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かなりでかい赤色巨星を公転する系外惑星が確認される


赤色巨星を公転する太陽系外惑星候補HD18348bの実在を確認したとする研究が公表されました。

この研究は2023年3月15日に 韓国天文研究院のLee Byeong-Cheol 氏を筆頭とする韓国の複数の研究機関の研究者から成るチームによって2023年3月15日にarXivに投稿され、3月1617日に公開されました。

[2303.08357] A search for exoplanets around north circumpolar stars. VII. Detection of planetary companion orbiting the largest host star HD 18438 (arxiv.org)


HD18348bは質量が木星の21倍もある大質量の惑星で、今後褐色矮星に分類しなおされる可能性もあります。
半径2.1天文単位(1天文単位=地球と太陽の距離)の軌道を2.2年周期で公転しています。

HD18348bは2018年に今回と同じ研究チームによって惑星候補として発見されていましたが、惑星だと確認されたのは今回が初になります。

(画像出典:Lee et al., 2023 fig.1)HD18438の視線速度の測定値(黒丸)と惑星による変動とした場合の計算値(曲線) 下は測定値と計算値の差。矢印以降のデータポイントは今回の研究で新たに追加されたもの。

HD18438bの主恒星HD18438は太陽の88倍の半径を持つ赤色巨星で、
研究の公表時点で既知の系外惑星の主恒星として最大サイズの天体となりました。

この恒星の半径は天文単位に換算すると0.41天文単位にもなります
もし太陽の位置にHD18438を置いたら水星(軌道半径0.39天文単位)は飲み込まれる計算になります。

なお、赤色巨星の半径は太陽の数倍程度のものから1000倍を超えるものまで様々です。
HD18438を有名な赤色巨星(括弧内は太陽比の半径)と比べると、
ベテルギウス(800倍)やアンタレス(700倍)よりずと小さいのですが、アークトゥルス(25倍)やアルデバラン(45倍)よりも大きなサイズを持ちます。

なおHD18438は絶対等級が明るいにもかかわらず太陽系から770光年という遠方にあるため見かけの等級は5.5等級に留まっています。
それでもこの見かけの等級は、系外惑星が発見されている恒星としてはかなり明るい部類です。

この研究はSENS (Seaarch for Exoplanet around Northern circumpolar Stars)という観測プロジェクトによるものです。
このプロジェクトは北半球から継続的に観測が可能な周極星の周囲に系外惑星を発見することを目標に2010年から観測を行っています。
SENSはこれまでに20個以上の惑星や惑星候補を発見しています。
SENSのは韓国のボヒョンサン (普賢山, Bohyeonsan) 天文台の1.8m望遠鏡で観測を行っています。
1.8m望遠鏡には BOES (Bohyeonsan Observatory Echelle Spectrograph) という高分散分光器が設置されています。
SENSのチームはBOESを使って視線速度法による惑星の観測を行っています

HD18348bは2018年に今回と同じSENSの研究チームによって惑星候補として既に報告されています。
赤色巨星では恒星由来の視線速度の変動が強く出る傾向にあることが知られており、視線速度の変動を惑星の存在と結び付けるのは容易ではありません。
2018年の時点ではHD18348の視線速度の変動は惑星ではなく主恒星の脈動に由来している可能性が高いとしてHD18348bは「惑星候補」という扱いに留まっていました。

今回の研究は2018年以降4年分の観測データを新たに追加した上で再分析を行いました。
その結果、視線速度の変動周期は以前の分析よりも少し長い803±5日という結果になりました。
主恒星の活動性や光度変化については800日に近い周期性は見つからず、変動が主恒星に由来する可能性は低いと見られています。

視線速度法と恒星由来のノイズ

視線速度法とは、惑星の公転運動に伴って恒星の視線速度(奥行き方向の速度成分)が周期的に変動することを捉えることによって系外惑星を観測する手法です。公転周期、惑星の下限質量や軌道の形状(軌道離心率)を知ることができます。
視線速度の変動は恒星の光に生じるわずかなドップラーシフトを高分散分光観測で検出することによって行います。

視線速度法の欠点として、主恒星に起因するスペクトル線の変動がドップラーシフトと混合して、

  • -惑星由来のドップラーシフトの変動がノイズに埋没して惑星の検出が困難また不可能になる

  • -惑星由来の変動に似た偽の周期変動を生み出して惑星の誤検知の原因となる

といった問題を引き起こします。

このような課題に対して、ドップラーシフトと恒星由来のノイズを見分ける技法が研究されてきました。そのような技法の前提として、

  • -惑星の影響は「純粋に」ドップラーシフトとして現れるはずだ。

  • -純粋にドップラーシフトだけで視線速度の測定値が変動しているならスペクトル(=波長分解した光)の「パターン」(スペクトル線の相対強度や形状など)自体は全く変化せずに波長だけが並行移動するはずだ。

  • --恒星由来の変動なら、スペクトル線の移動と同時に「パターン」自体が変わってしまうはずだ

スペクトルのパターンといってもイメージしにくいと思われるので、実例を出すと次のようなものです。横軸が光の波長、縦軸がその波長成分の強度を表し、特定波長で強度が落ち込んでいる部分がスペクトル線(吸収線)です。下のグラフに写っている波長わずか5ナノメートルの帯域だけでも膨大な情報が含まれていることが読み取れます。分光データ全体では300ナノメートル程度の波長帯なので人間の目で見てどうにかなるレベルではなく、パターンの照合や視線速度・活動性指標の抽出等の各種処理は専らコンピューターによる計算を通じて行われます。

画像出典(ELODIE分光器アーカイブおおぐま座47番星の実際の分光データ)波長516.2-521.2nmの範囲を表示

という考えがあります。このような考えを実際の分析に反映する手段として、スペクトルのデータを分析して視線速度を抽出する際に、同時にスペクトルのパターンに関する情報を恒星の活動性指標として抽出し、

  • 視線速度と同じ周期で変動する活動性指標が存在しないか

  • 視線速度と活動性指標の間に相関関係が生じていないか

の2点についてチェックを行います。視線速度と活動性指標の同期や相関が生じていれば、その変動成分は恒星本体に由来する可能性が高いと判断されます。

活動性指標としては、

  • 恒星表面の不均一性(黒点や白斑)の影響を受けやすいスペクトル線の強度

  • スペクトル線の形状、対称性(バイセクター指標)や拡幅の度合い

が使われています。


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