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エスカレーターの輸送効率と組織のルール設定

人をエスカレーターで1番速く輸送する方法を考えなさい

という課題が出た場合、どのように考えるだろうか。

正解は「片側空けず両側に並ぶ」というモデルである。以下を見れば直感的にわかると思う。

https://mobile.twitter.com/Kyukimasa/status/711074497734975488

両側に並ぶスタイルは、輸送効率という点ではもちろん、安全面でも理に適っていて推奨されているが、実際はなかなか浸透していない。なぜだろうか。

ここでは、「全員が同程度急いでいる」と仮定してルールを作っている。

しかし実際は、とても急いでいる人もいる一方、全く急いでおらず列に長く並ぶのを厭わない人もいる。
全く急いでいない人にとっては、スマホをどのタイミングで確認するかの違いにすぎないだろう。

全体の輸送効率を無視して、個々人の効用(幸せ度合い)の和に着目すれば、片側に並んで片側は急ぐ人用の方が大きくなるはずだ。両側に並ぶスタイルの場合、急いでいる人の効用は落ちる一方で、急いでいない人の効用は大して上がるわけではないので全体としてはマイナスである。

「全体の輸送効率を考えて〜」という経営者視点を持ってエスカレーターに乗る人はほとんどいないだろう。それぞれの効用が最大化される行動を取ると考える方が自然であり、その結果が今のスタイルになっていると考えられる。

組織のルールを決める際にも同じことが言えると思う。

経営者やリーダーは組織の目標を達成することに最適化したルールを考える。組織の目標とは「エスカレーターの輸送効率を最大化する」に、ルールとは「両側に並ぶ」に対応するものだ。最適化によるルール設定は最終目的ありきなので、トップダウンと言い換えられるだろう。

しかし、実際は組織の目標=個人の目標でない人もいるし、目標に対する執着心の程度も異なるのでそれだけではうまくいかない。急いでいる度合いが人によって異なるという話だ。良かれと思ったルールが誰も大して幸せにしていないということも起こりうる。

一方で個人の効用の和に着目したルール設定はボトムアップと言えるだろう。組織のメンバーをモデル化せずに、それぞれにとって何が望ましいかを拾い上げてルール設定するやり方だ。

しかし個人の効用を最大化させた結果がその組織に求められる姿になるかというのはわからない。ボトムアップを突き詰めると縛りを減らして個人の自由にさせることになるが、それで結果を出せたり社会的価値を生み出せるかは別問題なのだ。そこが軽んじられると組織の存続に関わり、結果的に本当の意味で全員が不幸になることも考えられる。

私が主将を務めていた陸上部は、トップダウンによる最適化がうまくいかない典型例だったと思う。陸上競技は個人競技であり、個人の目標=組織の目標となるのは難しいし、選手によって現在地や目指すべき場所も異なる。メンバーの均一なモデル化はほぼ不可能だった。自ずとボトムアップ寄りになりつつ、その中で少しはトップダウン的思考を織り混ぜてやっていた。

同じ陸上競技でも入部の段階である程度均一化されている部活や、チームスポーツの場合は最適な戦略が変わってくると思う。

組織のルールを立てる場合は、全体の目標と個人の効用に着目して、その上でトップダウンとボトムアップ的思考を組み合わせていくのが良いと思う。

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