人にあげて初めて通貨として機能する支給型トークンの構想について

導入

現代は技術の発展によりますます便利な世の中になっている。人々の需要は便利な技術によって満たされる一方、人の役割が技術によって代用され、評価されにくくなっている。より具体的に言えば、技術を独占する企業が大衆によってその価値を認められ、多くの利益を上げる一方、一般の庶民が出す商品やサービスは評価されにくく、努力を収入につなげることが難しくなっている。この流れは今に始まったことではないが、特に近日の人工知能のめざましい発展と社会実装により、この傾向は今後ますます強化されることが予想される。付録で詳しく見るように、これは人の存在価値がその人が提供する物資やサービスによって評価されるから起きる問題だ。そこで人間の互恵関係において物資やサービスでない評価基準も適用されるよう、従来の経済とは異なる経済システムを一つ提案する。

システム

ブロックチェーン技術により参加者全員にトークンAが定期的に一定量支給される。トークンAはそれ自体通貨として利用できず、貯蓄できないよう支給されてから一定期間経つと失われる。トークンAは別の参加者に割り振ることによって割り振られた参加者はトークンBを獲得する。トークンBは通貨としての機能を持ち、ものやサービスの支払いに使うことができる。
実在の人物に紐づけられた財布(KYC)でのやりとりを想定する。これは一人がたくさんの偽アカウントを作って、トークンAを大量に抱えることを阻止するためであり、後に見る検討事項による機能の追加を簡単にするためでもある。
トークンBは誰のトークンAによって生成したか判別できず、生成される時期もある期間内でランダムであるとする。このことにより参加者はトークンBほしさにトークンAを割り振ってもらうよう交渉したり、強制したりすることが困難になる。また、同様の理由でトークンAは一度割り振られても、トークンBの生成が確定されるまでに取り消すことが可能とする。
このシステムは感謝や応援したい気持ちがその対象の評価につながることを願って設計されています。従来のお金による寄付のような仕組みで同じことをやろうとすると、人々の感謝や応援の気持ちとお金を渋る気持ちがぶつかることになったり、お金を持たない人の感謝や応援の気持ちは反映されにくいなどの問題が起きる。トークンAは誰にも平等に与えられ、他人を応援する以外の使い道を持たないように設計されることによって、それらの問題を回避する。

検討事項

  1. トークンBの希少性を担保するために、徴税などの機能を追加すると良いかもしれない。または緩やかなインフレを許容し、トークンAによるトークンBの生成を全体の一定の割合になるように調節すると良いかもしれない。

  2. 熱狂的に支持される独裁や教祖などによって独裁者や教祖へ一極集中的にトークンAが割り振られることがないよう、トークンBの受け取りに関する上限を設けたり、受け取ったトークンAによって生成されるトークンBの量について工夫することはできる。

  3. トークンが家族や親しい友人といった限定的な関係にのみ集中しないよう、一定期間一人へのトークンAの割り振りに上限を設けたりして、他の割り振りのルールを設定することができる。

  4. 個人に割ふられなかったトークンAは消える代わりに、誰の所有物ともならないよう貯蔵され、投票によって公共事業へと割り振られるように設計するのも良いかもしれない。

付録:問題の分析

人の社会とはそれを構成する人々の互恵関係の形態である。一般に互恵関係の形態は複数あると言えるが、現在の私たちの社会のシステムはそのうちの一つである。社会問題にはさまざまな問題の帰着のさせ方があるが、ここでは社会問題をシステムに付随して起きると考える。私たちの現代社会に起きる問題は私たちが従う社会システムに起因し、システム(すなわち互助関係の形態)を変化させると、社会問題もまた変化し、解消される可能性を持つ。
現代の自由市場の社会は参加する個人が物資やサービスを交換させることによってそれぞれの生活を成立させている。その交換をスムーズに行うために「お金」がそれぞれの物資やサービスに価値という指標を与え、その価値に従う交換が行われる。人々は物資やサービスを提供してそれに即した量の「お金」と交換し、その「お金」をさらに他の物資やサービスと交換することによって生活に必要な物資やサービスを揃えている。例えば会社に勤めている場合、人は労働力をサービスとして提供して、給料という「お金」と交換して、そのお金で食べ物を買ったり家賃を払ったりしている。ここで仮に提供する物資やサービスが評価されることがなければ、その人は生活するのに十分な物資を得られず貧困に陥る。もちろんそうならないように、人々は提供する物資やサービスが評価されるように工夫する。しかし物資やサービスの交換はその交換レートが存在する故、それらを評価する価値という指標は相対的なものである。従って交換に携わる物資やサービスの中で、あるところに価値が集中すれば別のところの価値が低くなるということは不可避である。
科学技術の発展というのは、従来多くの努力やコストを要する作業を効率化する側面がある。このことにより、その技術を有する人は従来より簡単に大量に物資やサービスを提供することができるようになる。一方、技術を有さない人は同じ物資やサービスを従来通りの努力とコストをかけて、従来通りの量だけ提供することになる。ここで技術の発展によって大量生産が可能になった一つの物資もしくはサービスをAとして、そうでないある物資もしくはサービスをBとしてその交換を考える。もしAが大量生産された世界においても従来通りのレートでAとBが交換されるとしたら、Bはすぐに交換され尽くして不足してしまい、それ以上Aが提供されてもBを交換することができなくなる。今度はAとBの交換が常に可能であるようにレートを変化させると、それは従来よりたくさんのAでもってBを交換するということになる。いずれの場合も、従来通りの努力とコストをかけてAの生産を行う人はBにありつける確率が減少し、もしBが生活にとって必要なものであれば、その人は生活難に陥ることになる。
以上の議論より、科学技術は本来人々の生活を豊かにするものであるが、それが物資やサービスの交換という互恵関係にもたらす影響は技術を所有し使用する人とそうでない人の間の格差の増大であることがわかった。特に近日に見る人工知能のめざましい発展はこうした人と人の間の互恵関係に与える影響は絶大であることが予測される。そこで他の形での互恵関係を考えることにする。
物資やサービスの交換という互恵関係において、人々は生活の必需品を物資やサービスの交換によって手に入れるが、これは社会が人評価する際、その人が提供する物資やサービスというフィルターを通して評価すると言い換えることができる。しかし本来人が互恵関係にとって必要な存在かどうかはその人が提供する物資やサービスにのみ依存するものではない。人への評価が物資やサービスに限定される限り、私たちは技術発展の負の側面を解決することはできない。そこで社会の人への評価をより一般化した本案を提案する。

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