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なぜ“繊維産地の技術連係”に取り組むのか

繊維のポテンシャルを最大限引き出すことをミッションとし、これまで結びつくことのなかった産地同士の技術連係を軸に、新たな繊維製品を生み出しながら、より良い繊維の土壌を耕していく、MILLEによる産地共創事業。

これが繊維産地の技術連係プロジェクト「LOCAL FABRIC」のコンセプトです。構想から1年以上、自分なりに産地の課題と向き合い、少しでも多くの好循環を生み出し貢献していきたいという想いでこの事業をスタートさせました。

だけど、悲しいかなこの説明だけでは何も伝わらない。それが現状です。

そもそも日本のどこに“繊維産地”があるのか、その認知度は低いし、兵庫県に住んでいる人ですら「播州織とは何か」と問われて「シャツ生地の産地ですよね」と答えられる人は少ない。
そこへさらに“技術”とか“連係”とか言われてもピンと来ないのは当たり前のことだと思っています。

ではなぜそんな事業に取り組むのか。それは

触感や着心地の良いモノを使ってほしいから
日本の繊維産業がこの先も続いてほしいから

この2つが大きな理由としてあります。

今回は、この繊維産地の技術連係プロジェクト「LOCAL FABRIC」に取り組もうと思ったきっかけの一つをお話できればと思います。


納得いくまで突き詰めて気づいたこと

https://blanked-gauze.com/


「“ガーゼケット”というアイテムをご存知でしょうか?」

展示会などでこう問うと2/3くらいの方から「ガーゼケット???」みたいな反応が返ってきます。
その名の通り“ガーゼ生地”でつくった“ブランケット”なのですが、実際に使っているという人はまだまだ少ない印象を受けます。

夏場は1枚で、春と秋は掛け布団と一緒に。個人的には冬でも使ってるとにかく便利な寝具“ガーゼケット”。


起業してまもなく、愛知県蒲郡市にある織物工場・有限会社ナカモリの中瀬社長と一緒にガーゼケットのブランド立ち上げに着手しました。狙いはガーゼケットの良さを伝えること、そして従来のOEM受注とは異なる新しい販路をつくること。

また、せっかく自社ブランドをやるのであれば、とことんクオリティを追求し、メンバー全員が自信を持って噓偽りない提案ができるようにしたいと考えました。
生地づくりには工場長をはじめ、現場の方々の技術に全幅の信頼を置いていたので、特に僕がこだわったのは“吸水性”に関して。

ガーゼケットが最も活躍するであろう夏の寝苦しい夜。そんな時に求められるのは寝汗をしっかり吸ってくれることなんじゃないかなと。
しかし、もともとカーテンやテーブルクロスなどインテリア用品の製造が多かった三河産地では“水を吸うこと”は重要視されてこず、従来のガーゼケットも肌ざわりは良いものの、吸水性という点では物足りないところがありました。

そこで、この『BLANKED』では、ナカモリで製織と縫製をしたのち、今治タオル産地に居る洗いの達人に製品洗いをお願いすることにしました。


細い糸と太い糸を巧みに操り、サラッとモチっとした触感になるよう生地を織る。
石鎚山の伏流水と2種類の酵素をつかって製品洗いをすることで、吸水性が良くやみつきになる肌ざわりのガーゼケットに仕上がる。


企画段階では「良いモノに仕上げたい」という気持ちのみで、特に意識していなかったですが、このBLANKEDが持つ風合いの良さは“産地の技術連係”の賜物なんです。

今だから言えますが、当初、社長には反対されました。
愛知県と愛媛県、字面は似てるけどそれなりの距離を往復させる手間や費用が当然かかります。これまで産地内で一貫生産できていただけに、この案は本当に“面倒な”ことだったと思います。
それでも一緒に、何度もしまなみ海道を渡って、試作に付き合ってくれたおかげで理想の風合いに仕上がりました。

中瀬社長と太田。最後にリンクを貼っておくので、BLANKEDのことをもっと知りたいと思っていただいた方はぜひそちらもご覧ください。


「もう蒲郡は“産地”と呼べんくなっちゃったな」

そんなこんなで完成したBLANKEDですが、産地や工場をとりまく実状はなかなか厳しいものがあります。
ある日、社長がボソッと口にしたこの言葉はグサッと音が聞こえてきそうなほど僕に突き刺さりました。

昨年の夏、自社でつくった生地のほとんどを加工してもらっていた産地内の染工場さんが廃業に至り、嫌でも他産地へ依頼しないといけなくなりました。生地を送るのに1日、返ってくるのに1日、必然と生産のリードタイムは長くなるし、コストも上がる。なによりパートナーとも呼べる存在が居なくなるという辛さは推し量ることができません。

「モノをつくるのが難しい時代になった」

社長はこうも言いました。今までは産地内でモノづくりが完結できたし、仕事もいっぱいあった。だからいかに効率を上げていくかを考え、面倒なことは省いた方がよかった。でも今はどうか、これからはどうなるか、そう考えたときに従来通りのやり方では行き詰まることが容易に想像できました。

全てをネガティブに捉えるのではなく、少しでもピンチをチャンスに変えたい。自分にできることは何か、そんな経緯で考えたのが、
これまで結びつくことのなかった産地同士の技術連係を軸に、新たな繊維製品を生み出すということでした。

LOCAL FABRIC では、こういった産地の厳しい現状を少しでもポジティブに捉え、新たなイノベーションが生まれるチャンスにしていきたい。産地の壁を越え、強みを掛け合わせることで高付加価値の製品を生み出すことができれば、「次はこうやってみよう」みたいな良い流れが生まれるんじゃないかと考えています。

「ローカル」の頭文字であるLを糸に見立て、地域と地域の良さが織り重なっているようなシンボルを制定。


次回はそんな背景で生まれたプロジェクト第一弾の生地・製品に関してお伝えできればと思うので、ぜひご覧ください。

▼BLANKEDの製品詳細はこちらにて
全国の糸・染め・織り・洗いの職人技が結集した、究極のガーゼケット

▼2024年6月29日(土) にはトークイベント登壇を予定しています
【さんち商店街】BLANKED 職人さん、トークイベント。




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