているだけだ。それをしないのは怠慢じゃないのか?ちゃんとやらないとSNSで拡散するぞ!」
「侮辱や脅迫的な言動がありましたので、相談業務を打ち切りすることを通告します。」
 原田はそう言うと受話器を置いてため息をついた。菊池と林がその様子を見て拍手をし、フロアに居合わせた職員は何が起きたのかと顔を見合わせた。原田は軽く両肩を上下に揺らした後にフロアの全員に向かって声掛けをした。
「皆さん、対応困難者の相談はきちんと記録をとった上で遠慮なく報告してくださいね。引き続き業務に取り組んでください。」
 苦情対応をする消費生活相談員の業務というのは、弱い立場の消費者の被害を救済するという崇高なものだが、中には的外れであったり過剰な対応を強要する相談もあり精神が削られるところもある。それらを全て含めて対応するのがこの職業といえ、継続をしていくにはチームワークが不可欠となる。林と菊池には、原田のストライプ柄シャツ姿に後光が差しているように見えた。
 
 入電がなくなったタイミングで、林と菊池は自席でインスタントコーヒーを飲みながら相談内容をパソコンに入力し始めた。カタカタとキーボードを叩く音のみが白いフロアに響いた。
 菊池がキーボード入力の手を止め、不意に林に話しかけた。
「そういえば隣市の(消費生活センターの)相談員の大森さんが退職されたって聞いた?」
「えっ。そうなの?知らなかったわ。」
「先月末に退職されたそうよ。」
 林は合同研修会に出席していた大森が若手ながら積極的に発言していた様子を思い浮かべた。
「大森さん、頑張っていたのに辞めちゃったんだ。」
 大森は菊池に顔を寄せて、声を潜めながら言った。
「どうも離婚することになって、シングルマザーとして働くには相談員の月給では足りないみたい。」
「そっかあ。確かに相談員って仕事の内容はホワイトでいいけど、子育てするには給料は少ないものね。それは引き止められないよね。」
「そうね。手取り15万円でボーナスも雀の涙では、フルタイムの仕事としては難しいわ。」
「結局、消費生活相談員ってビジネスマンの妻がパートとして就業するか定年退職後の公務員OBしか無理っぽいし。」
「仕方ないよね。」
「でも、頑張っていただけに残念だわ。」
「本当に。」
 期待の若手が処遇の問題で辞めていく現実に、二人でため息をついて宙を見上げるしかなかった。
 
 フロアに差す西日が眩しくなる頃、電話の呼び出し音に反応して林が受話器を取った。
「はい。消費生活センターです。」
「あの。ネット通販の広告のことで相談できるでしょうか?」
 若い女性の声だ。20代くらいだろうか。
「広告についてのご相談ですね。承ります。」
「インスタグラムで、あるインフルエンサーがマンゴーこんにゃくという商品の宣伝をしていて、それがダイエットに効果があるって書いていたのです。」
「それは広告として商品の宣伝投稿がされていたということでしょうか?」
「はい。ハッシュタグに広告と書いてありました。」
「しっかり広告の表示はされていたのですね。」
「ええ。それでURLリンクをタップして、販売サイトを見てみたのです。」
「なるほど。」
「でも、販売サイトにはマンゴーこんにゃくの価格や成分の情報は載っていたのですが、ダイエット効果については何も書いてなかったのです。」
「つまりインフルエンサーのインスタにはダイエット効果があるという表示がされているのに、販売サイトにはそれが全く触れられていないということですか?」
「そうなんです。ダイエット効果があるなら買おうかと思ったのですが、そうじゃなければ買いたくないし。」
「それで注文はしていない状態ですか?」
「そうです。インフルエンサーのヒトミさんが勧める商品なら、ファンだから買いたいと思ったのですが、販売ページに書いてあることと違うので止めておこうかと。こういうのって何か問題になります?」
「そうですねえ。ダイエット効果を標ぼうしていいのは効果の認められた医薬品や特定保健用食品だけですから。販売サイトにダイエット効果の表示がないのは医薬品やトクホの認定を受けた商品ではないということですね。」
「やはり、そういうことですよね。それならヒトミさんがインスタの広告でダイエット効果があるって投稿しているのはどうなんでしょうか?」
「よろしくはないですね。」
「そうですか。それならヒトミさんは法律に違反していることになるのですか?」
「法律的には、景品表示法と薬機法の違反になる可能性はありますね。」
「それってどういう罰則があるのですか?」
「商品にダイエット効果が認められていないのに、広告でダイエット効果があるように表示するのは優良誤認になるので、景品表示法では販売サイトに対して表示の訂正をするように求める措置命令の対象になりますね。」
「えっ?ダイエット効果について表示したのはヒトミさんなのに、命令を受けるのは販売サイトになるのですか?」
「景品表示法では、商品の広告だけを行うインフルエンサーやアフィリエイターは適用対象外になっていて、広告に関する責任も販売サイトに求めることになっているのですよ。」
「そうなんですね。それならヒトミさんは無罪ということになるのですか?」
「販売サイトが措置命令の対象になるなら、販売サイトはそうした問題のある表示を行ったインフルエンサーに対して契約の打ち切りや損害賠償請求をする可能性はあるでしょうね。」
「そういうものなんですね。」
「それからダイエット効果を標ぼうしていたとなると、薬機法の違反と認定されればインフルエンサーに対して懲役や罰金という可能性はありますね。」
「えっ!懲役って刑務所に入れられちゃうってことですか?」
「それは余程悪質な場合ですから、早期に謝罪して訂正されるなら、そこまでの話にはならないですね。」
「そうですか。私のこの情報提供で調査されたりするのですか?」
「消費生活センターは事業者と消費者の間の契約トラブルについて相談やあっせんを行っていますが、違反事業者に対する罰則適用は消費者庁や県庁の役割になります。消費生活センターで調査や行政処分を行うことはありません。」
「よくわかりませんが、そういう役割分担があるのですね。」
「そうです。ご相談者様は販売サイトへの注文をされていないので、特に実害が発生しているわけではありませんね?」
「そうですね。私自身が損害を受けているわけではありません。」
「今、お電話で情報提供頂いた事項はPIO-NET(パイオネット)というデータベースに記録させて頂きますので、消費者庁がそれを見て調査が必要と判断すればそういう動きにつながるかもしれません。」
「そうですか。その調査がされるかどうかは教えてもらったりできるものですか?」
「消費者庁の動きはこちらでは一切わからないので、ご相談者様にお知らせすることはありません。」
「わかりました。ご丁寧にありがとうございました。」
 
 受話器を置いた後、林は大きな瞳を見開いて天井を見上げた。
「優良誤認表示と薬効の標ぼうかあ。」
 そう呟きながらノートパソコンのブラウザを起動し、確認のためにヒトミのSNS投稿とマンゴーこんにゃくの販売元であるトクノ商事のウェブサイトを閲覧してみた。そこには電話相談で聞いた通りの内容が表示されていた。
「これはインフルエンサーのヒトミの暴走かな。」
そう言い切るとブラウザを閉じて、画面を切り替えた。新たな画面にはPIO-NETのロゴが映っており、インフルエンサーの投稿したSNS広告にダイエット効果の標ぼうがあり、それは販売サイトには一切記載されていないという状態であることを記録した。これが景品表示法の優良誤認表示と薬機法の誇大広告に抵触する懸念がある旨を書き添えた。
「こうした苦情がどの程度挙がってくるかよね。」
 林が消費生活相談員として出来るのはここまでだ。後は消費者庁や県庁の表示対策部門がどのような判断をするかにかかっている。こうした苦情や相談の声がPIO-NETのデータベースには年間90万件も蓄積されている。データの一つ一つは切実な声だが、巨大なデータ集合体の全体から見たら霞んでしまう。
PIO-NETに相談内容を記録する作業は神に託す気分に近い。神が神託に応じるかどうかは現場にはわからない。
 
 
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【解説】
 
 消費生活センターは地方公共団体が運営し、消費者被害の救済やくらしに役立つ情報提供、消費者教育・啓発などの行政サービスを行っています。
 
 消費者基本法第1条では、「消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力等の格差にかんがみ、消費者の利益の擁護及び増進に関し、消費者の権利の尊重及びその自立の支援」をすることを謳っており、同法第3条では国に、同法第4条では地方公共団体に消費者政策を推進する責務について定めています。
 これが地方公共団体が消費生活センターを運営する根拠となっています。
 
 また、消費者安全法第8条では都道府県及び市町村による消費生活相談等の事務について定めており、「事業者に対する消費者からの苦情の処理のためのあっせん」を行う権限を認めています。
 この消費生活相談員の権限はあくまでも「苦情の処理のためのあっせん」であり、法的強制力は認められていません。(事業者があっせんに応じなければ不調となり相談対応は終了となります)。
 
 景品表示法や特定商取引法等の消費者法の定める禁止行為に違反した事業者に対しては、消費者庁および都道府県が措置命令や業務停止命令などの行政処分ができることになっています。
 消費生活センターは、そうした行政処分を行う権限はありません。消費生活センターが聴取した相談記録は、国民生活センターが運営するPIO-NET(パイオネット)というデータベースにアップロードされます。
 PIO-NETのデータは消費者庁や都道府県の消費者対策部門が参照できるようになっており、そのデータの内容を精査して消費者庁や都道府県が行政処分を行っています。
 

※筆者が書いた特定商取引法等の消費者法について解説するテキスト(PDF)を販売しております。
詳細は以下のテキストリンク先のページをご覧ください。

「インターネット取引と消費者法」(PDF)

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