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5. MAKER FAIRE TOKYO 2014

2014年11月23日。

ぼくはこの日を忘れない。
なぜならばこの日は、公のリーマンサット発足日であり、リーマンサット史上最も無謀な日であり、ついでにぼくの誕生日だったからだ。

前回話をしなかったがMAKER FAIRE TOKYOとは、年に一度東京ビッグサイトで開催される、ものづくりをしている人たちのでっかい作品展示会みたいなもの。ジャンルとしては、ロボットやドローンをはじめ、VRとかオリジナル電子楽器などなど。そんなところへ、H氏のお誘い(強制)により、ぼくらも出展することになった。

展示会出展にあたり、ぼくらは下記のものをこしらえた。

NASAのフリー画像を使ったポスター(上)とポスターを縮小したポストカード(下)

これしか作ってないのに出展したのはぼくらくらいだっただろう。だってこれは、「MAKE FAIRE」なのだ。展示されているのはカッコいい機械から、便利そうなものから、なんでこんなもん作った? と思えるような品まで幅が広く、どれもモノづくりが好きな人々の血と汗と涙の結晶である。けれどぼくらが作ったのは「ポスター」と「ポスターカード」だけ。それらはあくまで「宣伝ツール」であって「作品」ではない。つまり、ぼくらは展示する作品がないのに出展してしまったのである。会場に赴く前も、展示会の最中も、いつ「お前ら舐めてんのか!?」と怒られるんじゃないかと結構びびっていた。

ぼくはこのイベントを知らなかったのだけど、モノづくり好きの間では結構有名なものらしく、開場と同時にお客さんが波のように押し寄せてきて、あっという間に会場は人でいっぱいになった。

待て。そもそもぼくは宇宙開発に興味がない。興味がないのだから、宇宙開発について語ることもない。そもそも興味ないから「一緒に宇宙開発やりませんか?」などと言えるはずもない。横で宇宙開発について語りながら熱心にポスターカードを配りまくっているO氏とM氏を横目に、ぼくは開始早々途方に暮れた。

ぼくは展示する作品もなく語ることもないのに、のこのことMAKER FAIREにやってきて、出展者として立っている。すごくおかしい。ぼくはここでなにをやっているんだろう。なんでぼくはここにいるんだろう。

しかしながら、来てしまったからには仕方がない。腹をくくってリーマンサット・プロジェクト誕生のお披露目と、あわよくばメンバーの募集をしなくてはならない。

さしあたり、O氏とM氏がどんな説明をしているのかを盗み聞きしつつ、「趣味で宇宙開発する団体を立ち上げます」「素人のサラリーマンが集まって人工衛星作ります」「メンバー募集してます」などとお客さん方に話しかけてみる。すると、ありがたいことに結構話を聞いてくれる。やはり宇宙というコンテンツはなかなかのインパクトがあるらしい。

その中で、「実はずっと宇宙開発やりたいと思っていたんです」という方が年齢問わずたくさんいたのには驚いた。話を聞くと、学生のころとかに宇宙に憧れたけれど社会人になってから全然違う仕事をしている、でもずっと宇宙への憧れは持っていたとか。ずっと宇宙に関わりたくて宇宙開発できる場所をずっと探していたとか。
そんな声を多く聞いて、ぼくらが標榜した「誰でも気軽にできる宇宙開発」というのは需要がある、という予感が実感になった。

そうなるとだんだん楽しくなってきた。「どこまで進んでるんですか?」と聞かれても「ひとつも進んでません。これからやります!」とか、「人工衛星制作の実績はあるんですか」と問われても「これからみんなで勉強しながら作っていきます!」とか、「どうして2年なんですか?」「ノリです!」とか、「いつからやってるんですか?」「今日からです!」とか、嬉々として言っちゃう。

(あと結構聞かれたのが、「ロケット作るんですか?」と。ポスターがロケットだからそう思いますよね……)。


展示会当日前は、何人かに興味持ってもらえればいいや、くらいにしか思っていなかったけれど、調子に乗ったぼくらは、作ったポスターカードはばらまけるだけばらまいて、宣伝しまくってめぼしい人がいたら誘いまくった。

あの時は怖いものなんかなかった。まだ何もできていなくて、失うものなんか何もなかったから。プライドとか面目とかなんもないので、むしろ「ぼくらまだ始まったばかりでなんにもわからないから、知ってる人、教えて! 助けて!」と厚かましいくらいだ。しかも名前が「リーマンサット」と、これはもう馬鹿げている意外にない。そんな感覚でいろいろな人と話をするのが楽しかった。そうしたら、たくさんの人がぼくらのことを面白がってくれて、一緒にやりたいと言ってくれた。

何も持ってないからカッコなんかつけられない。何も知らないから誰かに教えを乞うしなかない。自分だけではできないから一緒にやってくれる人を探すしかない。宇宙開発は高尚で特別で選ばれた人にしか関われないという常識はぼくらがぶっ壊してやる。誰にだってできるし馬鹿なこと言いながらみんなで楽しくやる、そんな宇宙開発をぼくらが作る。ぼくらなら作れる。根拠はないけれど、始めて表舞台に立った時、それができるという確信を持った。

今振り返ると無謀なる勘違い以外のなにものでもないと思えるけれど、あの時のぼくらはなんにも進んでないし作ってないしメンバーも満足にいないのに、印刷したポスターカードをあるだけ配り倒し、さらにはブース紹介のプレゼンまでやって、無茶ぶりで参加することになったMAKER FAIRE TOKYO初日を満喫して乗り切った。

ちなみに一日で気力を使い果たしたぼくらは、配布するポスターカードもなく、二日目を完全サボタージュしてしまった。その時たまたま会場に来たM氏の知人から後日「ポスターしかなく、誰もブースいない。展示の中で一番最低だった」とまったくもってその通りの苦いお言葉を頂戴してしまったのだが、今となってはそれも笑い話である。

皆さまのご厚意が宇宙開発の促進につながることはたぶんないでしょうが、私の記事作成意欲促進に一助をいただけますと幸いでございます。