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24. 玄人VSド素人

【リーマンサット創設手記(仮) No.24】

2015年11月末。

ぼくらは一つの決断をした。J○XAの革新的衛星技術実証プログラムにエントリーすることにした。無償で衛星打ち上げてくれる(もちろん審査に通ったら)、なんてやらない理由がない。だってタダだし。

エントリーする衛星のミッションは「自撮り」。これまで3つのミッションの衛星をそれぞれ開発していたんだけれど、リソースも限られているし、そもそも素人の集まりなのでいきなり3つも同時並行でやるのってどうなんだろう、みたいな雰囲気になっていた。

しかし、今回エントリーしたからには実際に完成品を作らねばならない。「この際、ミッションを一つに絞ってちゃんと作ろう。しかもキャッチ―なやつ」ということで技術メンバーのI氏が「じゃあ自撮りする衛星作りましょう!」と言い出し、「それ面白いね!」と技術メンバーが乗ってしまい、あっさりと方向転換することになった。

で、エントリーにあたり、一度JAX○と打ち合わせをすることになり、またしてもぼくらは有休なり長めのトイレなり理由をつけて平日の午後、お茶の水の○AXAオフィスに乗り込むことになった。話の内容は、審査の基準についてとか必要な応募要項の内容とか、こちらのミッションやプランについて。

事前にわかっていたとはいえ、とにかく書類が多い! ものすごく多い! 税金使ってやっているのだから仕方ないのだけれど、ちょっと頭抱えたくなるボリューム。素人が応募するには無謀なのだろう。でも、ぼくらは腹くくってやることにしたのだ! 通ったらタダなのだから!

頑張ります! JA○Aさん、よろしくお願いします! というところで打ち合わせは終わるはずだった。だって、今回の打ち合わせの目的はエントリーに関する説明と質疑応答なのだから。でもぼくらは違った。

そもそも、企業でも学術機関でもない趣味の団体なのに、6,7人で押しかけたのだ(事前に「そんなにたくさん来るんですか!?」と言われた)。しかもこちら側の参加者は技術のメンバーだけではなく、広報とかデザインの人員も織り交ぜてある。せっかくJAX○に来たのだからリーマンサットの爪痕を残しておきたい。

というわけで、プログラムエントリーについてのやり取りが終わった後、おもむろにぼくらはこう切り出した。

「ぼくらの団体について説明をさせていただいてもよろしいでしょうか?」と。

せっかくJ○XAと膝を突き合わせて話ができる機会だ。日本で最高峰の宇宙開発機関がぼくらにどんな印象を持つのか聞いてみたい。これを逃す手はない。

一般的に考えてみたら、ゾウとアリみたいな関係で、鼻で笑われても当然くらいの関係性ではあるが、幸いというか、この革新的衛星技術実証プログラムの説明会で「変な青いTシャツ来た連中」と認識されてから、イベントなどでちょこちょこ挨拶などしにいくことがあり、「素人で集まっているちょっと変わってるけど面白い団体」と認識してくれるようになった○AXAの方が数名いた。なので、「ド素人集団とはいえ、ちゃんとレスポンスがあるだろう」と踏んでのことだ。

団体の成り立ち、活動のコンセプトなど一通り説明。そして「ぼくらがやっていきたいこと」をデザイナーのY氏からプレゼンしてもらった。

ぼくらが目指すのは「カッコいい宇宙開発」だ。過去、宇宙開発は誰もが憧れるものだった。人間が宇宙に行く、というロマンだけではなく、宇宙機そのものがカッコよかった。例えば、スペースシャトル。そのフォルム自体は年代、性別、地域や国を越えて見るだけで「スゴイ!」ものだった。

しかし、現在はどうか。進化と合理性の過程で目に見えて伝わる機体の個性や機能、魅力を感じることは本当に薄くなってしまった。ぼくらはカッコいい宇宙機を作り、今一度「宇宙開発への憧れ」を取り戻したい。そうすることでごく一部の人にしか注目されなくなってしまった宇宙開発のすそ野を広げるのだ。

ぼくらはある意味で喧嘩を売った。なんせ「今の宇宙機はカッコ悪い」と言っていて、そして今話をしている人たちがその「カッコ悪い宇宙機」を作っている。

始めの反応は「素人風情が何を言っているのか」だった。今の宇宙機がその姿であるのには理由がある。機能性を可能な限り高め、成果を出すように設計されている。「カッコよさ」は機能とは裏返しだ。服と同じ。ファッションならばいい。だが宇宙という極限の世界で成果を出すことができなければ、いくら見栄えが良くとも無駄なものだ。JA○Aの一人にそんなことを滔々と返された。

でも、そう返された後、それを隣で聞いていた別の一人がニヤニヤしながらその人にこう言った。
「でも本当はこういうの好きなくせに」
そう言われてその人は「まあ、そうだけどさ」とちょっと照れ臭そうに苦笑した。

彼らとて、もともとはスペースシャトルとか、ガンダムとか、やっぱりカッコいい宇宙に憧れを持って宇宙開発に携わっている。しかしながら限られた予算と、税金を使うという特性を持った機関であるがゆえに、正当に進めれば進めるほど、その憧れからは遠ざかってしまうもどかしさを感じている。しかし、ぼくらリーマンサットは素人であるがゆえに何にも縛られず憧れに向かうことができる。それはちょっとうらやましいよね、とリップサービスもあったとは思うけれど、ぼくらにとって最高の賛美を受ける言葉をもらうことができたのは、この日一番の収穫だ。

リーマンサットに興味を持ってしまった方はこちらへ
https://www.rymansat.com/

Picture by Rymansat project.


皆さまのご厚意が宇宙開発の促進につながることはたぶんないでしょうが、私の記事作成意欲促進に一助をいただけますと幸いでございます。