太陽系外衛星の有力候補が『消滅』

っケプラー宇宙望遠鏡の主要ミッション(2009~2013年)で発見された系外惑星「ケプラー1513b」はその周囲に太陽系外衛星をもつ可能性があるとして注目されていました。

今回、ケプラー宇宙望遠鏡の観測データに近年取得した新たなデータを加えてこの系外衛星候補について分析を行った研究を米コロンビア大学の研究者であるDavid Kipping氏とDaniel A.Yahalomi氏が発表しました。

[2310.03802] Not So Fast Kepler-1513: A Perturbing Planetary Interloper in the Exomoon Corridor (arxiv.org)

新しい分析ではケプラー1513bの外側にこれまで知られていなかった惑星が存在することが判明し、研究チームはこの惑星を「ケプラー1513c」と命名しました。当初衛星に由来する可能性があるとされていた特徴的なトランジット発生時間の変化は実際には衛星ではなくケプラー1513cの引力に由来する可能性が高いことが明らかになりました。

太陽系外衛星とその発見方法

太陽系外衛星(系外衛星)とは太陽系外惑星の周囲を公転する衛星のことです。系外衛星を検出する方法としては系外惑星のトランジット(※)に付随して系外衛星がトランジットを起こすことを観測する方法と、衛星の引力によって惑星が揺れ動くことに伴って発生すr特徴的な「TTV(トランジット時間変動)」(※)を利用して検出する2つの方法が提案されています。

トランジットとは、惑星やその衛星が主恒星の手前を横切る際に主恒星の光の一部を遮る現象のことです。

※トランジット時間変動 (TTV)とは、トランジットの発生時刻が、「トランジットが等間隔で起きている」と仮定した場合の予想時刻から逸脱する現象です。TTVは惑星系内に存在する別の惑星の引力によってトランジットを起こしている惑星の軌道に変化が生じることによって発生するというケースが一般的です。

通常、衛星は惑星よりも小さいため、惑星に付随するトランジットとして観測する方法では精度の限界のために成功していません。
一方でTTVを検出する方法は同じ系にある別の惑星の引力が引き起こすTTVと区別することが難しく、これも今のところ成功を収めていません。

系外衛星回廊とケプラー1513b



今回の論文の著者らは、衛星由来のTTVは『系外衛星回廊 (exomoon corridor)』と名付けられた特徴的な短周期の変動パターンを示すという理論を2021年に発表しており、さらにそれに沿ってケプラー宇宙望遠鏡のデータを精査した結果、条件に合致する惑星として発見され2022年11月に発表したのが、今回の研究対象となったケプラー1513b(別名KOI-3678.01)です。

The exomoon corridor: Half of all exomoons exhibit TTV frequencies within a narrow window due to aliasing - NASA/ADS (harvard.edu)

[2211.06210] A search for transit timing variations within the exomoon corridor using Kepler data (arxiv.org)

ケプラー1513bは半径0.53天文単位(1天文単位=1億5000万km, 地球と太陽の距離に相当)の軌道を160.9日周期で公転する巨大ガス惑星で、地球の8.6倍の半径があります。質量は半径から推定して地球の約50倍とされています。


『系外衛星回廊』理論の登場によって衛星由来のTTVと、同じ惑星系内にある他の惑星由来のTTVを区別することは以前より容易になりましたが、それでもなお、他の惑星が衛星由来の短周期のTTVに似た短周期の変動を引き起こしてしまうことがあり得るという課題は残っていました。
ただし、ケプラー1513bの場合は、他の惑星が存在していた場合に発生するはずの長周期のTTVが見られないという点から、ケプラー1513系内に他の惑星は存在せず、したがって他の惑星が短期TTVの原因となっている可能性は低いという状況証拠がありました。これらの好条件を満たす惑星はケプラー1513b以外に見つからず、ケプラー1513bは系外衛星を持っている惑星の有力候補とされていました。ただし、ケプラー主要ミッションの4年間の観測期間は長周期のTTVを捉えるには不十分だった可能性があり、その場合「ケプラー1513系にケプラー1513b以外の惑星が存在しない」という衛星説の前提が揺らいでしまうことが懸念事項でした。

新たな観測と再分析

今回の研究では、2022年以降に新たに観測されたケプラー1513bのトランジットの観測データを加えた上で衛星の存在を再検証したものです。今回追加されたデータは、系外惑星観測衛星TESSや地上の中小型望遠鏡によるものでした。これにより観測カバー期間がケプラーのデータ単独の場合と比べて大幅に伸び、長周期TTVの確実な検出が可能になりました。
この新しいデータセットを分析した結果、当初の懸念通りケプラーの観測で見逃されていた長周期のTTVが存在することが判明しました。このTTVはケプラー1513bの外側にある公転周期800日で土星クラスの質量を持つ惑星が引き起こしていると推定されました。新しい惑星はケプラー1513cと命名されました。「系外衛星回廊」とされた短周期TTVについてもケプラー1513cが引き起こしているものとしたモデルの方が良好な結果が得られることが分かりました。この結果、ケプラー1513bの周りに系外衛星が存在することを支持する証拠は消滅しました。







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