ALMA望遠鏡が捉えた惑星形成現場の様子がおかしい


画像出典 Ribas et al., 2023 fig.1



ALMA
電波望遠鏡がPDS66という恒星の周囲にある原始惑星系円盤を撮影したという研究が公表されました。

The ALMA view of MP Mus (PDS 66): a protoplanetary disk with no visible gaps down to 4 au scales - NASA/ADS (harvard.edu)

この研究は英ケンブリッジ大学やヨーロッパ南天天文台に所属するアルバロ・リバス  (Áómez)氏を筆頭とするイギリス・チリ・ドイツ・フランス・アメリカの研究者からなる国際チームによって2023年2月22日にプレプリントサーバーのarXivにプレプリントとして投稿され、24日に公表されたものです。

原始惑星系円盤とは、生まれたばかりの恒星の周囲にのみ存在する塵とガスからなる円盤構造のことで、惑星系が形成される現場だと考えられています。

PDS66は別名「はえ座MP星」といい、南天の小さな星座であるはえ座の方角に約300光年離れた位置にある年齢500万年の若い恒星で、1990年代に最初に原始惑星系円盤の存在が示唆され、2009年にハッブル宇宙望遠鏡によって原始惑星系円盤が直接撮影されました。

なお比較として太陽の年齢は46億年です

これまでの経緯

原始惑星系円盤は惑星形成論に直接的な証拠をもたらす研究対象として近年注目が高まっており、原始惑星系円盤を電波や赤外線で観測可能な観測設備が相次いで実用化されています。

2014年にチリのアタカマ砂漠に完成したALMA (Atacama Large Millimeter Array) は66台の電波望遠鏡で協調観測を行い、干渉法という技法で高解像度で電波観測を行っています。

これらの観測では原始惑星系円盤には同心円状のリングや隙間構造などの多種多様な内部構造が普遍的に存在することが明らかになってきています。

次の画像はALMAが観測したさまざまな原始惑星系円盤の電波波長帯での姿です。


画像出典 : Long et al, 2018

PDS66も2010年代に入って赤外線観測装置のGPIやSPHEREによって観測されていますが、他の原始惑星系円盤と異なって、内部構造は不鮮明で単純なものしか見つかっていません。

PDS66の塵の円盤の半径は60天文単位ほどで太陽系の海王星の軌道半径の2倍ほどの半径まで拡がっています。このサイズは太陽に似た恒星の原始惑星系円盤としては標準的なものです。

画像出典 : Avenhaus et al., 2018  SPHEREが撮影SたPDS66の円盤。4枚の画像は観測波長と画像処理の違いによるもの。中心の赤と緑の丸はコロナグラフの位置に対応する。

SPHEREで観測されたPDS66の内部構造は次のような単純なものでした

  1. 中心領域にある明るい円盤

  2. 半径80AUの距離にある不鮮明な明るいリング

  3. 1と2の間を埋める幅が広く不鮮明な隙間

なおPDS66に対しては2010年にすでにAPEX電波望遠鏡により電波観測が行われていますがこの時は円盤のサイズが測定されたに過ぎませんでしたPDS66に対して内部構造を観測可能な高解像観測が電波波長帯で行われるのは今回の研究が初となります。

観測結果

(冒頭画像のの再掲)

今回の電波観測では上記の赤外線観測で見られた隙間やリング構造に対応した電波の濃淡構造は発見されませんでした。

これは濃淡に乏しいということであり、塵やガスに由来する放射自体は確実に捉えられました。それに基づいて原始惑星系円盤のサイズや質量は次のように見積もられました。これらの数字は従来の観測と整合的なものでした。

塵の円盤の半径は60AU
ガス円盤の半径は130AU
塵の総質量は木星質量の0.14+0.11/-0.06倍
ガスの総質量は木星質量の0.1-1.0倍
ガス÷塵の質量比は1~10程度

赤外線観測は散乱光、つまり主星の光が円盤の塵を照らし出す光を捉えるのに対し、電波観測では塵そのものが放つ電波を主に捉えるという違いがあります。そのため赤外線で見えていた構造は、実在する塵の濃淡ではなく、内側の円盤がその外側に影を落としたものだという可能性が高まりました。

研究チームはモデルで再現したデータと実際のデータを比較するなどの分析も行いましたが、内部構造の存在を示す兆候は全く得られませんでした。

原始惑星が存在しない?

今回の研究では4AUという高い解像度を達成しましたので、隙間やリングなどの内部構造が存在するとしてもこのサイズより大幅に小さいことになります。内部構造が存在しないことに対する単純な説明は、円盤と相互作用をするような十分な質量の原始惑星が形成されていないということです。この考えに基づけば内部構造が検出できなかったという事実はこの円盤内に存在する原始惑星の質量の上限を推定するのに使えます。

惑星質量と円盤に生じる隙間の大きさの関係はこれまでの理論研究である程度関係式が推定されています。

この関係式によれば惑星質量や軌道半径が大きいほど広い隙間が形成されることが予想されます。このため惑星質量の上限は円盤の外側領域にあるものほど小さくなります。

「4AU以上の隙間があれば今回の観測で検出可能だったはずだ」という仮定に基づいて各領域ごとに求められたの惑星質量の上限は以下の通りです。数値に幅があるのは関係式の不確かさを反映したものです。

  1. 10天文単位以遠で木星質量の0.5~4倍

  2. 20天文単位以遠で木星質量の0.05-0.5倍

  3. 40天文単位以遠で地球質量の2倍~20倍



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?