アフガニスタンのことを少し考えてみる

先日のことだが、アフガニスタンのイスラーム主義勢力ターリバーンが首都カブールに無血入城し、実質的にアフガニスタンを支配下に置いた。つまり、これからターリバーンがアフガニスタンの政府を担っていくということになると思うのだが、この事態に直面して以来世界の報道ではターリバーンに対するネガティブキャンペーンというのか、ターリバーンがまるで悪の権化であり、アフガニスタンで20年にわたって築き上げられてきた民主主義や自由、女性の人権などが崩壊の危機に瀕している、というような論調の報道が目立っている。

わたしは、ターリバーンを支持するものではないが、かといっていたずらにターリバーンを悪者にしたり、ネガティブな論調で持論を展開しようとは思わない。

まず大事なことは、米国や英国など欧米諸国や国際機関、NGOらが何をどう言おうとも、ターリバーンは正当な戦いでアフガニスタンを支配下に置いたのであり、そのことにおいて彼らが非難される筋合いはない。むしろ非難されるべきは前政権であろう。なぜなら、国際社会からの多額の支援金や助成金を有効に使うことなく、また社会にたいしてなんら有効な政策もしてこなくて、貧富の差を拡大させたり、犯罪も決して少なくなかったと聞く。そして、ターリバーンが各地を次々と手中に収める中で、最終的にはガニ前大統領のように多額の国庫金を我が物にして逃亡したのだ。

国際社会は、自分たちと価値観が近い人物や組織、あるいは自分たちの言う通りになる指導者や国を求めているのだろうか。だとすれば、前政権は素晴らしい国だったのだろう。しかし、アフガニスタンはアフガニスタンの人たちのものであり、彼らが歴史や文化も含めて包括的に彼らの意に沿った指導者を選び、国を造っていくことが望ましいとわたしは思う。そういう面では、ターリバーンは現段階ではもっとも相応しかったということではないのか。ターリバーンがどれだけ軍事力を誇示しようが、強権の支配を行おうが、それだけではこれだけ長い間勢力を温存し、また戦闘に勝利することはできない。さまざまな理由はあろうが、ターリバーンを支持し協調している人、地域共同体は少なくないはずだ。わたしたちの好みはほんとうにどうでも良いことであり、アフガニスタンの人たちの多くが現段階ではターリバーンを選択したということを尊重すべきだと思う。

また、はじめからターリバーンを悪と決めつけ、外交関係を絶ったり、すでに起きているように国家資産を凍結したりしていると、ターリバーンとしては好むと好まざるとにかかわらず、違法ビジネスを行ったり、テロという手段に訴えるしか活路を見いだせなくなる。それは、国際社会の責任でもある。もしアフガニスタンの未来をほんとうに考えるのならば、ターリバーンと話し会い、国作りをサポートしていくような協力関係を築くべきだ。

ターリバーンが国家の法としてのシャリーアを語っていることは、確かに懸念材料ではある。というのも、シャリーアはイスラームの宗教的な問題などには有効な部分もあるだろうし、また現代社会に適合させることが可能な部分も大いにあるとは思うが、現在の世界においてそれだけを法として司法制度を立ち上げることは極めて困難だと思われるからだ。実際にシャリーアをあらゆる問題解決手段、あるいは司法の柱としているムスリム国家はほぼ存在していない。また、ターリバーンのイスラーム解釈の問題もある。そのへんを含めて、イスラームの専門家等も含めてアフガニスタンに派遣し、話し合って国家運営を助けていくことを実現させて欲しい。

また今回のターリバーンの勝利は、米国主導の「対テロ戦争」というものが、実は何の実態もなく意味も無かったということの帰結でもある。これは、米国はじめ対テロ戦争を支持し参加し支援してきた国々が認めなければならない現実である。

いずれにしても、ターリバーンがまだこれから統治をはじめようという段階である現在、ターリバーンの言うこと行うこと全てを否定するのではなく、まずは対話の糸口を掴み、アフガニスタンの人々の未来のために国際社会が支援、サポートしていくこと。それしか活路をみいだすことは出来ないのだ。もしそういった方向に国際政治、国際経済が動いていかない場合には、過去に繰り返されてきた対立と流血の歴史が繰り返されることになるだろうし、もちろんそんな事態は誰も望んでいない。ターリバーンもだ。

ターリバーンは、神学生たち、という意味だが、彼らは元来パキスタンなどで学んでいた神学生たちにルーツを持つ。そこでは、いかにイスラーム世界を再興し、平和で活力ある社会を築いていくかということを考え、学び、意志を持った若者たちが集っていたのだ。それらの若者たちの命、そのポジティブな思考、そして運動を、自分たちの硬直した思考や理念に合致しないからといって、頭ごなしに否定できるのだろうか? 最近の記者会見を観ていても、そこからはターリバーンの柔軟性をわたしは感じたのだが、間違いだろうか。かれらも世界の対応を観ているのだ、そしてそれは現段階ではまだ前向きなものであり、世界とターリバーンの協調はまったく開かれているといえる。

アフガニスタンがこの数年、あるいは10年単位でどうなっていくのか。この数ヶ月が大事なときだと思う。国際社会には対応を誤らないように切に願う。

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