大学時代に書いた「炎上系エロCM」についての小論文

■研究のきっかけ

 私が「炎上系エロCM(1)と社会的評価」という題で研究をするのは、CMが広告会社によって熟慮されて製作されるものにもかかわらず、社会問題に発展するCMが数年に一度登場する事実に対して疑問を持ったためである。そして「炎上CM」が生まれ続ける背景には何かしらの広告会社の思惑、そして企業にとってのメリットがあるのではないかと仮定し、本研究に至った。


■「エロ系炎上CM」の具体例と社会の反応

 日本における「エロ系炎上CM」を研究するにあたり、年代を指定しなければ、あまりに調査対象が広くなってしまうため、今回は「東日本大震災以降」のCMに限って調査を進める。(メディア社会において東日本大震災は一種の区切りと言われている) (2)

 『 マヨンナ編(2015年)』
商品名:明星一平ちゃん 夜店の焼きそば 
出演者:広瀬すず
炎上点:当時未成年の広瀬すずが、カメラ目線で「全部出たと?」(後にこのフレーズが差し替えられていたことが裏目に出て再度炎上)。マヨネーズソースの描写を合わせた性的な表象。静岡出身の広瀬すずによる博多弁でのフレーズ。

 『サントリー 頂 絶頂うまい出張(2017年)』
  商品名:頂 
出演者:原明日夏(北海道編)、吉川友(東京編)、笹岡明里(神奈川編)、山崎愛香(愛知編)、柳いろは(大阪編)、エイミー(福岡編)
炎上点:「絶頂」というあからさまな表現と、食事を食べるシーンの卑猥さを指摘。飲み物が不味く見えるという指摘。また、地域の方言と「エロ」を結びつけたことに対する問題。

『UMA味覚糖 ぷっちょ ぷっちょリレー編(2011年)』
商品名:ぷっちょ
出演者:AKB48
炎上点:未成年も含まれるAKBメンバーがぷっちょをキスする様に口移ししていたことの対する不潔さ、卑猥さ。(ぷっちょリレーを真似し、誤飲の危険性があること。)


■炎上系CMに共通する点

 『「エロ系炎上CM」の具体例と社会の反応』の項において、各々のCMのプロフィールと炎上した点を列挙した。しかし、それぞれの炎上した点も元を辿れば、いくつかの根本的な問題・傾向に結びついていると考えた。そこで、以下に先述のCMから読み取れる炎上系エロCMに共通する点を洗い出す。(※炎上したCMの要因が全て「エロ」の表象に由来するわけではない)

 I. 男性目線での描写(女性が出演)
上記3つのCMは全て若々しく、相対的、客観的に「かわいい」女性が出演している
Ⅱ. 食品プロモーションCM
菓子、乾燥麺、酒など比較的男性の消費量が多い「食品」にまつわるCMにはエロさが強調されていることがある。
→『食戟のソーマ』など食事にまつわる漫画に代表される「食事+エロティックな表象」からも食事の描写とエロが繋がることは想像に難くない。
III.有名企業・有名商品にまつわるCM
当然のことではあるが、炎上するためにはある程度の知名度が必要であり、知名度のないCMにおいては、前提として大きな炎上に至らない(※サントリー頂に関しては「サントリー」という企業名は非常に知られているが、「頂」という商品に限っては知名度が相対的に低いという二面性を持っている。)


■企業が炎上系エロCMの放映に走る動機

 CMが炎上することによって企業につきまとうイメージ低下やコンプライアンスの問題は素人目にも想像できる。しかし、それにもかかわらず広告会社はCMを作り続ける。その理由はいかなるものか。

BuzzFeed Newsの取材に対し、「絶頂うまい出張」を作成した電通の複数社員は、匿名で以下のように応じた

‚È‚¢—v–]‚ð‚µ‚Ä‚­‚邱‚Æ‚Í‚ ‚è‚Ü‚·」(3)
以上のことからわかるのは、まず「絶頂うまい出張」はウェブ広告であり、話題性がなければ人々の目に触れることがなかった。また、サントリー自体は大企業だが、「頂」という知名度の低い商品だった。これらの要因が重なり、結果的に炎上するに至った。クライアント側の過激な要望が、電通の広告作りの方法に影響を与えたということだ。
また、ウェブ広告でないとしても時に炎上広告が現れるのは炎上によってブランドイメージが下がることよりも、そのコンテンツを消費者に広めることを優先として捉えていることが原因だろう。さじ加減はそれぞれのクライアントによって違う。そのため、例えば、一度炎上した広告を許可したクライアントは何度もその炎上に走り続けることになる。
また、企業側が炎上した「CM」を公式ホームページ上などから削除したとしても、削除される以前からCMをダウンロードしていた人がYouTube上などに違法アップロードすることによって結果的に、企業側の落ち度として受け取られる可能性を減らしつつも、商品を宣伝することができるという構図が出来上がっている。
 上記の例を代表して、「炎上系エCM」ではないが、ルミネがWebで公開した「働く女性たちを応援するスペシャルムービー(第1話、第2話)」を取り上げる。
「2015年3月にJR東日本の傘下のファッションビルのルミネがƒEƒFƒuCMをつくったところ、セクハラ男を無批判に出演させたとして炎上した事件である」(4)
‚±‚ÌCMに対するTwitterにおける反応は以下の通りだ
「炎上前の平均値を超えた部分の和を取ると44,784個のツイートが得られ、これが炎上関連ツイートと考えられる。」(4)
ここからわかるのはWebCMの内容が炎上した—vˆö‚ÍTwitterに多くあり、44,780のリツイートがあったということは、インプレッション数に関しては100万人以上が見ている可能性が示唆される。JR東日本におけるCM削除が行われたにもかかわらず、結果的に炎上という手段を使って(良い悪いにかかわらず)これだけのプロモーションになるのだ。
 また、マスメディアの相対的な地位の失墜も、炎上せざるを得ない世界を作っているのではないか。
「2015年の日本におけるインターネット広告費は1兆1594億円で、媒体費が9194億円、広告制作費が2400億円となった」(5)
「インターネット利用者数は成熟段階に差し掛かったが、広告市場は大きく伸びたのである」(5)
上記の文章からもわかる通り、オールドメディアの失墜の裏で相対的なインターネットメディアの隆盛があり、そこを広告の場として開拓している。しかし、マスメディアと違い、人はそれぞれがそれぞれの趣味を「オタク」的に楽しむことになり、家族の誰もが触れる様なプラットフォームがなくなってしまった。だからこそ、インターネット広告において話題性を出すためにはある程度の炎上を覚悟し、「バズらせる」ことが得策とされたのではないか。

■炎上しない「エロCM」とは

 今まで、炎上系エロCMについてまとめてきたが、一方で世の中には炎上しないエロCMというものが存在する。炎上系エロCMを相対化するためにもここで炎上しなかったエロCMをいくつか紹介し、その傾向をまとめる。

『オカモトゼロワン 恐竜編(2016年)』
商品名:オカモトゼロワン
出演者:オスとメスの恐竜二頭
評価点:恐竜二頭が避妊なしで性行為を行い、性行為後にメスの恐竜がオスの恐    竜を睨むという描写が評価された。また、CMという前提かつWeb上で公開されたCMという点が炎上を避けた。ŒöŽ®YouTubeにおいて海外からの評価コメント多数。

 『ぴゅあらば セクシーダンス編(2018年)』
  商品名:夜遊び情報サイト「ぴゅあらば」
出演者:ルルディ(AV女優アイドル)
評価点:AV界では有名なルルディが出演し、ダンスを踊り、「エロ」描写も含まれている点。

これら二つのCMにある共通点は、まず、二つともWebCMであり、視聴者がCMの視聴を選択する余地があること、そして、一方はコンドーム、もう一方は風俗紹介サイトであり、元々視聴者がある程度の過激な描写があるということを覚悟した上で観ることができることである。視聴者のCMへの選択余地と、過激さを期待した上での視聴が炎上から世論を遠ざけたのだと考える。一方で選択することができない、また、過激さを求めない、いわゆるお茶の間の「一般的な」CMにおいて「エロい描写」をしてしまうと、炎上に繋がるのだろう。
(※「サントリー頂」のように、例えWebCMでも炎上してしまうことはある。)


■考察

 今回の調査から、広告会社とクライアントはある程度の炎上の覚悟を持ち、あえて「炎上系エロCM」を公開していることもあるとわかった。そして、それが炎上を一度してもなんども止められない原因になるのだろう。しかし、炎上の度合いによっては、CM内の言葉の差し替え、もしくは完全に放映禁止になることもあり、その行為自体を不快に思う視聴者がおり、それがさらに裏目にでることもある。その一方でWeb限定かつ「エロい」前提のCMというのは、視聴者が選択でき、また楽しみながら視聴することができる点で良心的だろう。また、WebCMにシフトチェンジしなければならない今日のメディア事情が炎上を生み出してもいる。今回取り上げたのはごく一部なので、より調査を深めると様々な共通点、差異が見えてくると思う。
 

■脚注、参考文献
(1)炎上系エロCM
本研究をするにあたり、私は性的なシーンを全面若しくは間接的に描写し、結果として炎上するに至ったCMを「炎上系エロCM」と定義する。

(2)「東日本大震災」は区切りと言われている
東日本大震災をきっかけにACジャパンのCMが見直された、または企業が大震災支援のCMを放映するなど、広告業界において最も直近の大きな出来事であった

(3)「Buzzfeed JAPAN」https://www.buzzfeed.com/jp/takumiharimaya/suntory-itadaki (2019/07/31更新)

(4)田中辰雄、山口真一『ネット炎上の研究 誰があおり、どう対処するのか』株式会社勁草書房2016”N4月25日 第1版第1刷発行

(5)笹木裕一『ソーシャルメディア四半世紀 情報資本主義に飲み込まれる時間とコンテンツ』、日本経済新聞出版社、2018年6月18日 1版1刷


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